第30話 倒れた原因
ギルバート様の目が、その資料を追う。その横顔を見つめていると、とても素敵だなぁなんて思ってしまう。それぐらい、私は呑気だった。どうせ、私が倒れた理由なんてそこまで肝心じゃない。そう、思っていた。でも、ギルバート様のお顔が見る見るうちに怒りに染め上げられていくのを見ると……私も、焦り始めた。
「サイラス、これは」
「はい、まぁ、簡単に言えば旦那様の想像されている通りでございます」
サイラスさんとギルバート様が、何かをこそこそとお話されている。私だけが仲間外れというのは、気分のいいものではなかったけれど、この場合は仕方がない。そう思って、私は植物図鑑が山積みにされている机と違う方の机から、コップに入ったお水を取る。クレアとマリンが、喉が渇いた際にと置いて行ってくれたものだ。
「……シェリル嬢。聞いていて、かなり不快な結果が出てしまった。それでも、聞くか?」
お水を飲んでいると、ギルバート様がそう声をかけてこられる。……不快な結果。だけど、私の実家の話以上に不快なことなど滅多にあるわけではないだろう。私はそう楽観視して、ギルバート様のお言葉にうなずいた。
「その、私の病状って――」
「――はっきりと言えば、これは病気の類ではない。まぁ、世にいうまじないの類だ」
私の言葉を、ギルバート様が訂正される。……まじない? それは、呪いとか魔術とかそう言うことだろうか? そう思って私が目をぱちぱちと瞬かせれば、ギルバート様は「シェリル嬢の魔力が、自動的に他人に流れるようになっていたということだ」なんて続けられる。……人の魔力が、自動的に他人に流れるなんてことありえない。でも、何故だろうか。私には腑に落ちる部分もあった。
(元々、私の魔力は膨大だった。それこそ、時々暴走してしまうぐらいには)
幼少期。私の魔力は膨大すぎて、身体の中にある器に入りきらなかった。その所為で、魔力が暴走しアシュフィールド侯爵家の屋敷を壊してしまうことも多々あった。……それが、私が父たちに疎まれている本当の原因。今の今まで、醜い記憶として封印されていた、真実。
だけど、いつぐらいからだろうか。私の魔力暴走はぴったりと収まった。私はそれを勝手に「身体が成長して器も大きくなったのだ」と捉えていたけれど、ギルバート様のお言葉を聞くに誰かが私の魔力を奪っていたのだろう。
「この記録によれば、かなり前からだな」
「で、ですが、その場合何故私は今の今まで無事でいられたのでしょうか……?」
だけど、ギルバート様のお言葉には不可解な部分がある。ギルバート様のお言葉によれば、私の魔力はかなり前から奪われていた。けど、今の今まで倒れるところにまでは至らなかった。なのに、今になって突然倒れるなんて……意味が、分からないの。
「ここからは、私が説明しましょう。……シェリル様の魔力は、土と連動していると思われます」
私がギルバート様に詰め寄ろうとすれば、サイラスさんがそれを手で制してそう言った。その目は、とても真剣なものであり、とても嘘を言っているようには見えない。でも、土と連動する魔力なんて、あるわけがないと思う。
「シェリル様は、ご実家でまともな教育を受けていらっしゃらないので、知らないのも仕方がありませんが……。この世には、土、水、火、風、そして光に連動する魔力を持っている女性が度々生まれます。その自然の力と連動した女性のことを、世界では『豊穣の巫女』と呼びます。その『豊穣の巫女』は、普通ならば生まれた王国から手厚く保護されます。……ここまでは、分かりますね?」
「……はい」
「その『豊穣の巫女』は、自然と魔力が連動しているので、連動している自然の力が落ちれば魔力の量も少なくなります。今までシェリル様が倒れなかったのは、土が豊かだったからでしょう。……ですが、今年になって土の魔力枯渇が始まってしまいました」
「つまり、土の魔力が枯渇したから、私の体内の魔力も少なくなった。……そこに、追い打ちがかかって――」
「そう言うことでございます」
サイラスさんは、綺麗な一礼の後ギルバート様の後ろに引っ込んだ。……だけど、ちょっと待って。私は王国から手厚い保護なんて受けちゃいない。
「シェリル嬢の疑問は、大体分かる。この国では女児は十二の誕生日に『豊穣の巫女』かどうかの適性検査を受けることになっている。だが、シェリル嬢の様子だとその適性検査も受けていないのだろうな。……実際、虐待を行う親の中には受けさせない者も一定数いる」
ギルバート様は、そうおっしゃって何処か悔しそうなお顔をされた。……そのお顔を見ていると、私の胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。私、こんなことになってギルバート様にご迷惑をかけてしまって……。そう思うのに、口からは謝罪の言葉が出てこない。その代わりに出てくるのは、父や継母への怒りだった。
「それから、シェリル嬢の魔力を奪っていた輩だが――」
――そいつの名は、エリカ・アシュフィールドだというところまで、特定できた。
そして、戸惑う私にギルバート様はそう告げられた。……エリカ・アシュフィールド。それは、久々に聞いた私の義妹の名前。
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