Act.36:精霊王②


「うーん、何から話しますか。まずは私についてですかね? あ、でもさっき話しましたっけ」

「ん。名前だけは聞いた。あと精霊王」

「そうでしたね。改めまして、私の名前はティターニア。さっきも言ったと思いますが精霊王とも呼ばれてます」


 改めて自己紹介をするティターニア。

 精霊王……ついさっき、ラビからも聞いた、エステリア王国の初代国王と王妃が会ったと言われている、全ての精霊を束ねると言うか、統べる存在の事だ。

 これを聞いたのはさっきのが初めてだけどね。


「ん。リュネール・エトワール」

「え、えっと、ブラックリリーよ」

「ええ、存じていますよ。こちらの世界にやって来た時から見ていましたからね」

「え?」

「全然そんな気配は……」

「ふふふ、精霊王なので」


 この世界に来た時から……ゲートを繋いだ時から見ていたという事だろうか? 全く見られていた気配は感じなかった……多分、ラビとララもだ。

 それだけでティターニアが只者ではないのは確かだろう。まあ、精霊王って言ってるし普通ではないのは確かなんだけどね。さっきも感じたけど、ティターニアから感じる不思議だけど只者ではない魔力。これがそう物語っているし。


「それで、一番気になっていると思われるこの半透明な姿になっている理由なのですが、あなた達も知っている通り、外側……精霊の森が徐々に小さくなってきているからです。というのも、私の力が弱まってしまってきていると言えば良いでしょうか」

「力が?」

「はいそうです。やろうと思えば半透明ではない状態にもなれますが、力が弱まっているので無駄な所に使えないと言った所でしょうか」

「えっとつまり、あの森を守っているのは……」

「お察しの通りです。私が今力を使って何とか維持させている感じですね。体感的には15、6年でしょうか。あなたたちも知っていると思いますが、この妖精世界は滅んでしまっています」

「ん……」


 それはもう分かっている事だ。その原因もラビやララから聞いている。でも、魔法実験の失敗とは言っていたけど、正確にが分かってないという事も聞いた。


「この世界の魔力が消えていく時、何とか一部を私がここに留めさせ、この森を維持させていました。ですが、私の力も無限ではありません。最初は森全体を守れていましたが、今ではかなり縮まってしまっているのが証拠ですね」

「……」

「今の範囲であれば、恐らく半永久的には守れると思いますが、私自身がこちらに専念しているので外への手が出せません。精霊たちには魔力の薄い外は有毒なのでこの森の中に留まって居ます。見えないと思いますが……」

「ん……精霊が森にいる?」

「居ますよ。ただ魔力を抑えるために透明または半透明の状態で居るので、普通では見えません」

「そうなんだ……という事は、ゲートの近くにも」

「居ましたね。とても興味深そうにあなた方を見ていましたね」


 そうだったの?

 気配も感じなければ視線も感じなかったのに……いやまあ、ティターニアも言ってたように、透明また半透明で居るらしから見えないのは当たり前か。

 でも、透明ならともかく、半透明なら見えても良い気がするけど……わたしたちでは半透明も見れないという感じだろうか。でも、ティターニアは見えてるけど。


「うーん、なんと言いますか。結構人見知りな子が多いので、半透明な子も隠れていたのだと思いますよ」

「なるほど……」


 人見知りなら仕方がないね。それに、わたしたちはこの世界の住人ではなく地球の住人だし……。


「精霊たちについては一度置いておきますか。この森があのように維持できているのは私の力によるものだというのは理解してもらえたかと思います」

「ん」

「難しい話はわからないけれど……森が無事なのはあなたのお陰というのは分かったわ」


 しかし、範囲は縮まってるとは言えあの森を維持できるというのもかなり凄い事だと思う。これが精霊王の力という事なのだろうか……何というか、更に凄い存在が出来たなぁ。


「わたしたちはどうしてこの場所に? と言うよりここは……」

「そう言えばそれは言ってませんでしたね。ここは簡単に言えば、私の世界です。世界というのにはちょっと大袈裟ですが」

「世界?」

「固有空間とでも言えば良いですか……取り敢えず、世界から切り離されている場所です。なのでここで過ごしている間は外の時間は経過しません。もちろん、あなた方の世界もです」


 うん。

 何だろうね……妖精もそうだけど、何故そうも普通に世界の常識を覆せるのだろうか……いやこれは突っ込んでも別世界です、とか人間ではない存在です、とか言われたらそれで終わりだけども。

