第21話 仲間探し

 異形の大群が現れ、とうとう敷地内に浸入を許してしまった。

 だが今の俺は転移当初の5倍の筋肉を持ち、タイマンで異形と渡り合えるようになっている。

 今しがた身長2メートルを超える大きな個体を退治したところだ。


 異形は股間から頭にかけて竹壁で串刺しになった後、止めの一撃を額に食らう。

 塵になるようにサラサラと体が崩れ去っていった。


「ライトさん! 大丈夫ですか!? い、異形が逃げていきます!」


 リディアは小屋の屋根から伝えてくる。

 よ、良かった。今回の襲撃は終わったようだ。

 勝って兜の緒を締めよという言葉もある。 

 最後にしっかりと傷んだ壁を補修しておく。


「ライトさん!」


 リディアは屋根から飛び降りるとしっかりと俺に抱きついてくる。 

 俺も彼女を抱きしめながらお互いの無事を祝うことにした。


「リディア、良かったよ。怪我は無いみたいだな」

「はい……。でも心配したんですから。ライトさんがいなくなったら私……」


 恐らくだがもし俺が死んだとしたら壁は消えてしまうだろう。

 俺が死ぬということはリディアを守るものが失われるということ。

 俺の死が彼女の死と直結するのだ。

 

 今回は異形の浸入を許したが何とか勝てた。

 だが今後は直接奴らと戦うべきではない。

 むしろ俺だってあんな化け物と近接戦闘をしたいとは思っていないしな。


 そのためにやれることは一つだけだ。

 俺はリディアの髪を撫でながら……。


「なぁリディア、聞いてくれ。異形の襲撃は続くはずだ。今日よりももっと多くの異形に襲われることもあるかもしれない。だからさ、俺達には一緒に拠点を守ってくれる仲間が必要だ」

「そうですね。私もそう思います。今回は運が良かっただけです。たまたまライトさんの力が上がって襲撃を防ぐことが出来ましたが、恐らく木の壁のままだったら……」


 その通りだ。

 いつ竹壁を壊すような異形の大群が現れるか分からない。 

 だからこそだ。今まで通りの守りだけではなく攻めの守りに切り替えていかないといけない。


「明日からも森の捜索は続けよう。きっとリディアのような生き残りがいるかもしれない」


 聞いた話によると、かつてこの地に存在した王都には10万を超える人々が住んでいたそうだ。

 その1%でも生きてくれていれば、こちらにとって大きな戦力になるからな。


「それじゃまた明日から頑張ろうな」

「はい!」

  

 二人で小屋に戻っていく。

 寝る前にリディアはもよおしたのか、モゾモゾと俺に寄ってきた。


「するの?」

「駄目ですか?」


 と目を潤ませる。

 断れんなぁ。よし、リディアの村民満足度を上げるためにも頑張るとするか。


 一頑張りを終えるとリディアは気絶するように眠ってしまう。

 寝る前に喉が乾いたので水を飲みにいく。

 そこで気付いたことがある。

 

 満月だった。

 しかし月は不気味な程、真っ赤に染まっている。


「怖……」


 何だか背筋に寒気がしたので、早々にリディアが待つ寝床に戻っていった。



◇◆◇



 それから2週間が経ち、俺達は相変わらず森の中を捜索している。

 生き残りは見つけられなかったものの、猪を狩ったり食べられる果物や野草を採種した。

 他にも新しい壁である竹を使った生活用具なども作り生活も豊かになりつつある。


 今も二人でリディアのような生き残りがいないか探しているが、見つかるのは俺達を襲おうとする獣ばかりだ。


「せいっ!」

『ブモッ!』


 ――ドシュッ ドサッ


 先日レベルアップを果たした俺は異形とタイマンで渡り合えるくらいには強くなった。

 突進してくる猪に竹槍を一突きする。

 槍は難なく猪の額を貫き、地面に転がった。


「ラ、ライトさん、強くなりましたね」

「ははは、リディアのおかげだよ」


 言葉の通りだ。どうやら俺が強くなるためにら村民……リディアの満足度を上げる必要がある。

 村民満足度が二回上限を回ったことで俺はレベルアップを果たしたようだ。

 筋力が以前の5倍だからな。地球なら最強の男と言っても過言ではないだろう。

 だがあくまで人間の中で強い程度だ。異形の団体様を相手にするにはまだ力は足りないと思う。

 

 今のところ肉は充分にあるので、猪はその場で皮を剥ぐ。

 リディアは猪の皮を剥ぎつつため息を一つ。


「はぁ、見つかりませんね……」

「だな。少し休もうか」


 思うように成果が得られずリディアは気落ちしている。

 こういった時は気分転換をはかるべきだ。

 負の感情をどこかで絶ち切らなければならないとエドも言ってた気がする。


 いつものように壁が発生する時の摩擦熱を利用し焚き火を起こす。

 石を焼いた後、竹を使った水筒に入れればどこでも熱いお茶が楽しめるのだ。

 

 二人で焚き火を囲み熱いお茶を飲む。

 気分が変わったのかリディアは楽しそうに喋り始めた。


「ふふ、美味しいです。ねぇライトさん。この毛皮は何に使うんですか?」


 と先程狩った猪の皮を撫でる。

 現在数十枚の毛皮のストックはあるが、考えている通りだとまだ足りない。


「今俺達って服は一着しかないだろ? 毛皮を利用して服を作りたいんだ。それだけじゃないぞ」


 これから増えるであろう仲間のためにも毛皮で作った寝具は必要になるだろう。

 せっかく一緒に住むんだからさ、どうせなら快適に暮らしてもらいたいしね。


「へぇー、ライトさんってすごいですね。そこまで考えていたんですね」

「だろ? それにさ、毛皮の布団って気持ちいいしさ。するんだったらフカフカの布団でしたいじゃん?」


 ちょっとセクハラじみたことを言う。

 とはいえ最近夜になると毎日のように肌を合わせている。

 美女に求められるというのは嬉しいものである。 


「もう、ライトさんのエッチ」


 とリディアは言うが、むしろ俺よりエロいと思うぞ。嬉々としてアレを飲んでくれる人なんて初めて見たよ。


「ふー、それじゃ休んだことだし、もう少し頑張るか……」


 ――パキッ


「リディア……」

「はい……」


 また猪だろうか? まぁ今の俺達の力ならば大した脅威にはならない。 

 また毛皮のストックが増えるだけだ。

 槍を構え茂みに近づくが……。


「ライトさん、あれ……」

「あぁ。やっぱりいたんだな」


 茂みの中には二人のエルフが抱き合うように倒れていた。


 良かった……。

 やはり生き残っている者がリディアの他にもいたんだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



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