料理人、異世界にいく

siro

リンネ堂 開店

第1話初めに

 ああ、出来る事なら。もっと、料理を作ってみたかった。 

 

 そんな事を考えながら死んだはずの俺なのだが、暖かな陽気に目を開けてみると、真っ白い空間に自分がいる事に気が付いた。 

 

 「どこだ? ここ」 

 

 白い空間に漂う俺。 

 

 「八戸太郎さん」 

 

 透き通った声が聞こえてきた。振り返ると、綺麗な女性が一人。 

 

 「よびました? 私の事を」 

 

 「はい、意外と落ち着いていますね」 

 

 「ここは、天国ですか?」 

 

 「そうです。残念ながら、あなたは亡くなってしまいました」 

 

 やはり俺は死んでしまったか。何もかもが夢だったような、そんな、朧げな感覚。 

 

 「突然ですが、あなたにはこのまま、異世界に赴いてほしいのです」 

 

 異世界。異世界、って言うと、ファンタジーとかSFとか、そんな世界か? 

 

 「あなたにいってほしい世界、アースの中央国家。またの名を、ダンジョン国家グランディル。様々な食材が集まり、各国に輸出を行っている国です。あなたにはその国で、料理を作ってほしいのです」 

 

 料理。確かに俺は料理人だが、凄い料理人ってわけでもなく……星付きの店とも縁遠い、ありふれた普通の料理人だ。なぜ俺なのだろうか。 

 

 「それは、あなたの心が白く、善性であるがゆえに、私の世界へ問題なく転移できるからです」 

 

 俺が喋るより先に回答を告げられる。これは、心も読まれているっぽい。 

 

 「私の世界は、あなたたちが言うファンタジーの世界に該当します。魔力があり、異なる種族が住み、魔物がいて、科学の発達の代わりに魔法学や魔道具が発達した世界。そして、料理の文化もあなたの世界とは大きく離されています」 

 

 科学の代わりに魔法が発達したのはわかる。それで、なんで料理まで遅れることになるんだろう? そんな事を思考していると、また答えが返ってきた。 

 

 「素材自体がおいしすぎるのです。そのせいで、人は手を加える事をやめました。かといって、あなたが生きていた日本の様に、生食として進んでいるわけでもありません」 

 

 食材がうますぎるから食文化が停滞している? そんなすごい食材を、俺が料理していいものなのだろうか? というか、本当に俺でいいのだろうか? 

 

 「そんなに難しく考えず、思い切ってやっていただければと。肉体は20歳の時のものを、特殊能力も複数つけましょう。それと、レシピ。過去のレシピを検索できるよう、脳内に英知の能力を与えましょう。他に、なにを望みますか?」 

 

 それだけ食文化に遅れがあるなら、器具に問題が出てきそうだ。 

 

 「創造魔法もつけておきます。問題があればその都度、神託を下しますので」 

 

 拒否権はなさそうだ。不安は残るが第二の人生、歩んでみてもいいかもしれない。 

 

 「ご期待に添えなかったら申し訳ない。未知の食材に少しわくわくもするが、せいぜい精一杯やらせてもらおう」 

 

 「よかった、断られずに。では、よき人生を」 

 

 女神様が手を振ると、俺の意識はまた途絶えた。

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