 取り敢えず、とんでもない存在だというのは再認識した。


「(ブラックリリーの空間魔法でも出来る?)」

「(流石にそんなの無理よ……いや、もしかしたら出来るかも知れないけど多分魔力足りないわね)」

「(ん……だよね)」


 空間魔法が使えるブラックリリーなら似たような事が出来るのでは? と思ったけど、流石に無理か。いやもし使えたとしても、どうするんだって話になるけどね。

 でも、そんな空間が作れたら時間とかを気にせずに話をしたりとかが出来そうだよね。あーでも、維持するにも結構えぐい魔力を消費しそうな気がする……。


「それで、ここに来る際に石碑を触ったと思いますが……」

「ん……触ったね」


 あの掠れていたけど、古いようには見えない石碑。あれを調べていた時に、何か急に光りだしてわたしたちは気を失ったから。やっぱりあれがここに来た原因なのだろうか。


「実はあれ、私が設置した物です」

「え」

「あの石碑にはここに転移させる魔法を組み込んでいました。因みに発動条件は二人の手が石碑上で重なった時、ですね」

「何故二人……それにわざわざ面倒な発動条件を……」

「簡単に発動しないようにしていたので。それにあれを設置したのも大分前ですしね……ここに転移してきた人に今起きていることを伝えるつもりでした」

「でも、精霊王なら直接ここに飛ばすことは出来るような気がするけれど」

「力がなくなっていくという、先を見据えて設置した物なのですよ。確かに私がここに直接呼ぶことは出来ますが、そうすると森を維持している力が弱まってまた狭くなる可能性がありますから。まだ余裕がある時ならそれでも良かったんですけどね」

「それで……」

「今回、あなた方が見つけてくれたので良かったです。第三者の協力が必要でしたし……ようやく来たチャンスを無駄にはしたくなかったのでもし、石碑を見つけてくれなかった時は、自分の力でここに呼んでたかも知れませんね。その際、また森が小さくなってしまうと思いますが」


 まあ、ここ妖精世界だもんね。

 世界自体は滅んでしまっているから、生き残りが居ない限り永遠に第三者は現れなかっただろうと思う。だけど今回は、運が良かったのかわたしとブラックリリー、ララとラビという4人が来た訳だ。


「という事はわたしたちに何か協力して欲しいという事?」

「率直に言うとそうなります。と言っても、そんな面倒な事ではありません」

「んー……」


 協力するかは別として、精霊王の頼みってなんだろうか? 面倒な事ではないと言ってるけど……うーむ。


「協力してくれるかは別として、何をして欲しいのかを先に言えば、森の再生を手伝って欲しいと言う所でしょうか」

「森の……再生?」

「はい。この森は現在、何とか維持できていますし、最初よりは大分狭くなってしまっていますがこの範囲であれば、私の力で半永久的に持つと思います。ですが、こちらに私が専念しているので他には手を出せません。この周囲には何やら影のようなものが彷徨いているのは見たと思います」

「ん」

「ええ、そうね……」


 この精霊の森の周辺は真っ暗な世界が広がっており、何かの影(恐らく魔物)が彷徨いているのは何度か見ている。ブラックリリーも空から見ていた訳なのでそれを当然認識しているだろう。


「そちらも知っている通り、あの影……いえ、魔物でしたね。あの魔物はこの世界の存在ではありません。魔力に惹かれるという特性を持ちますが、魔力がなくても魔物は動けます。当然、普通よりは弱くなるでしょうが」

「魔物をどうにかして欲しい?」

「いえ、魔物については今は良いのです。私の力が今弱くなってしまっているので、これがある程度戻ればあんな魔物程度ならいくらでも葬れます。あなたたちにお願いしたいのは、私の力を……魔力を回復させて欲しいと言う事です」


 いくらでも葬れる……流石は精霊王というべきか。

 しかし、魔力を回復? どういうように?


「(あなたの使う、魔力譲渡があるじゃない?)」

「(あるね。あれで良いのかな)」

「(じゃないの? だって魔力って今言ったじゃない)」


 魔力と言っても、精霊との認識が同じかはわからないし……。


「魔力については、あなた方の認識で会っていますよ」

「聞こえてたの?」

「と言うより、ティターニアは心とかが読めるらしい」

「何それ、反則じゃない」

「ふふ、精霊王なので」


 何でも精霊王だからと返しても、納得できないと思う。

 まあ、力が異様なのは確かなので、わたしとしては納得しているけれどね。


 それは置いておき。このティターニアの話……受けるべきか受けないべきか。しかし、手掛かりにもなる。わたしは未だに気を失ったままのラビとララを見る。


 そう言えば、ここまで起きないのは何か可笑しいよね……もしかして……いや、それは後で聞こうか。


 さてどうするか?



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