第125話 ミライちゃん 妻達の気持ち
「ミライちゃん、可愛かったねー」
「そうですね。私も孕みたくなってしまいました」
「孕むって……。シャニ、他に言い方はないの?」
なんてことを言っているが三人は笑顔を隠せないでいた。
普段無表情なシャニでさえ、とうとう口角をあげてしまう始末なのだ。
来人と出産を終えたリディア、そして新たに産まれたミライを三人にしてあげようと思い彼女達は席を外した。
アーニャはリディアの出産に立ち会ったため、今回の
しかしそんなことは全く気にならなかった。
「ふふ、ミライちゃんを見てると確かに私達も赤ちゃんが欲しくなりますね」
「だよねー。私とライトの子供かー。きっと可愛いだろうなぁ……」
「しかし女の子ですか。幸せになってくれると嬉しいのですが」
シャニの言葉を聞いてアーニャ、リリも思うところがあった。
遺伝について彼女達は心配していた。
彼女達は各種族の中では浮いた存在だ。
いわゆる醜女扱いをされてきた。
リディアはその大きな胸のせいで。
アーニャは背中の痣のせいで。
シャニは人とも獣とも取れぬ容姿と男性器によく似た器官のせいで。
そしてリリは幼すぎる容姿のせいで。
彼女達は来人に出会うまで異性に振り向いてもらうことなく生きてきたのだ。
自分だけだったら我慢出来る。
だがもし自分の子供が容姿のせいで苛めなど辛い目にあったらと思うと胸が痛くなる。
「駄目よ、そんなことを考えちゃ。きっとミライちゃんは幸せになるわ。ううん、私達が幸せにしてあげなくちゃ」
アーニャは落ち込む二人を励ますように声をかけた。
彼女は来人の二番目の恋人であり、特に本人達は気にしていないがヒエラルキーではリディアに続き二番目となる。
だからこそ二人を元気付けてあげねばと思ったのだ。
『フニャー。フニャー』
「ん? 夜泣きかな? ふふ、これから大変だね」
とミライの泣き声を聞いたリリが微笑む。
三人はこっそりと二階に向かう。
ドアを少し開けて中を覗いてみると来人が困った顔をして我が子であるミライを抱いていた。
「よーし、よしよし。ミライ、泣かないでー。ベロベロバー」
「フニャー。フニャー」
来人があやしてもミライは泣くばかり。
先ほどおっぱいは飲んでいたので空腹ではないのだろう。
「ふふ、やっぱりミライちゃんは可愛いね」
「でも泣き止まないね。どうしたのかな?」
ここは親になった二人に任せるのが筋なのだが、来人は子育てについては全くの素人であるし、リディアは出産を終えたばかりで疲れている。
ここは自分達の出番が来た。三人はそう思い、リディアの部屋に入る。
「あぁ! みんな、助けてくれ! ミライがずっと泣いてばかりなんだ!」
「あはは、大丈夫だよ。お腹はいっぱいのはずだからさ。きっと眠いかおしめが濡れてるとかじゃないの? ほら、貸して!」
リリは強引に来人からミライを受けとる。
男と女では抱かれ心地も違うのだろうか、ミライは次第と静かになっていく。
「ライト殿、リディア姉。疲れたでしょう。ミライは私達がみています。良かったら少し休まれますか?」
来人は大丈夫だろうが、今のリディアには休息が必要だ。
疲れから体を壊したらそれこそ一大事。
ラベレ村では母乳が出る者はリディア以外にいないのだ。
今リディアが倒れたとする。それはミライが授乳出来なくなることを意味していた。
だから三人は少しでもリディアを休ませるためにミライの面倒をみることを買って出たのだ。
「リディアさん、少しでも寝て下さいね。ミライちゃんは私達に任せて下さい」
「うん。ありがとね、アーニャ。少しだけ休ませてもらうわ……」
「ふふ、今のうちにライト様にいっぱい甘えてもいいんですよ?」
「そうね……。ライトさん、隣に寝てもらえませんか……?」
「お、おう」
来人はリディアのベッドで横になる。
リディアは弱々しい力で来人を抱きしめキスをする。
少しでも二人にしてあげよう。
三人はミライを抱いて部屋を出る。
そのまま一階に戻りミライを抱きながら擬似的に母親気分を味わうのだった。
「フニャー……」
「ふふ、眠いのかな? でもその前におしめを替えておこうね」
リリはミライの布オムツを脱がせる。
少し湿っていたので気持ちが悪かったのかもしれない。
柔らかい布でお尻を拭くとミライが笑ったような気がした。
産まれたばかりのミライが笑う?
リリとシャニは不思議に思うと同時にミライの笑顔を見て胸が温かくなる。
「わ、笑いましたね」
「か、可愛い~。ミライちゃん、もう私の子にならない?」
なんてことを二人は言っているが、アーニャはミライが笑った理由を知っている。
これは生理的微笑というものだ。
一説によると心地良さを感じ笑うというが、おそらくは反射神経によるもの。
しかしそれでも尚、ミライの微笑みは三人の心を虜にする程の破壊力を持っていた。
――スクッ
コタツに入りながらミライの世話をしていたリリが突然立ち上がる。
「どうしたのですか?」
「ごめんね……。やっぱり私も赤ちゃんが欲しい! ライトに抱かれてくる!」
突然何を言い出すのやら。
アーニャはリリが暴走したのだと思った。
もちろんアーニャだって来人との子供は欲しいと思っている。
しかし出産を終えたリディアを休ませるために、そして大変な想いをしたリディアのために来人と二人にしてあげたのだ。
ここでわがままを言ってはいけない。
アーニャはリリを止めようとしたが……。
「待ちなさい」
「シャニ姉……?」
先にシャニがリリを止めた。
(そうそう、やっぱり先輩として止めてあげないとね)
とアーニャは思ったのだが。
次にシャニから出てきた言葉は想像したものとは違ったのであった。
「私が先です。ここは先輩である私に譲るべきです」
「ずるいよ! シャニ姉はもう私の上司じゃないでしょ! ライトの愛は平等なの! むしろ私が一番ライトとの時間が少ないんだから私が次のママになるの!」
「ちょっと二人とも、少し落ち着こうね?」
アーニャは二人を諌めようとするが、彼女達はお互いに火花を散らすように睨み合う。
今にも戦いが始まりそうな殺気がリビングに漂っていた。
しかしその膠着を打ち砕くように、リリはシャニに背を向け二階への階段を駆け出す!
「ライトー! 私もママにしてー!」
「逃がしません」
――ダダダダダッ!
二人は競うように二階に向かう!
そして来人がいるであろうリディアの部屋に押し入った!
『ど、どうした!?』
『ライトー! 今すぐ私を抱いてー!』
『ライト殿は寝たままで結構です。天井の染みでも数えててください』
リディアが寝ているというのに二人は欲望そのままに来人を襲う!
だが次に聞こえてきたのはシャニとリリの悲鳴に近い矯声だった。
『ひぃぃぃぃんっ!?』
『んきぃぃぃぃっ!?』
きっと来人は感度調整を発動したのだろう。
シャニ達が負けた声が聞こえてきた。
「フニャー……」
「あらら。ごめんね、ミライちゃん。うるさかったかな? 全く騒がしいお姉さん達だよね。ふふ、でも賑やかで楽しいわよ。きっとあなたも気に入るわ」
アーニャはミライを抱いて笑う。
そしていつか産まれる我が子と仲良くしてくれるようミライに語りかけるのだった。
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