はんぺんの材料は魚です

 ジェルソン民は皆、村へ戻っていき。

 天使は新しい茶革鉄骨のソファーに座ってソシャゲり。

 俺は、シェルター内のキッチンにやってきて。

 

「差別化・・・」


 そう、一言、地面にこぼした。


 その後、前を向き。

 そして、新メニュー開発へ取り掛かる。


「ヒヨリちゃん、例のものを!」


「タラちゃん!」


 ヒヨリちゃん先生が、一匹の魚を天にかかげた。

 そう。

 ついに、タラちゃん。

 あなたの出番がやってきたのです。


「ヒヨリちゃん、本当にこの子で『はんぺん』作れるの?

 俺、はんぺんって、豆腐の一種だと思ってた」


「はんぺんの材料はお魚ですよ。

 タラちゃんの他に、サメも材料として使われる場合もあるんです」


「サメ、食べちゃうんだ」


「今回はタラちゃんを使います。

 セイルマンで水揚げされたタラちゃんが、ガンダルでも販売されたいましたので。

 さらには、オークラ産の『山芋』ですね。

 これらをすりつぶして、お塩を加えて、めちゃくちゃ混ぜ混ぜします。

 最後に整形して、10分煮れば完成です」






*****






 ここからタラをすり身にするのに多少時間がかかりますので、皆さまはイクラの映像をお楽しみください






*****






で上がりました。

 よく見る、三角のはんぺん、出来上がりました。

 熱々です」


「じゅるり。

 おでん」


 ヒヨリちゃんがよだれを垂らした。

 おでん。

 それも当然、新メニューとして有りである。

 しかし、今回検討しているメニューは、おでんではない。

 では、ここで問題です。

 はんぺんを使う、今回俺たちが検討している料理は、一体なんでしょうか?






*****






 ここから皆様がシンキングタイムに入りますので、波ダッシュの映像をお楽しみください






*****






 クッキングスタートです。

 今回の試作の、本当の主役は、コイツだ!


「エビ!」


 エビの殻をむき、背腸せわたを取ってから。

 5mm角程度のサイズに切ります

 次に、はんぺんをつぶし、コイツにエビを入れて混ぜ合わせ。

 こねて、ハンバーグのような形状に整形。

 小麦粉、卵、パン粉を通過させ。

 揚げ焼き。


 完成!

 『えび寄せフライ』!


 そしてコイツを、レタスと共にコッペパンに挟む。

 味付けは、タルタルソース+レモン汁。


 そう、正解は・・・。


「『エビカツサンド』です!」






*****






 一夜明け。

 喫茶店、開店直前。

 俺は、メニュー表に以下の項目を追加した:


・[☆NEW] エビカツサンド 700G


 その他のメニューには変更はない。

 ミエルさんも、ヒヨリちゃんも。

 ウェイトレス姿に着替え、準備は万端である。


「営業中のアイコンと、看板を出してきます」


 そう言って俺は、ガンダル、ポリンク間に展開してある喫茶店の外に出た。


 が。


 そこには、先ほどまでなかった。

 存在しなかった。

 俺の喫茶店と、全く同じ喫茶店。

 それが、1本の道を挟んで、反対側に。


「でっかい鏡でもあるんかいな?」


 そんな冗談を雑に漏らし。

 相手が、その喫茶店から出てくるのを待った。


「ご機嫌よう、タドル!」


「おはようございます、アリサさん」


 ドアをドバンと開いて、出現したのは当然。

 金の玉の少女だ。


 やはり、やってきましたよ!

 ついに!

 競合が!


「タドル、見せてあげるわ!

 金の玉の力を!

 私のお店を見せてあげる!」






*****






「信じられらない・・・」


 そこに存在したのは。

 MILK FALMミルクファーム1号店と、おおよそ同じ内装だった。

 ただし、ワンルーム。

 調理場と客席は同じ部屋に存在する。

 部屋のサイズは、俺の喫茶店の初期状態と同じ。

 つまり彼女の喫茶店も、売り上げに応じて拡大するのだと思われる。


 嗚呼、これが・・・。


「『アイテム収納』の力なのですね」


「正解よ。

 家具は全て、ハミルトンから持ってきている。

 無限の収納力を持つ、神の力を使ってね。

 当然、調理器具も大方、揃っているわ。

 コンロとシンクの用意は、さすがに大変だったけどね」


「でも、1つ。

 足りない、何かが、ないですか?」


「それは、何?」


 では、ここで問題です。

 俺が、この店を見て、明らかに足りないと思ったのは、何でしょうか?






*****






 ここから皆様がシンキングタイムに入りますので、MILK FALMミルクファーム2号店の映像をお楽しみください






*****






「従業員です」


 そう。

 このお店には、彼女しかいない。

 さすがに、これだけの座席数を持つ料理店を、一人で切り盛りするというのは、無理があるだろう。

 なので、このような結論に至る。


「そこも、あなたの転生特典で、なんとか、してしまうのですか」


「分身!」


 そのアリサさんの声が聞こえると共に。

 アリサさんが。

 分裂し。

 2人になった!


「分身スキルとか、ありかよ!」


 が、しかし。

 驚嘆は、これで終わりではなかった。


「変身!」


 そのアリサさんの声が聞こえると共に。

 片方のアリサさんが。

 姿を変え。

 優しい瞳の。

 黒髪少女になった!


「まじ、かよ・・・」


「これで、仕事量2倍。

 しかも能力は、私と同等」


「嗚呼。

 会ったことあるわ、この人。

 アリサさんにナイフで脅された後に。

 コーヒー持ってきてくれた人だ」


 つまり、あのときの俺の情報も。

 アリサさんに筒抜けていた。

 ということだ。


「どっちが本当のアリサさんなんですか?」


 アリサさんが変身したのか?

 分身が変身したのか?

 そんなことが気になった。


「企業秘密です」


 2人の少女の声と、人差し指を唇にあてるポーズが重なった。

 ここで改めて。

 アリサさんの転生特典をおさらいする:


・高速移動

・アイテム収納

・分身

・変身


 その他、6個の、未知の特典が存在することになる。

 ただでさえ強いアリサさんが、2人に分身し。

 そいつが同じ能力を持つ。

 しかも、どちらが本体か判別不可能。

 戦闘能力的に考えても、チート級の能力であると。

 恐怖の念を持って考察した。


「ちなみに、もう1つ教えてあげる。

 料理スキルは転生特典ではありません。

 で、うまいです。

 あと。

 私に作れない料理は存在しません。

 あなたが提供する料理。

 いつだって真似、できますからね」


 そう言って、いやらしい笑みを浮かべた競合。

 しかし、まだ勝算は、ある。


「どれだけ、アリサさんが有能でも・・・。

 2 vs 3。

 こちらの方が数では、従業員の数では、勝っています」


 この口撃に。

 アリサさんは、どう返すのだろうか?

 俺は、その回答を待つ。


「誰が、従業員は私しかいないと、いつ言った?」

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