第11話

 今日はお茶会に来ている。


 正直言えば来たくなかった。なにせホストである侯爵令嬢のララは、カルロを狙っている一人だからだ。だが格上の侯爵家からの招待を断る訳にはいかない。


 ララは事あるごとに家格で釣り合いが取れるのは自分だと、私はカルロに相応しくないと、そう言い続けている。今日のお茶会でもマウントを取る気満々だろう。


 やがてお茶会の指定されたテーブルに着いた途端、私はすぐさま帰りたくなった。なぜかルナ、リズ、ミラの三人と同じテーブルで、私の席はララのすぐ隣と。


 完全に包囲網を形成されてしまった。三人はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。心の声を拾ってみた。 


『フフフッ! リタ! そんな澄まし顔をしていられるのも今だけよ! たっぷりと恥を掻くがいいわ!』


 これはルナ。


『フフフッ! お姉様! その顔が苦痛に歪む姿を早く見たいわ! せいぜい苦しみなさい!』


 これはリズ。


『フフフッ! リタ様はどんな声で泣いてくれるのかしら? 楽しみだわ~♪』


 これはミラ。


 なるほど。方法は不明だが、私になにかしら恥を掻かせようとするらしい。私は警戒しながらお茶会の開始を待った。やがてララが現れ挨拶を始める。


「皆様、ようこそおいで下さいました。本日はごゆっくりお楽しみ下さい」


 ララが私の隣の席にやって来た。


「リタ様、今日は特別なお茶をご用意致しましたの。是非ともリタ様にご賞味頂きたいのですわ」


 そう言ってとても良い笑顔を浮かべている。怪しい事この上ない。心の声を拾ってみる。


『オーッホホホッ! このお茶には世界一辛いと言われる唐辛子「ドラゴンズ・ブレス」をたっぷり入れてあるのよ! 悶え苦しむがいいわ! 身の程も弁えずカルロ様に言い寄った報いを受けなさい! オーッホホホッ!』


 なるほど。そういう魂胆か。そっちがその気ならこっちも遠慮なくやらせて貰おう。


「えっ!? カルロ!?」


 私か指差した先には、カルロに良く似た髪色と体型の給仕役の執事が、こっちに背中を向けて立っている。もちろんカルロのはずはない。だがララを含むカルロ大好き娘達には効果覿面で、


「「「「 えっ!? カルロ(お義兄)様!? 」」」」


 全員の意識が執事の後ろ姿に集中した。その隙に私とララのお茶をカップごとすり替える。


「ごめんなさい、見間違いでしたわ。こんな所にカルロが居るはずがありませんものね。お騒がせして申し訳ございません。お茶を頂きますわね」


 そう言って私はお茶を一口飲んだ。皆が固唾を飲むのが分かる。


「あら美味しい! とても良い茶葉ですわね!」


 皆はポカンとしている。


「皆様? どうかしました? とっても美味しいですわよ?」


 私がそう言うと皆は首を捻りながらも、それぞれがお茶を口に運ぶ。そして...


「ブッホォォォッ!」


 ララが盛大にお茶を吹き出した。その飛沫は対面に座っていた三人娘に振り掛かる。


「「「 ギィヤァァァッ! 」」」


 お茶会は阿鼻叫喚の場となった。


 ざまぁ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る