第39話 数字の謎
朝食を終え、アプフェルの案内で学士館が管理する時計塔へ向かう。
時計塔は北地区にある学校の敷地外にあり、西地区の中心にあるそうだ。
道中、彼女は書類に目を通しながら、うんうんと唸り声を上げて歩いている。
「アプフェル、さっきから何見てんの?」
「ちょっとね、課題をねぇ」
「課題?」
ヒョイと書類を覗くと、見たこともない数式が並んでいた。
以前も少し話したけど、こちらの数字は地球のデジタル文字が変化したような数字。
慣れるまで大変だったが、今ではすんなりと頭に入ってくる。
だけど、アプフェルが手にしている書類の数式は全然頭に入ってこない。
「なにこれ? なんか難しい数式?」
「ああ、これ。風の魔法と火の魔法を組み合わせた時に生じる、エネルギー量の計算式で、その時の気候条件と術者の持つ魔力バランス。そこからどれだけの魔法力を生み出せるかって問題」
「……そうですか。なんか、ややこしそうなんだけど」
「そうかな? そこまで難しい問題じゃないけど……そっか、ヤツハは学校に通っているわけじゃないもんね。でも、あんたもそのうちエクレル先生から習うと思うよ」
「うげ、面倒」
「他にも基本問題で、土地面積の単純な計算から、そこの土地を
別の書類を手渡され、読んでみる。
魔力量の計算はさっぱりだが、面積の計算には見覚えがあった。
日本にいた頃、進学の相談の際に高校の教科書を見せてもらったことがある。
そこに載っていたのは積分を利用した面積の求め方。
つまり、アプフェルが手にしている問題文は俺の知識を超えたもの。
それを単純な計算って……。
「アプフェルさんって、見た目とは違い頭いいんですね」
「それ、どういう意味よ? 一応、私は国立学士館の生徒よ。これぐらいできて当然」
「そっかぁ。これが、俺より頭いいのかぁ……」
「だからっ、どういう意味、それっ!? だいたい、これ扱いってっ!」
「すまん、正直舐めてました。アプフェルって学士館でどのくらい凄いの?」
「どのくらいって……実技では学年トップ。座学だと、二番だけど……そう、あの忌々しい女がいなければぁぁ~」
誰かを呪い、宿屋の時のように目を血走らせてる。
たぶん、相手は仕事をさぼった同一人物。
だけど、そいつがいなくても学年二位の成績。実技に至ってはトップ。
アプフェルが超がつくエリートなのには驚いた……性格はアホよりなのに。
今も、エリートとは思えない呪いの声を喉元から上げているし……。
「まぁまぁ、アプフェル。誰かを呪うのはそこまでにして、今日は仕事に集中しような。ほら、時計塔はすぐそこなんだし」
時計塔の背は高く、遠くからでもはっきり見えている。
なので、詳しい案内がなくても近くまで来たことはわかっていた。
時計塔は最初に王都に訪れた時に見た、あの高い塔。
あの時に時計塔かなと予想していたが、やはりそうだったみたいだ。
アプフェルは俺の宥めに渋々と頷くと書類をカバンにしまい、時計塔へ向かい歩き始めた。
時計塔の前まで来て、俺はあんぐりと大口を開けながら建物を見上げた。
高さは城壁より少し高いくらいで40mほど。
外壁はまんべんなく細かな装飾が施され、頭頂部は尖った屋根のようになっている。
見た目はロンドンにあるビッグベンを小型にした感じ。
入口と思われる場所には衛兵が立っていた。
遠目からでも結構な高さがあると思ってたが……これを二人で掃除するって無理がないだろうか?
「アプフェル。ホントに二人だけ掃除するの?」
「掃除する場所は一番上の階だけだから大丈夫。そこまで階段で昇んなきゃいけないけど」
「うへぇ~」
「我慢我慢。その代わり、依頼料が高いんだから。じゃあ、私は見張りの人に話をしてくるから、ちょっと待ってて」
「はいよ、わかった」
アプフェルが許可を取りに行っている間に、もう一度、時計塔を見上げる。
デカい……
次に、時計盤の部分に視線を移した。
そこで、思わず小さな声が飛び出た。
「え、なんでっ?」
「どうしたの?」
「あ、いや。許可は取れたの?」
「うん、問題なく。じゃ、とっと始めましょう」
「そうだな」
アプフェルは時計塔の入り口を目指す。
俺も彼女の後ろからついていくが、途中で足を止めて、時計に目を向ける。
(どうして、時計盤にローマ数字が使われているんだ? この世界の数字じゃないのに……)
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