第237話 コトアの独白
――私は過ぎ去った場所を見つめ、体験する。
無とは、光も闇もない、なにもない場所。
だけど、無に迷い込んできたドリアードの力を借りて、私はアクタを創った。
彼女は厳しくて、私に何のヒントも与えずに創造された存在への付き合い方を学ばせていく。
生まれたばかりの彼らは時間さえ知らない者たち。
私はとりあえず、でっかい時計塔を用意した。
だけど、彼らは時計の意味を理解してくれない。
前途多難……。
仕方なく、水や砂の流れ、太陽の動きを駆使し、何とか時間という概念をアクタに定着させた。
そこでようやく時計塔をいずれ王都と呼ばれる場所に置いたんだけど、アクタに存在する時間概念が弱すぎて、あっさり止まってしまった。
ドリアードは邪魔だから撤去しろという。
でも、私はこの時計塔のデザインが気に入った。
問答の末、無理やり時を刻むことを忘れた時計塔を置いた。
とはいえ、このままにしておくのはもったいない。
なんとか動けるようにならないかと、頭を悩ませる。
そこにドリアードがダークエネルギーの結晶を持ってきた。
これは有の世界の高エネルギー体。
この力なら時の歯車を動かすために必要な膨大なエネルギーを賄えるかも!
そうして、時計に時間を思い出させようとしたけど……うごかな~い! もうっ!
無を司る私が言うのもおかしいけど、無、うざい。
これらの他にも、ドリアードの力を借りながら世界の創生に必要なものをドンドン揃えていった。
こうした試行錯誤の上、何とかアクタを命溢れる世界にまで昇華させることに成功した。
私って、やっぱ神!
…………ほとんどドリアードのおかげなんじゃ? というツッコミは聞こえないからねっ。
――さて、話はところ変わり、ある日のこと、一人の少年がアクタに舞い込む。
それ自体はいつもの光景だった。
この世界には有の世界から情報が落ちてくることがある。
その情報たちは二種類に分けられる。
一つは偶然。
有の世界も完璧じゃない。
世界に綻びがあって、そこから零れ落ちる情報がある。
私はそれをさっとすくい上げて、自分の懐に入れる。
その姿を有の世界の連中は物乞いだと嘲笑う。
ふんっ、笑いたければ笑えばいいよ。世界を構成するために必要なんだもん。どんな小さな情報でもね。
二つ目は投棄。
有の世界で不要と判断された情報が投棄されることがある。
その多くは咎人という存在。
彼らは元の世界で罪を負い、『直接』、私の世界に捨てられた。
そう、直接……だけど、あの少年は無の世界を経由して、私のアクタに訪れた。
季節は秋。
私は冬ごもりの準備と称して、群島国家グレナデンの銘菓という銘菓を買い漁っていた。
もちろん、買わなくても手に入れることはできるんだけどね。
でも、買い物という行為が面白くて、私はいつも自分の欲しいものはちゃんとお金を払って購入していた。
因みにお金は、サシオンの懐からこっそり抜き取っている。
私は数十段に重なったお菓子たちの箱を目にする。
これがサシオンにバレたらお金のことを含め怒られるので、何とか隠さないといけない。
ほんっと、口やかましんだから。サダみたいに肩の力を抜けばいいのに。
――サダこと
それはアクタへ訪れた二人の水野。
訪れた当初はただのおじさんだったんだけど、気がつけばアクタ最強を背負うおじさんになってた。
それはもう凄いのなんのって、弱神程度なら対神武器を使わず生身で殺せるくらいに……。
そこで、私の仲間にならないって声を掛けてみた。
野放しにするには危険な存在だし、マヨマヨたちを監視させるのにはもってこいだったしね。
一人には断られたけど、もう一人の水野にはある条件を提示することで、あっさりとOKしてくれた。
その条件とは『水野の妻と娘が事故に遭う前の時間に還すこと』。
ここアクタは、時間の流れが有の世界とは違う。
神かそれに準ずる、もしくは超える力を持つ者じゃないと、帰還の時間の特定は難しい。
幸いなことに、水野には神に準ずる力はあってもそれは破壊のみで、万能性には欠ける。
サシオンは知識はあるものの、力は及ばない。
さて、この条件だけど、誘いを断った水野も同じ機会を得ることができる。
時間の特定が可能なら、すでに事故で妻と娘を失った水野には事故が起きる前の時間へ戻してあげられるってわけ。
でも、彼は……。
「アクタに来て、百年以上。もう、気持ちの整理はついたよ。だから、命を
だってっ。固いよね~。
でも、もう一人の水野は妻と娘が生きている状態でアクタにやってきた。
彼に、やがて愛する人たちは事故に遭うと伝えると、彼は家族を助けたいと必死に願った。
その思いを利用さえてもらうことにした。
こうして、彼に協力の見返りを約束して仲間に引き込んだ。
正直言えば、彼を還すのは難しい。
ちょっとでも結界に油断があれば、アクタの情報は無に消えちゃう。
でも、私は神。
全力で頑張れば、水野一人くらいなら還せる。
とまぁ、その時の私は、
ま、その後、状況が二転三転するんだけどね。
話は戻り、私はグレナデンの銘菓たちを自分の部屋に転送する。
因みに、私の部屋はアクタのみんなから無上世界と言われてるらしい。
最初に言い出したのは教会の人たち。
あの人たちはどうでもいいことを小難しい言葉や教えに変えるのが趣味みたい。
「よし、サシオンにバレずお菓子を隠せた。じゃあ、お次は~」
次にロクムの銘菓を購入しようと場面を切り替えようとした。
そこで奇妙な気配を感じ取る。
「これは?」
場面を変えて、草原へ降り立つ。
そこには一人の少年がいた。
もちろん、彼からは神である私の姿は見えない。
私は少年の姿をしっかり目にして、びっくりおったまげた!?
「うそ、この子。無の世界を経由して来てる!」
これは絶対にありえない話。
想像を反映する無の世界は有の存在にとって毒。
想像豊かな有の存在は自身の想像に押し潰されるはず。
「どうやって、ここへ? あ、受信だ。ピピピッと」
私の周りに様々な場面が浮かぶ。
そこから、現在の私の意識に、多くの別の場面にいる私の呼びかけが届く。
他時間、多次元に同時に存在できる私は、ここで重要な計画を知る。
これは数多の私が一つの目標へと歩み始めた瞬間。
私は場面を飛ぶ。
それは近藤ちゃんとの出会いの場面。
地獄の刑罰である、永遠回廊を彷徨う彼が監視の目から逃れた瞬間……。
すでに何が起こっているのか知っている私は、彼にこう声を掛けた。
<永遠回廊かぁ~。ひどい刑だよねぇ~>
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