急魔の包丁を使って倒した敵の肉を食べると、一時的にその敵の能力を発動できます

 ウェイトレス衣装のミエルさんが、報酬となるレッドドラゴンの角、2本を持ってギルドに現れると、ギルド内が騒然となった。

 『ウェイトレスとドラゴン』という組み合わせの、コントラストの高さによるものである、と考えます。

 同じく、報酬を受け取るギルドの受付嬢さんも、驚嘆リアクション。

 遠目で見ていたので、よくわからないが。

 手を握られて、引っ張られて。

 報酬のゴールドに加えて、何か紙を渡されて。

 そのあと、ミエルさんがギルド入り口で待つ俺のところまで戻ってきた。


「なんの紙ですか?

 それ」


「S級冒険者へのステップアップ試験の案内よ。

 でもS級になると、いろいろ個人情報を引き抜かれるから、毎回断っているの」


「『天使』、って名乗る、わけにはいかないですからね」






*****






 ハミルトン近郊に喫茶店を解放した時点で、夕暮れ。

 なんとか日が暮れるまでに帰還することができました。

 俺はソソクサと夕食を作る。

 メニューは、もはや手慣れた、チキン南蛮定食。

 飲み物は、


「酒!!」


 この酒は、ミエルさんのおごり。

 異世界生活、初めての酒。

 それは、黄金色の飲み物!

 それは、黄金色のシュワシュワした飲み物!

 コップとコップを合わせ。


「お疲れ様でした!」


「お疲れ様」






*****







「料理スキルの方も、順調に成長してきているようね」


 チキン南蛮定食を完食。

 ルーラーも倒せて、ご満悦なミエルさんなのでした。


「ここで、今回の依頼の報酬。

 その配分に関して、改めて、まとめるわね」


「了解です」


「報酬金とルーラーの角は私の物。

 それ以外はあなたの物。

 よろしいか?」


「ほんとうに、すみません。

 ドラゴンルーラーの革、全部もらえるって・・・。

 もう、当分、軍資金稼ぎは不要になっちゃいました」


「でも、また、狩りには付き合わせるから。

 楽はさせないわよ。

 次は、『黒い子』に、会えるといいわね」


「そですね」


 今回はたまたま、結果うまく行ったが。

 地獄のツナワタリ。

 できれば、もう少し難易度を下げて欲しい。

 『この世界で、一気にレベル32も上がった事案って、過去存在したの?』

 そんなことを言いたくなります。


「ルーラーの革鱗かくりんは、すぐに売るの?」


 ビールを飲みながらの、ミエルさんの質問。


「売りません」


「また、防具、作り変える?」


「作りません」


「じゃあ、革鱗かくりん、何に使うの?」


「ソファー」






*****






 チキン南蛮のお皿を下げ、新しい料理を持ってきた俺。


「お待たせいたしました」


 出来上がった料理をテーブルの上に置くと、天使さんの眉間にシワが寄る。


「なにこれ?」


「見たとおり、和風ハンバーグです」


「この展開、前もあったわね」


 しかし、今回異なる点は。

 何も包み隠す必要がない、という点であったのでした。


「和風ドラゴンルーラーハンバーグ、です」


「長いわね」


「せっかくなので、ちゃんと料理にしてみました。

 もうわかっていると思いますが、味は期待しないでください。

 というか、別に食べなくてもいいです」


「硬いわね」


 天使の反芻はんすう

 嫌な顔もせず、良い顔もせずの、無の境地で、その肉塊を平らげた。

 そして、


<<バヂバヂバヂバヂ!!>>


 天井に向けて、雷を吐いたのだった。

 ここで改めて、吸魔の包丁の取説の内容を確認したいと思います:


・包丁を使って倒した敵の肉を食べると、一時的にその敵の能力を発動できる

・包丁の所有者は、その能力を永久的に使用できる


 今のミエルさんは、この前者の状態。

 そして俺は、後者に対応する。


<<バヂバヂバヂバヂ!!>>


 ミエルさんの真似をして、俺も天井に雷のブレスを吐く。


「ユニークスキル、確認」


・シェルター操作権限

・喫茶店操作権限

・吸魔の素質

・ドラゴンブレス [炎]MP10

・ライトニングブレス [雷]MP20


「おめでとう。

 これであなたは、上級魔術師ハイウィザードに近い威力の魔法攻撃を手に入れたことになるわ。

 雷の魔法が使える人間は、そうそう、多くはないの」


 天使の賞賛を受け。

 そして、俺は思ったのだった。

 

「どこかに、◯ジソンって名前の人、いないかしら?」

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