23-2 リュウ兄ちゃん

 カズマは、一週間ほど前の、あの植物園の温室を回想する。


 スミレは妹のレンゲの無事を確保した後、全てを温室の外から聞いていたらしい。

 ソラの隙を突くために息を殺してタイミングを窺っていた。


 彼女は、小型化した記憶操作用の装置を一つ隠し持っていたという。


 そして、カズマとドッペルがテレパシーを実現した――最も脳内チップに負荷がかかった時、機器のスイッチを押した。


 言われてみれば、という話だ。


 スミレはカズマから自身に関する記憶を一度消している。


 それはあの大型のMRIのような機材を利用したわけではないはずだ。

 初旅行の晩、カズマはどこかに移動させられて記憶操作実験を受けたわけではない。




 ――スミレが記憶操作装置を使用した直後、カズマとドッペルは昏倒した。


 その操作を行って以降携帯電話からソラの声がすることがなく、ソラには逃げられたとスミレは判断したようだ。


 スミレはヨモギたちと協力し、植物園からカズマとドッペルを連れ出したと話した。




 結論から言えばオリジナルとドッペルゲンガーのつながりを断ち切ることには成功した。


 ドッペルは以前の記憶と共にドッペルゲンガーとして過ごした記憶も持っているため以前と全く同じ性格に、という訳にはいかなかったらしいが、ヨモギとは相変わらず仲が良いし構わないとのことだった。


 整形手術を受けて元の顔に戻るかどうかはまだ迷いがあるらしい。




 カズマはというと、ジロウたちの前ではそれまでと変わりなく過ごしていられる。


 が、ドッペルの前では上手く情動のコントロールが出来ない瞬間が一日に二、三回来るようになった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る