ロシア人が毎朝味噌汁を作りにくるんだが、ロシアといえばボルシチなので国籍詐称しているのではと俺は疑っている(ただし、日本人でも毎朝味噌汁を作るのは特別なことだと気づかないフリをしている主人公だとする)
第7話 ロシア人に迫られたので仕方なく応じた件 後編
第7話 ロシア人に迫られたので仕方なく応じた件 後編
☆★☆★☆★
『いやね、アンタ――』
「うん、うん……それで……?」
『おじさんがいないからって――』
「ああ、そうだな。香織の言うとおりだ」
15分は話をしただろうか。
昔から……香織の電話は長い。
で、最近は……ちゃんと飯を食えという用件で、2日に1回は説教電話を受けるのだ。
『ちょっと、アンタちゃんと話聞いてる?』
「聞いてるよ」
『ともかく、私もアンタが心配なんだから』
「ああ、そうだな。香織が俺を思ってくれる気持ちは嬉しいよ……それは本当にな」
と、そこでリーリヤが再度ビクっと体を震わせる。
っていうか、流石にリーリヤがいるのにこれ以上の長電話は良くない。
ってことで――
「とりあえず……時間を考えろ。今は朝で忙しいからもう勘弁してくれ」
『ちょっとアンタ待ちなさい! 今日という今日は言わせてもらうけど――』
いや、2日に一回は聞いてるけどなと思いつつ、俺は電話を一方的に切った。
ちなみにこれはその昔、一度3時間の説教を食らった時からの技で、それ以来……香織からの電話が一般的に考えて迷惑な時間帯などの状況の時は多用させてもらっている。
つまりは、ガチャ切りってやつだ。
だって、あいつは切ろうとしても電話を切らせてくれないんだから仕方ない。
「悪かったな。長電話で」
「……」
「どうした?」
「…………」
「電話の相手が、誰だったか気になるのか?」
無言でコクリと、リーリヤは控えめに頷いた。
その表情の色は8割の怯えと、2割の怒りというところだろうか。
「1コ上の先輩……3年の高峰香織って知ってるか?」
「バレー部の部長ですか?」
「ああ、その認識で合ってるよ」
「……とても綺麗な人……ですよね」
「それを否定できるやつはウチの高校にはいないだろうな」
まあ、陰で男子から、こっそり女子ランキング四天王とか言われてるほどだからな。
ちなみに、四天王の……南方の増長天が香織で、北方の多聞天がリーリヤだったりする。
ロシアだから北方かよと、あまりの安直さに初めて聞いた時は吹き出したものだ。
「……」
「……」
「……少しばかり、私は困惑しています」
責めるような口調で、リーリヤは唇をキュっと結んでそう言った。
「困惑?」
「不躾ながら……事情に踏み入っても……良いでしょうか?」
「構わんが?」
「……高峰さんとは電話で仲が良さそうでしたけど……お友達なんですか?」
「俺が生後三日の時から顔を互いに知ってる、幼馴染だ。もちろん、俺も向こうも初体面は覚えちゃいないが、物心ついた時には気づけば香織はそこにいたよ」
「……幼馴染?」
「知らないのか? 香織はここのマンション……というか、この部屋の隣に住んでいる。父親同士が会社の同期で仲が良いから昔から良く行き来していてな」
「あの……その……高峰さんも……お家に…………来るんですか?」
「来るだけじゃなくて、二人で一緒に遊びにも良くいったな。まあ、俺が中学に入った辺りで、学校で噂になったりして……さすがに恥ずかしくなったから、それは辞めてくれと頼み込んだんだ」
そこで「噂になって恥ずかしかった……」と呟き、リーリヤの表情がパアっと華が咲いたように明るくなった。
「それで? それでどうなったんですか?」
「それ以来、あいつは家に来なくなった」
「……なるほど」
「まあ……家に行ったり来たりはここ数年無いが、会えば普通に挨拶も立ち話もするよ。込み入った話の時は、たまに電話とかマックとかで会って相談を受けたりお説教喰らったりもするから……今でも仲が良いと言えば仲は良いかな? それがどうかしたか?」
「あ、いえ……その……どうもしませんっ!」
ほっとした風にリーリヤは薄い胸を撫でおろしている。
「ところでリョータさん?」
「ん? どうした?」
「……高峰さんのことは香織って……名前で呼ぶんですね?」
「昔からそうだからな。逆に俺が高峰とか高峰さんと……香織のことをそういう風に呼ぶのはさすがに不自然だし、あまりにもよそよそしいだろ。向こうもリョータって呼んでくるし」
「……」
「……」
「……でも、私のことは『お前』なんですよね?」
「……」
「……」
「分かったよ。リーリヤ」
「……分かってくれて嬉しいです」
「そうか」
「……そうなのです」
そう言って、リーリヤは嬉しそうに……けれどやっぱり、いつものように頬を赤らめてそう言ったのだった。
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