醤油をめぐる冒険

転生特典に、ユニークスキル『飛翔』は指定できません

 『ウェイトレス襲撃事件』は、『フランチャイズ宣言』で幕を閉じた。

 アリサさんが去ると、すぐに天使がカムバック。

 そこから始まる種々の冷やかしに対しては。

 適当な返答で誤魔化しておいた。

 そんな天使が、『あの、がね・・・』、とこぼしたのを、俺は聞き逃さない。

 おそらく、顔見知り。

 『転生時に顔を合わせていた』、という予測が生まれたのだった。






*****






 そして、ついに、やってきた、船出の日。

 俺は、この日を、『醤油記念日』と名付けることにした。

 早朝、ミエルさんに、パレル近郊まで転送してもらい。

 喫茶店収納後、2人で出発。


 昇る太陽の光をいっぱいに浴びる。

 海に浮かぶ、木造の船。

 その船が持つ、『3つの帆』を。

 桟橋さんばしから、見上げ、ながめる。

 構造的には、2つの横帆が前方に配置され、後方に三角の帆が付いている構造。

 正直、想像していたモノよりは、少し小さい。

 が、後方の三角帆の前に、コンテナがギリギリ配置できそうなスペースがあることを確認した。


 この船は、基本的には『物資運搬用』の船であり、そこに数人が『相乗り』させてもらう形だそうだ。

 ただし、『さすがに女性は廊下で寝せられない』、という紳士協定があるらしく。

 一部の客室の荷物を廊下に出して、ミエルさん用の部屋を作ってくれるらしい。


 『もう、ミエルさん、転移魔法で先に行けばよくない?』

 という言葉を発せられないのは、『海賊』や『クラーケン』というキーワードが存在するからであって。

 さらには、沈没しそうになれば、船ごと転移魔法で飛ばせるそうなので。

 もう、もはや。

 『海の守り神』なのである。


「船を出すぞ!

 乗れ乗れ!」


 海賊みたいなナリの白ヒゲのオッちゃんがかす。

 乗れ、っていっても、どうやって乗るんだよ。

 と、思ったら、船から木製のハシゴが降りてきて。

 冒険者と思われる、デカイ斧を背負った、黒い鎧の男が、先行して登っていった。

 なんか、あの人、見たことあるな。

 その後ろを、これまたデカイハンマーを背負った、ピンクの髪の女性が、続いて登っていった。

 なんか、あの人、見たことあるな。





 

*****






「やっぱり、知人でした」


 ハシゴを登った先で、俺を歓迎しれくれたのは。

 船員さんではなく。

 黒い鎧のダルトさん、武器屋のライザさんの2人だった。

 そういえば、2人は知り合いだと言っていた気がする。


「また、出会えて光栄です」


「こりゃあ、おったまげたな。

 別れの挨拶しに、ここまできてくれたのかい?

 それとも、『炎と鉄』が恋しいのかい?」


「炎と鉄と、『醤油』を求めての冒険です。

 その全てが、ガンダルにあると聞いて」


「おうおう、俺たち全員、同じ目的地かい」


 まるで、『この世の全てをそこに置いてきた』的な展開。

 海賊船に乗り込んだ仲間たち。

 醤油をめぐるる大冒険、ここに開幕。

 新番組『ソイ☆ソース』。

 第1話、『旅の仲間』。

 近日放送予定。

 うご期待。


「ラダーの前で立ち話をしないでちょうだい。

 つっかえる、でしょうが」


 もう1人、旅の仲間がいることを忘れていた。

 紹介せねば。

 話が、こじれないように。


「この人は、俺の店で働いてくれている・・・。

 ウェイトレスのミエルさんです」


 質素なウェイトレス衣装に身を包んだ絶世の美女が、甲板かんぱんに上がる。

 が、特に表情の変化を見せない2人。


「知ってるよ」


「なんで、知ってるんですか?」


「俺も、転生者だからだよ」






*****






 陸を離れた、船上で。

 同窓会的なもよおしが始まった。

 そこで。

 ダルトさん、のみならず。

 ライザさんも転生者であることが判明した。


「2人は、俺が転生者だって、気づいてたんですね」


「こんな変なやつ、普通はいないだろ」


「変なヤツって・・・」


「エプロン着て、ドラゴンの素材売りに来るヤツ。

 それを人は『変なヤツ』と呼ぶのだぞ」


「ですよねー」


「で、喫茶店の営業は、あれから順調なのか?

 天使を、き使って」


「順調でしたけど、醤油が切れたので、海を渡ってます」


「なるほど、わからん。

 で、そっちの無愛想天使は、なんで地上にいるんだ?

 天界から、追い出されたか?」


「たぶん、そうよ。

 『暇を持てあました、クソ上司の、たわむれ』、みたいな事情よ。

 それ以上は、聞かないで。

 怒りで、発狂しそうになるわ」


「それは、怖いな」


「どこの世にも、『人間関係の沼』というものは、あるのだなぁ」


 なごやかに進行する、同窓会。

 それは、突然の叫びによって中断されるのでした。


「船長!

 まずいです!

 食材がありません!」

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