第226話 援軍

 突如現れた、エルフの弓騎兵隊。

 敵味方双方にとっては突如でも、俺にとっては信じていた希望。


 戦争前夜、先生はこのことを伝えるために俺のところへ訪れた。

 ただし、本当に援軍として現れることができるのかわからなかったので、今まで伏せていた。


 さらに、みんなに内緒にして驚かせたかった、というそんな理由で……。


(まぁ、危機的状況で援軍として現れるのは気持ちいいし、憧れるのもわかるしなぁ。ともかく、これで戦場の流れは変わるはずっ)


 

 俺はブラン軍へ視線を向ける。


 すると、一度は戻った後方の部隊が再び切り離され、背後に迫っていたブラウニー軍に攻撃を仕掛けていた。

 これはティラの指揮だろうか? それともポヴィドル子爵や他の貴族?

 誰であろうと、素早い判断。

 

 これにより、ブラン軍を挟みこもうとしていたブラウニー軍は逆にブラン軍とクレマたちに挟撃される格好となった。


 

 クレマ率いるエルフの弓騎兵隊は馬を巧みに操り、敵軍に矢の雨を浴びせ続け、さらには魔法までも飛ばす。


 彼らの数は二千程度だが、エルフが得意とする弓と魔法の効果は高く、大軍であるブラウニー軍を追い詰めていく。

 また、想像もしていなかった援軍に、ブラウニー軍は混乱を極め、士気も落ちていく。


 だが、まだまだ数的優位はブラウニー軍にある。

 油断はできない。



 クレマとエクレル先生は数騎の護衛をつけて、敵の薄い腹を横切り蹴散らしていった。

 馬に跨り、釘バット手にして振り回しながら突っ込んでいくクレマの姿は戦場とはかけ離れた姿。

 どちらかというと、大昔の暴走族……跨ってるのは馬だけど。

 彼女の後ろには先生と数騎のエルフがついていく。



 敵を突破したクレマはティラの前に立ち、馬上からなにやら声を掛けている様子。




――ブラン陣営



「あんたがブラン=ティラ=トライフルだな?」

「そうだが、お主たちは?」

誇名紗コナサの森の総長、クレマ=ノッケルン。ヤツハの姉御の義のために参上した!」

「そうか、お主がコナサの森の。助勢、感謝する! クレマ=ノッケルン!」

「おう、任せときな。そんかわり、礼の方を期待してるぜっ」


 この物言いに、ポヴィドル子爵は壊れたモノクルを震わせ声を大にした。


「助力に感謝するが、あまりに無礼であろう!!」

「なんだ、おっさん!?」


「構わぬっ!」

「ブラン様?」

「ん?」


「ここは戦場。礼儀など無用」

「へぇ~、話がわかるじゃねぇか、ちっちゃなお嬢ち」

「ただしっ! 戦場だけだ。クレマよ、お主も一族を束ねる長ならば、場を見極め弁えよ」


 

 ティラは幼き身体に見合わぬ、威風堂々たる王の所作を見せつける。

 それを受けて、クレマは笑みを零すと、背を正し凛と構えた。


「フフ、さすがは王……戦場という場で気が高ぶっていたとはいえ、礼を失する振舞い……」


 クレマはくるりと釘バットを回転させて、敵兵へ向けた。



「戦功をもって、詫びと返させてもらうぜ!」

「よく言った、クレマよ! だが、そなたには戦場ではなく、別の活躍の場を設けたい」

「そいつは?」


 ティラはクレマの後方に控えていたエクレルへ視線を飛ばす。

 

ほうは空間の使い手、エクレル=スキーヴァーだな……以前は世話になった」

「は、はっ!」


 ジトリと睨みつけるティラ。

 エクレルは王都での失態を思い出し畏まる。

 そして、慌てふためきながらも馬上でこうべを垂れ、最大限の礼を取った。

 その身体は小刻みに揺れる。

 それを緊張によるものではないと、ティラは見抜く。



「疲れか?」

「はい、結界が張り巡らされた戦場の間隙を縫い、数千のエルフを転送の籠に宿し、数度に渡る転送を絶え間なく行いました。エルフ方の助力あったとはいえ、情けなくも多少の疲れが蓄積しております」

「そうか……だが、あと少しだけ無理を押してもらうぞ」

「それは?」


 ティラはエクレルとクレマの二人を瞳に宿す。



「お主たち二人は見事な魔導の使い手と見た。故にヤツハたちの助力を願いたい」

「ヤツハちゃんの……」

「姉御の……」


 

 ティラは闇と空間の力が閉ざす、半透明の壁の向こうにいるヤツハたちを目に入れた。


「見ての通り、ヤツハたちは壁の向こうで今、龍の名を持つ将軍たちと死闘を繰り広げておる。戦場は私が引き受ける。お主たちは、彼らの元へ!」


「そういうことかよっ。わかったぜ! 姉御は任せときな! 代わりにあたいの仲間を一時、ブラン女王に預ける。頼んだぜ」

「ああ、承知した。エクレル、転送でヤツハたちの元へ行けそうか?」



 エクレルはヤツハとパティの結界を見つめる。

 結界は大平原を一閃する巨大な壁となっているが……彼女は視線を空へと移した。


「上空に結界はありません。空を経由すれば可能です」

「疲れは?」

「可愛い愛弟子のためです。師として弱音を吐くわけにはまいりません!」


 エクレルは先端に龍の細工が施された魔導杖をしっかりと握る。

 杖にはトーラスイディオムの力が宿る。

 紫色の魔力が彼女を祝福し、急激な力の高まりを見せた。


「ふふ、頼もしいな。ならば、エクレル、クレマよ! 六龍に立ち向かう勇者の後に続け!」


「は、謹んで承ります!」

「応っ!」



 エクレルはクレマを引き連れ転送魔法を唱える。 

 一度、結界の上空に現れ、さらに転送魔法を行い、ヤツハたちの前に現れた。





――――――――――

※補足

エクレルが援軍を秘匿とした意図は<第二十三章 先生>に。

決して、ヤツハの思っているような理由ではありません。(ちょっとはあるかも)

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