第102話 日仏合作
女神コトアの真意が一体何なのかは気になるけど、現状では考えても仕方ないので考えないことにして、当面は仕事に意識を集中することにした。
俺はサシオンの屋敷から、みんなを待たせている北地区の表通りに向かう。
待ち合わせの場所には、すでにみんなが揃っていた。
その中にピケの顔も混じっている。
ピケはおへそ丸出しのベリーダンスの衣装を着ている。色は赤。
英雄祭の時も赤いフラメンコ衣装を着ていたけど、赤色が好きなのか?
それはともかく、特に何がある日でもないのに、なんで派手な格好を?
「お待たせっと。ピケ、派手だなぁ」
「サバランおばあちゃんのところに行くからね。格好良くキメキメにしなきゃ」
ピケは腰から下を中心に体をくねらす。
本人はセクシーなダンスを踊っているつもりだろうけど、可愛らしさの方が勝っている。
「ああ、そういうこと。でも、なんでピケまで?」
「お母さんがサバランおばあちゃんに挨拶してきなさいって」
ピケははいっと、プリンの入った箱を見せてくる。
箱には手紙が乗っている。
どうやら、トルテさんが俺たちを気遣って、サバランおばあちゃんとやらに根回ししてくれるみたいだ。
「そうなんだ。あとでトルテさんにはお礼を言っておかないと。では、早速っと、行きたいところだけど。フォレ、ちょっといい?」
「何でしょう?」
「木を加工する工房とか知ってる?」
「ええ、練習用の木刀や
「それはちょうどよかった。これを作ってもらえるように頼めるかな? サシオンと相談して贈り物に追加しようと思って」
俺は図面をフォレに手渡す。図面と言っても、サシオンに見せたものと同じ、大雑把な絵。
それでも、十分に伝わる単純なモノ。
フォレは図面を受け取り、興味深げに見つめる。
「木刀……にしては、先が妙に膨らんでいますね」
「木刀じゃないけど、まぁ、振り回すところは同じかな」
「そうですか……ですが、」
フォレは図面の下へ目を下ろす。
「完成図は木刀とは似ても似つかないですね。とても凶悪です」
「え~、まぁ、深く考えないで。それで、これ作れそう?」
「はい、問題ないかと。では、私は工房の方へ向かいます」
「あ、そうだ。できれば、パティも一緒について行ってくれるか?」
「え、わたくしですか?」
「急な仕事だしね。パティには悪いけど、フィナンシェ家の顔が利くだろ。有名な商家っぽいし」
「そういうことですの」
「それとさ……」
俺はパティに近づき、耳打ちをする。
「フォレと一緒に食事って約束。ずっと放置してたから、これが代わりってことで」
「あら、律儀ですわね」
パティは扇子をふぁさっと開いて、微笑む。
「家名を使われるのはあまり良い気はしませんが、今日ばかりはフィナンシェ家の名に感謝しますわ。ふふ、ありがとう、ヤツハさん」
「そう言ってくれると助かる。じゃ、頼んだよ、二人とも」
俺は手を上げて振る……が、その手をガシッと掴む、猫っぽい狼女が。
「ヤツハ~、私もフォレ様と一緒に行くっ!」
「ダメです。アプフェルは俺らと一緒。お前とフォレとパティを一緒にしたら、面倒なことになるからな。まとまる商談もまとまらん」
掴まれた手を振る払い、逆にアプフェルの身体を押さえつける。
「行けっ、フォレ、パティ! 事態がややこしくなる前にっ」
「わかりましたわっ。行きましょう、フォレさん!」
「え、ええ、はい。わかりました。では、後程」
「ちょっとっ、待ちなさいよっ! 離して、ヤツハ。離せ~!」
「暴れるなっ。アマン、ピケ、手伝ってくれ!」
「はい、わかりました」
「うん、わかった」
俺たちは三人がかりでアプフェルを抱え上げ、目的のお店へ向かった。
北地区の片隅にある、奇抜な服を販売しているという噂のお店までやってきた。
ここはかつて、ピケのおばあちゃんとその友達が共同経営していたお店。
ピケのおばあちゃんが亡くなって以降は、友達だけで切り盛りしているそうだ。
俺とアプフェルはお店の外観を目にして、あまりの派手さに苦笑い。
お店は木造建築の二階建て。一階がお店で、二階が住居部分になっているみたいだ。
外装は青・白・赤の色が縦断するトルコロールカラー。
壁のあちらこちらにはフランス語らしき文字が書かれていた。
軒先には木の看板がぶら下がっていて、ふらふらと風に揺れている。
看板にはフランス語と漢字の併記。
フランス語はわからないけど、漢字は『羅簾屠燕箆羅阿』と書かれてある。
その漢字を無理やり読むと、ラストエンペラーだと思う。
フランス語もそれに近い意味だろう。
「わけわかんねぇな、この店」
「うん、すっごい派手だし、変な文字っぽいのが羅列してあるしね」
アプフェルは俺の言葉に共感するが、アマンとピケは全く違う反応を示す。
「まぁ、面白いお店。私の故郷。海の街ナマナにもあれば、非常に映えるでしょうね」
「でしょっ。サバランおばあちゃんの趣味は尖がってるからね」
アマンはコナサの森のエルフたちの格好に興味津々だったが、サバランのお店にも同じく興味津々。
彼女の故郷はいったいどんな雰囲気の場所なんだろう?
(ま、元々派手な海賊の格好しているアマンだし、景気のいい場所なんだろうな。それはともかく……)
俺はもう一度、外壁と看板に視線を向ける。
トリコロールカラーにフランス語。そして、漢字。
十中八九、地球人が経営している。
そうなると、ピケのおばあちゃんやサバランは、日本人とフランス人。
さらに漢字のセンスから、日本人はヤンキー……。
そこから導き出される答えは――。
(コナサの森に訪れたヤンキー、柊アカネは……)
ピケに顔を向ける。
ピケは俺を見ながら、なんで見られてるんだろうと、首をくりくりと動かしている。
(トルテさんに聞けば早いけど、今はやめておいた方がいいか)
マヨマヨの襲撃により、マヨマヨを異世界人と知ってる者は彼らに対して、大きな警戒心を抱いている。
下手に藪をつつくような真似はしない方がいい。
(とはいえ、この店自体が地球っぷりたんまりなんだけど……サシオンやマヨマヨは、技術や思想以外興味ないのかなぁ?)
彼らが放置しているということは、特に問題ないと判断しているからだと思う。
でも、ファッションだって、アクタへ大きな影響を与えるだろうに……彼らの取り締まり基準がいまいちわからない。
(ま、それはともかく、サバランって人にはそれとなく現状を伝えておいた方がいいな。何かあってからだと遅いし)
「それじゃ、みんな。店の中に入ろうぜ」
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