6-4 企業見学会
計画はまずドッペルゲンガーを作ることから始まった。
被験者に選ぶ人間は、健常者とされる未成年の成績最低者だ。
情動によって劇的に学習能力が変動する可能性の低い、生まれつきの脳機能障害を持つと推測される者は除かれた。
一方、ドッペルゲンガーの容姿は被験者と全く同じに整形される。
これは実験結果の信頼性を高めるためだ。
ドッペルゲンガー役の過去の人格に関する情報の一切は実験に
そして、被験者のオリジナルに選ばれたのがカズマ、ドッペルゲンガーに選ばれたのが当時の養護施設で最も簡単に戸籍を操作できる少年だった。
身寄りのない子供を使えば、世間に知られるリスクを最小限にできる。
ドッペルゲンガーの脳には極小のチップが埋め込まれ、オリジナルとドッペルゲンガーの人格が正反対になるように設定された。
それはオリジナルの脳活動を自動的にスキャンし、それにドッペルゲンガーの脳活動を対応させ、情動をコントロールする装置だった。
この計画では情動は、「高等動物で観察される特異的な動機づけの状態」と定義された。
情動の種類は恐れ、嬉しい、怒り、悲しいなど多様である。
そして、情動は筋活動や自律反応を含む情動反応と情動表出を伴う。
ストレスにさらされていると脳の活動バランスが破綻し、思考を司る部位の脳活動が鈍くなる。
成績最低者の脳活動が平均より鈍いものであればあるほど、ドッペルゲンガーの思考に関する脳活動は常人の数倍の強度と速さで行われ、情動性知能も高まるはずだと考えられた。
計画は順調だった。
しかし、ある時期にスミレがオリジナルのカズマ本人と接触してしまった。
カズマ本人の学力が上がっていき、反対にドッペルゲンガーの少年の学力は下がってしまった。
これでは到底、高度な知能の開発は望めない。
そのせいで計画は打ち切りになりかけ、ドッペルゲンガーにされた少年はこの計画に資金援助していた会社に一時引き取られることになった。
しかし数年が経った今、カズマからスミレに関する記憶を消去する形でようやく問題が解決した。
カズマの中の知識がなくなることはないが、身に付けた学習のプロセスはほとんど機能不全になっている。
そして、相対的にドッペルゲンガーの情動的知能が上がる。
それを全て済ませた後、計画を再開するためにドッペルゲンガーの少年を再び研究所に呼び寄せた、というのがこれまでの大まかな経緯だった。
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*6話で参考としたサイト・文献を以下に示しています。
しかし、話はあくまで架空の研究であり、複数の論文を混ぜて何だか不思議な理論を作り出しています、本文中の理論は鵜呑みにしないようご注意ください。
(以下の文献そのものは信頼できるものだと思います)
本文のドッペルゲンガー製造計画について訳が分からなくなっている方もいらっしゃると思います、大丈夫です、書いている私もこんがらがっています。
ストーリーだけ面白がっていただければ嬉しいです……。
・「シンギュラリティとは?AIは人間に嘘をつく?」,AI入門ブログ
・加藤和生,「こころの知能(EQ)とは:情動知能の理論」,九州大学大学院・人間環境学研究院・心理学講座・助教授,「教育と医学:特集―知力を育む」1999年3月号
・岡村忠晴,「学習不振生徒の対策を中心として―教育相談を基調とした学級経営―」
・大森良平,「情動知能と学校環境適応感の関連性についての検討―小学3年生へのアンガーマネージメントの実践から―」,早稲田大学大学院
・田代 学,鹿野 理子,福土 審,谷内 一彦,「ヒトの情動メカニズムにせまる 脳イメージング研究の進歩」,日薬理誌,2005
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