第31話 そんで
片岡家のインターホンが鳴ったのは、月曜日の午後であった。
その時、杏奈は家族が不在なのをいいことにノースリーブ短パンで棒アイスをかじりながら、絶賛思春期である弟のゲームを無断拝借していた。
インターホンの音を聞いて、弟が帰って来たのかと慌ててゲーム機をクッションの下に隠して玄関に向かった。「また鍵忘れたんか……」などと、文句を言いながら。
ドアを開けて立っていた人物たちを見て叫び声を上げたのは数分前のこと。
「杏ちゃん、ごめんね……一応連絡入れといたんだけど」
ソファに座って謝る橋本はなえに、杏奈はスマホを見て「ホンマや!」と答えながら、急いで着替えていた。驚いて叫んだ時に棒アイスが垂れ落ちたのだ。
「ごめんな。こんな大勢で来るつもりなかってんけど。俺らやっぱ帰る――」
リビングから聞こえた長谷川誠人の言葉に、杏奈は「ま、待って!」と、大きな音を立てて自室の扉を引いた。
「せっかく来てくれてんから」
「でも――」
「部長も!」
杏奈が力強く言うと、はなえ、誠人、そして野球部の三年渡瀬が同時に頷いた。
「麦茶淹れますね?」
「あ、じゃあ……私も手伝う」
「ありがとう」
女子二人でキッチンへ向かう――やいなや、杏奈が興奮気味にはなえに聞く。
「はなちゃん! なんで? なんで部長がおるん?」
「あの……先生がプリントが溜まってるから、夏休みに入る前に届けてやれって」
「うん」
「で、学級委員だからって私と長谷川くんが持ってくことになって」
「うんうん」
「で、バスに乗って近くまで来たんだけど……迷子になって」
「迷子!?」
「二人でスマホのマップ睨んでたら……渡瀬部長が通りかかって」
「え!? 近所やったん? 部長!?」
「ナビしてもらって、ついでに心配だから片岡さんの顔チラッと見てくって言って」
「そんで」
「そんで……ピンポン押したら、杏ちゃんが出て来て叫んで」
「そんで、今こういう状況なん? 偶然怖すぎへん?」
杏奈が「ツッコミたいことだらけやわ」と冷蔵庫を開けながら笑った。
その笑顔に安心したように、はなえもつられて笑う。
「よかった……」
「うん?」
「先週、長谷川くんの家に行った時に、体調悪いって帰っちゃったでしょ? それから、1週間も休んでたから。でも、元気そうでよかった」
「あー」
今日は少しやる気のないフワフワの茶髪を撫でながら、軽く唸るように続けた。
「うち、あの日、長谷川に告ったんよねぇ」
長谷川くんは黙らない くまで企画 @BearHandsPJT
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