第157話 再び、コナサの森へ
――コナサの森、手前
季節は秋を押しのけて、冬が訪れようとしてる。
だが、コナサの森は夏の頃と変わらず、青々とした葉が森を覆っていた。
精霊シルフの加護を受けたマフープが蛍のように漂い、森の中を明るく照らし出す。
いつ見ても幻想的な光景。
ピケは好奇心いっぱいに、荷台の上ではしゃいでいる。
それを危ないと言ってトルテさんが言葉強めに注意を促す。
サダさんはトルテさんの隣でゆっくり船を漕いでいる――護衛役をちゃんと務めろよ、この野郎っ。
先生はシルフのマフープを見つめながら、風の魔法を指先に宿して同調させているみたいだ。
風の動きを使い、森の内部構造を見ている様子。
さすが、趣味はこじらせていても、高名な魔導師といったところ。
一方、俺はというと、今から会うであろうエルフたちのことを考えて頭を悩ませていた。
(クレマたちがトルテさんとピケに会ったらどんな反応をするか……黙ってりゃ、わかんないっか。話すと面倒だし。今回はスルーでいいな)
森の入り口に近づくと、警備をしている黒の特攻服を着たエルフたちが目に入った。
その中で、頭のてっぺんが
あまりにもド派手な格好に、エクレル先生はシルフのマフープから意識を髪形と服に集める。
サダさんは夢の中。
荷馬車を検査するために、卍エルフはトルテさんと話して、通行許可証のようなものを取り出している。
もう一人は、荷馬車の荷の確認に回る。
その際、エルフは俺の姿を見つけた。
彼は一気に目を見開き、急ぎ森の中に消えていく。
そして、真っ白な特攻服に身を包んだ彼女がやってきた。
「姉御! よく来てくれたな!!」
「よ、久しぶり、クレマ」
クレマは黒馬にまたがり、金色の髪をたなびかせ颯爽と現れた。
俺が彼女の名を呼ぶと、クレマは馬から飛び降りて駆けるように近づいてくる。
「話は聞いたぜ、ヤツハの姉御。黒騎士とやり合って、大怪我したって?」
「うん。でも、すっかり傷は治ったけどね」
「く~、ホントは見舞いに行きたかったんだけどよ。取引きで忙しいわ、王都の出入りは厳しくなって許可は取りにくいわで、なかなかよ。ホント、すまねぇ」
「いや、その気持ちだけでありがたいから」
「姉御……あんたの優しさ、ソウルに沁みるぜ」
「そっかぁ……やべぇな、ヤンキースイッチオンじゃないから、ついていけない……」
「うん、どうした姉御?」
「なんでも――」
「ねぇねぇ、おねえちゃん。この人お知り合いなの?」
ピケが俺の隣からちょこんと顔を出してきた。
「ああ、ほら夏頃、コナサの森の仕事があっただろ。そん時に交渉した森のヘッドさん」
「そうなんだ。初めまして、私はピケだよ」
「おう、嬢ちゃん。あたいは
「うん、よろしく~。ん~?」
挨拶を返したピケはクレマの特攻服を観察するような目で見つめる。
「ん、おばあちゃんの服にそっくりだね」
「おばあちゃん? あれ、嬢ちゃん、どっかで見たことあるような?」
俺は頭を抱えた。
面倒くさいことになる。きっとそうなる。
だがっ、俺は抵抗を試みる!
「あの、トルテさん。急ぎましょう! 許可証は貰ったんでしょ?」
「え? ああ、貰ったけど、いいのかい?」
俺はトルテさんにサッと近づき、耳打ちをする。
「ここの人たちトルテさんの母、柊アカネのことを知っています。そして、尊敬してます。トルテさんのことを知られたら、ぜったいややこしくなるんで、さっさと行きましょうっ」
「ふ~む、今回はそうだね。だけど、いつか母についてちゃんと話す機会をもたないと」
トルテさんは少し寂しげな表情を見せた。
母の友人であるクレマたちと色々話したいことがあるのだろう。
だけど、今はサダさんやエクレル先生がいる。
それにピケにだってまだ、地球のことを説明していないはず。
ここは黙って先を行くが吉。
な・ん・だ・け・ど……そうはうまくいかなかった。
クレマはピケの顔を一心に見つめている。
「おばあちゃん……そして、ピケという子の顔と雰囲気……」
ちらりと手綱を握るトルテさんへ顔を向ける。
「そちら女性も……いや、え? まさか……あ、あ、あ、あなたがたっ」
俺はとっさに荷馬車から飛び降り、クレマの口を押さえた。
そして、耳傍で声を掛ける。
「し~し~、何も言うなっ」
「ふがが、ふがががががっ!」
「いいか、トルテさんは微妙な立場。わかるなっ?」
「ふが? ふんが、ふんが、ふんががっ」
首をものすごく縦に振っている。
こちらの言うことは理解できた様子。
俺はゆっくりと手を放す。
すると、クレマは打ち上げられた魚のように何度も口をパクつき、大きく呼吸を繰り返す。
ちょっと、強く押さえ過ぎたかな……。
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