第15話 3年5組

 昼休み、はなえと杏奈と誠人は3年5組に向かっていた。


「3年生の教室って階違うから、なんか緊張すんなあ」

 杏奈がはなえの両肩に手を置きながら言う。はなえは、笑顔になる。

「そうかな。でも、全然雰囲気違うね」

「ほんまやな、なんか先輩って感じやな」

 はなえの言葉に先陣を切っている誠人が答える。


 3年5組の前に行くと、誠人は入り口近くにいた上級生に声を掛ける。杏奈はそれを見ながら、小さい声で呟く。

「長谷川って、ほんま物怖じせえへんよね」


 上級生は教室に入って行き、入れ替わりに渡瀬部長が出て来る。

「おー! 誠人、どしたー」

「入部届ください」

「ん? 後ろのふたりも?」

 渡瀬部長が笑顔で、はなえと杏奈を見る。はなえは夢中で首を縦に振る。

「そうかあ! いやあ、嬉しいなあ。ちょっとちょお待っとってな。三好ー」


 教室に入って行った部長が、昨日のタイム測定でストップウォッチを持っていた野球部のマネージャーに声を掛けている。一言、二言話した後に、部長が用紙を持って戻ってきた。

お待ちどおさまおまっとおさん

 部長が誠人に3人分の用紙をバサッと渡す。

「それ書いたら俺か、あそこあっこおるマネージャーの三好か、岡田先生にでも渡してくれたらええから」

「あの」


 はなえが誠人の横からグイッと前に出る。


「今日は部活あるんですか?」

「うん、あるよ。今週いっぱいは部活動見学やから、来てもろても、昨日と同じような挨拶とちょっと走り込んだり、キャッチボールするくらいで。マネージャーは、まだやることないから来週から来てくれたら――」

「今日行きます!」

「お、やる気あるなあ。橋本さんやったっけ。ほな、ハニワ用意して待ってるわ」


 部長が笑いながら答える。はなえは「はい!」と元気に返事をする。


「はしもっさん、そんなにハニワ気に入ってたんか」

 誠人が感心したように言う後ろで、杏奈がセーターの袖で口元を隠しながら言う。その声は誠人に言っているようでもあり、独り言のようでもあり。


「あほちゃう。絶対あれやん……」


 それは、どこか安心したような小さな声だった。

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