2回目の搭乗
『緊急配備!これより10分後、交戦中のナリバ基地の応援に入る。各自戦闘配備につけ!』
トレーニングルームにいられなくなったイチカはトレーニングウェアのまま後方展望デッキにいた。思考を極力しないように無心でデッキ内を往復浮遊していたが、けたたましく鳴り響いた艦内放送にイチカは踵を返し壁を蹴る。
ロッカールームに飛び込むと自分のロッカーを素早く開き、中にあるパイロットスーツをトレーニングウェアの上から着用。ヘルメットを脇に抱え、トリニティのある格納庫へ向かう。
無重力だとタラップを上がらなくて済むのが楽だ。
ヨンゴのコックピットに泳ぎ入ると、すぐさまオペレーターとブリッヂ、ナナミとの通信を開き、ヨンゴの発信準備を手短に済ませる。
「イチカ・キリシマ、発信準備完了してます」
『お、イチカ、ヨンゴに乗れたんだ〜!エライねぇ』
ナナミのニタついた笑みがモニターに映る。壊れかけのおもちゃが崩れるか崩れないかを楽しんでいるようだ。
イチカはこめかみがぴくりと反応するのを感じたが、あくまで冷静を装って口を開く。
「早く出たくて仕方がないくらいだよ」
『ウフフ、いいねいいねぇ。機体は完璧に整備しておいたから!楽しんできて〜!』
自分でも想定以上に冷たい声が出てしまったが、ナナミは気にしていないようだ。ナナミは言いたいことを言うとブツリと通信を切ってきた。
カタパルトへ移動しながら、五月雨にアキトから通信が入る。
『出撃準備は?』
「完了してる」
『了解。キリシマ少佐、』
最低限の確認をするだけだと思っていたイチカは、予想外に続きそうな会話に逸らしかけた視線をモニターに戻した。
『俺の声を見失うな』
前回の戦闘で何かオペレーターからの命令違反をしたのだろうか?記憶が曖昧なため自信がない。
「わかった。頼りにしてる」
イチカは自分で言った言葉に片方の口角が上がってしまった。頼りにしている?半分本当で半分嘘だ。アキトのオペレーションは頼れる。ただ、人を殺すのはあくまで私、オペレーターは所詮バックアップ、安全なところからわかったようなことを言うだけだろうという、反抗的感情が黒く溢れでるのを止められはしない。
イチカが喉元まで出かかった本音をごくりと飲み込み腹の底へ押し戻すと同時に、ブリッヂから出撃命令が入る。
「イチカ・キリシマ、ヨンゴ、発進します」
前回の出撃と違い、無重力の中での発進はストレスがない。滑るように漆黒の宇宙へ滑り出る。
イチカは一度緩めたアクセルを再び踏み込み、爆光瞬くナリバ基地へと加速した。
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