女神の恋慕
ギスタの後方展望台近くのとある部屋。
そこは艦員たちから女神と呼ばれる女が暮らしていた。
戦艦の1人部屋には不相応なセミダブルのベッドに横たわる女の姿は、あるで神話のワンシーンのようだと、この部屋に来る者たちは口を揃える。
ある者はその神聖さに心を洗われ、ある者は支配し穢したいという欲望を抱えるらしい。
しかし、いずれにしてもエレナという女は、変わることなく慈しみと共にそこにいて、誰しもを隔てなく受け入れるのだ。
そう、変わることはなかったのだ、これまでは。
エレナはタブレットで艦員名簿をめくっていき、先ほどまで会っていた女のページで指を止めた。
「イチカ...キリシマ......」
そこにはイチカの簡単な経歴や家族構成などが載っている。
その情報からも、自分が知っている人物とは何ら関わりがないことは明白だったが、エレナはどうしてもイチカが見せた表情に昔の想い人が重なっていた。
儚く、脆そうでありながら、すんでのところで壊れない。
なんと心の奥底を熱くさせることか。
もう誰にも抱かないと思っていた感情を、まさか再び抱えることになるとは。
エレナはさっとタブレットを閉じるとパタリとベッドに雪崩れ込んだ。
目を閉じると浮かぶのはイチカのことばかり。
口角が自然と上がるのがわかる。
彼女の首筋に、額に、唇に触れたなら、どんな反応をするだろう。
きっと戸惑いながらも拒絶はしない。どうしたら良いか分からず、答えを求める子どものように揺れる瞳で私を見上げるだけだ。
......そうなったらどんなに良いだろう。
エレナが物思いに耽っていると、部屋のベルが鳴った。
どうやら務めの時間になったらしい。
イチカもこの部屋を訪ねてくれないだろうか。
来てくれたなら、とことん彼女の望む時間をあげるのに。
部屋のドアが乾いた音を立てて開く。
この勤めを始めてから、訪れる人間の目を見れば自分がこれからどんな扱いを受けるのか分かるようになった。
さて、今日はどんな目をした人が来てくれたのだろう---。
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