第271話 おもちゃ
ウードは大魔法を至近距離から受けたというのに、ボロボロになった衣装以外、何ら変わりなく空に佇んでいる。
「やってくれたな、笠鷺」
「はんっ。今のは完全に捉えたと思ったのに残念だぜ」
「たしかに、危なかった。お見事と言える。だけど、今の魔法。俺は覚えた」
「ああ、そうだろうな。でも、ぶっつけ本番では難しいだろ?」
「まぁな。圧縮したミカなら可能だろうけど、あの爆発は起こせない。それはいずれ覚えるとして、お返しに、お前の戦い方とは真逆の戦い方を見せてやろう」
「真逆だと?」
「笠鷺、お前の戦い方は一撃必殺に近い。そこまで誘導するためにいくつかの手順を踏んではいるけどな。だけど、一撃必殺でなくても、一手一手着実に石を打てば勝負はつくのさ」
そう言葉を出し、ウードは亜空間魔法を唱え黒い渦を生み、そこから先の尖った金属の棒きれを取り出した。
「これ、なんだかわかるか?」
「わかるわけないだろっ」
「だろうな。これはお前の世界よりも、少しだけ先に進んだ世界いるマヨマヨの武器だ」
「えっ?」
ウードは眉を顰める笠鷺に向かい、金属の先端部分を向けた。
「さぁ、どうするかな?」
彼女の親指が金属の棒の表面を押すと、まっすぐ赤い光が笠鷺に向かって飛び出してきた。
彼はそれを結界で防ぐ。
そして、その正体に気づく。
「今の……レーザーってやつか?」
「ピンポ~ン、正解。もっと凄い兵器もあるが、このレーザ―には面白い特性があってな。流れが一方向にしか存在しないんだ」
「だから?」
「おや、わかんないのか? 流れが一方向、つまりは変容する流れがない。俺たちは形を変える流れを操作することができても、決まった方向にしか流れが無いものは変えられないんだよっ」
言葉の終わりを跳ねて、再度レーザーを放つ。
笠鷺も再度結界でそれを防ぐが、ウードはレーザーの射出を止めない。
「制御し、操ることのできない攻撃はそうやって結界で凌ぐか、躱すしかない。そして、そうしている間にも、お前の体力や魔力はどんどん失われていく」
「くそっ、えげつない真似を! だけどな!」
笠鷺は自身の周りに水の魔法で濃霧を作り出した。
霧を使い、レーザーを拡散しようと考えているようだ。
その霧を目にして、ウードは厭らしく口を捻じ曲げた。
「拡散できるように濃い霧を纏ったか。じゃあ、俺はこうする」
彼女は指をパチリと跳ねて、笠鷺の真上から雷の魔法を落とした。
濃い霧は雷の電気をよく伝え、霧の中に身を隠した笠鷺の身体に
「ぐはぁぁっ」
雷撃を受けた笠鷺は真っ逆さまに地上へと落ちていった。
だが、地上にぶつかる前に体を起こし、辛うじて足から地面へ降り立つ。
「はぁはぁはぁ、クソがっ」
笠鷺は地上からウードを見上げる。
空からはウードが笠鷺を見下ろす。
「よしよし、無事だな。霧の中で一応結界は張っていたみたいだし。じゃあ、物置きをひっくり返すか」
笠鷺の周囲にいくつもの黒い渦が生まれる。
これは亜空間魔法。
そこから魔力の籠る無数の剣や槍などが飛び出してきた。
「この、何だってんだ!?」
それらを結界で弾くが、一部は結界を突き破ってくる。
だが、彼は地面を転がりながらもなんとか躱し切る。
そして、再び起き上がりウードに目を向けようとした時、一筋の光が地面から飛び出してきた。
「ぐあぁっ!?」
一本の剣が笠鷺の太ももを切り裂いていった。
その剣の正体は……サシオンがくれた剣。
ウードが笠鷺のミカに襲われた際、地上へ落した剣だ。
ウードは草むらに埋もれていた剣を魔力で操り、笠鷺を切り裂いたのだ。
彼女は空から笠鷺へ言葉を落とす。
「どうだ? 派手な攻撃はなくとも、手順を踏めば、地味な攻撃でも着実に相手を弱らせることができるだろ」
笠鷺は彼女の声に応えず、太ももから流れ落ちる血を止血するため、癒しの力を宿した両手で傷を押さえている。
だが、その傷は深く、かなりの魔力を消費しているようだ。
ウードは薄ら笑いを浮かべて、手にしている金属の棒を見つめた。
「フフ、実を言うと、この武器の出力を上げればあの程度の霧なんか目じゃないんだよ。まぁ、今回はお前にこういう戦い方があるってことを学んでもらおうと思ってな。どうだった、勉強になっただろ? うふふ」
彼女は屈託のない笑みを見せた。
その笑顔の奥にあるのは
ウードは笠鷺を
だが、笠鷺は怒りを発露することなく、回復に専念する。
なんとか傷は塞がり、血は止まったが、肩の上下は止まらない。
疲れが、彼を覆い始めていた。
ウードは大仰に首を横に振り、ため息を吐き出す。
「はぁ~、ついに体力と魔力に陰りが見え始めたか。ここで魔法を使うと魔力を回復させてしまうから、マヨマヨの武器に頼るとするかな」
空から、レーザーを打ち続ける。
笠鷺はそれを転がりよけ、最小限の魔力で防ぎ、躱し続ける。
「ほらほら、どうした? 反撃してこないのか? フフ」
ウードは薄っすらと笑みを浮かべ、血と土に塗れながら転がり続ける笠鷺を見つめる。
一方、笠鷺はというと、致命傷を避けるのかやっとで攻撃を返すなんてとてもできるような状態ではない。
それどころか、傷ついた体の回復もままならなくなってきている。
ただ、逃げ続けるだけで、彼の体力も魔力も失われいく。
――これは嬲り
少年は体中に傷を負い、それでも悲鳴を上げず、死から逃れようと地面をのたうち回る。
その憐れな姿に、戦いを見守ってたフォレは心を痛めていた。
(なんてことをっ。もう、勝負はついているっ! ヤツハさん、あなたはなぜこんな惨いことをっ!?)
フォレは瞳にヤツハを映した。
そこにあるのは、楽し気におもちゃで遊ぶ少女の姿。
しかし、そのおもちゃは血の通った人間。
(もう、これ以上は!!)
フォレはヤツハの蛮行を止めるべく、一歩前に出ようとした。
そこに攻撃を躱し続けていた笠鷺が転がってきた。
笠鷺はフォレを目にして、警戒を抱き、すぐに離れる。
そして、地面に立ち、よろよろとウードの元へ向かう。
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