第177話 救出
――ブラウニーによる凶行が及ぶ前
俺はプラリネさんから託されたタブレット端末を片手に、時折見える衛兵を避けながら城内を駆け回っていた。
「うえ~、ひろ~い。道、合ってんのかなぁ?」
タブレットの地図には礼拝所という場所がマークされて、そこにティラがいると点滅を繰り返している。
「どういう仕組みなんだろ? SFでいう、脳波や固有の生命反応みたいなものを感じ取ってんのかな?」
俺は点滅するティラの隣にある、丸い点に注目する。
「誰か傍にいるのか? 六龍とかマジ勘弁な。ま、出会ったら出会ったときか。急ごう」
地図に従い、階段を二階駆け上がり、何度か曲がり角を曲がったところで、礼拝所とやらが見えてきた。
扉の前には武装した兵士が二人立っている。
「チッ、邪魔だなぁ。できれば、なるべく穏便に」
『出合え! 女王の命を奪った
「え? 今の声って」
籠った感じではあるが、ティラの声に似ていた。
そして、その声は兵士が守る礼拝所から聞こえてくる。
そうであるのに、兵士は全く動かず、礼拝所に入る気配がない……。
「どゆこと? 今のはティラの声だよな。それも切迫した感じの……なんか、嫌な予感がする!」
俺は兵士に見つかることも
兵士は突然現れた侵入者に驚く。
俺は彼らが声を出す前に雷撃呪文で気を失わせた。
「よしっ。じゃ、扉をって。封印付きかいっ!」
扉は魔法の錠が掛けられて、普通では開きそうにない。
「ふむぅ~、全力魔法で吹き飛ばせば錠ごと壊せそうだけど、侵入がバレちゃうし。うん?」
扉の奥から声が聞こえてくる。
それはとても小さな声だったが、一人はティラの声。
様子からして、誰かと言い争っているようだ。
「どうやら、悩んでいる暇はないみたいだな」
俺は全身を黄金の輝きに包み、右手を前に伸ばして魔法弾を産む。
そしてそれを、扉に放とうとした時、ティラの声を聞いた!
「ヤツハ!!」
「なっ!? おうよっ!!」
返事とともに扉を破壊する。
強固な魔法の錠で封じられていた扉も、俺の魔法弾の前では紙の壁も同然。
扉は派手にぶっ飛び、周囲には埃が舞う。
「ゴホゴホ、ちょっとやりすぎた」
「ヤ、ヤツ、ハ」
「その声、ティラだな!」
俺はティラの声へ視線を向けた。
ティラは初めて出会ったときの姿、真っ赤なドレスにフード付きの黒のコートを着ていた。
彼女は白の法衣に身を包んだ中年の男性に首を掴まれている。
それを目にした瞬間、俺の足は意識よりも早くティラの元へと駆け出した。
「てめぇ!!」
「クッ!」
男は右手に持っていたコップを投げ捨てて、クラス4の炎の呪文ミカハヤノを俺に放った。
俺は巨玉の炎を見つめる。
(流れが……)
男は焦っていたのだろう。魔力の流れはさほど複雑ではない。
俺は魔力の流れを見極め、片手で炎を跳ね飛ばす!
「こんなもん!」
「なにぃ!?」
男は目を見開き、叫び声のような声を上げる。
跳ね飛ばされた炎は天井に当たり、轟音を鳴り響かせる。
だが俺は、二つの音に意識向けることなく男の顔面をぶん殴った!
「このっ、くそがぁぁぁ!!」
「グハッ!!」
男はティラの首を絞めていた左手を放し、傍にあった燭台が置かれた台に体を打ちつけた。
戒めから解き放たれたティラが床に叩きつけられる前に、俺はティラを抱きしめる。
「ティラ、大丈夫か!?」
「ゴホゴホッ、な、なんとかな……」
「そうか、よかった」
「ヤツハ、どうして?」
「話はあとだ」
ティラを降ろし、俺の背後へと回す。
彼女は背中越しから話しかけてくる。
「ヤツハッ、ありがとう」
「気にすんな! 友達だからなっ」
「ヤツハ……本当に……ありがとう」
涙の混じる声が響く。
だが、俺は振り返ることなく、法衣を纏った男を見つめる。
男はわき腹を打ちつけたようで、横腹を押さえながら体をふらつかせている。
「この~、何者だ?」
「俺はティラの友達、ヤツハってんだ。てめぇこそ、誰だよっ?」
「ヤツハ? あの黒騎士との……」
「で、あんたは?」
後ろからティラの声が届く
「ヤツハよ。こやつはブラウニー王。双子の王の片翼だ、って、王都に住みながら、何故王の姿を知らんのだ?」
「え? それは……と、とにかく、こいつが王なわけね」
俺は改めて、中年の男、ブラウニー王を目にした。
プラリネ女王やティラと同じ、金色の髪。
だけど彼女たちとは違い、短髪のかなりのクセッ毛。
毛先はくるりとカールを巻いている。
瞳は狼の目のようにブラウンとイエローが混じっている。
身長は高く、体格も良く、それに釣り合うように目鼻立ちも整っている。
そして、そこかしこに複雑な紋様を描いた金の刺繍がしてある白い法衣を纏っていた。
「なるほどね、こいつが……」
俺は視線を少し下へずらす。
そこにはプラリネ女王が眠っている棺が……。
「ティラはあんたの姪だろうが。それなのにっ!?」
「フンッ、下らぬ感傷。王とは為すべきことのために、道を塞ぐものを退けなければならん」
「はぁっ!? 実の姉の命を奪いっ、その忘れ形見を手に掛けることが王のやることかよっ。いや、人間のやることじゃない!」
「ああ、人間ではない。我は王なのだからな。そして、王だからこそ人のやれぬことができるのだ!」
「詭弁じゃねぇか!!」
「ふん、庶民の小娘風情にはわからぬことよ」
ブラウニーは不敵な笑みを浮かべ、両手に魔力を宿す。
その力は高位の魔導士以上の力。
とっさにクラス4の魔法を唱えることができるだけあって、さすがは王といった感じだ。
だけど……。
「俺とやり合おうってのか……?」
俺は全身に魔力を駆け巡らせ、黄金の光に身を包む。
その姿を目にしたブラウニーは笑みを崩さず、一筋の汗を流す。
そこに、男の声が飛ぶ。
「そこまでにしてもらいましょうか」
「えっ!?」
俺は突如現れた気配に驚き、礼拝所の出入り口へ目を向けた。
そこには緑の露髪を揺らす青年と、その背後に複数の兵士がいた。
青年はブラウニーに向かい、話しかける。
「陛下、こちらへ」
「う、うむっ」
ブラウニーはわき腹を押さえながら小走りで青年のもとへ向かい、ササっと背後に回る。
「よくぞ参った。助かったぞ」
「あとはわたくしめにお任せください」
「うむ、頼んだ。王に許可なく触れた、この
「……かしこまりました、陛下」
青年は声には敬意を籠めているものの、目には少し呆れたような光を灯す。
彼は一歩前に出て、俺の名を呼んだ。
「あなたがヤツハさんですか? サシオンさんから話は聞いていますよ」
「そいつはどうも。それであんたは……?」
「六龍筆頭クラプフェン。見知りおき願います」
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