ドラゴンソファー

シェルターの窓には、カーテンを取り付けられるようになっています

「体が痛いわ」


 早朝、シェルターから出てきたミエルさんが、ぼそりと漏らした。

 右手で首の後ろや肩、腰をみほぐしている。

 さすがに、鋼鉄質の地面の上で眠るのは、天使でさえ辛い所業しょぎょうであったようだ。


「なんで、天使の私が地面で寝て、人間のあなたがベッドで寝てるの?」


「セキュリティー的な理由です」


「問いかけに対する回答はいらないわ。

 解決策を提案しなさい」


「一緒に、寝ます?」






*****






 早朝から、簡単な『お仕置き』を受けたあと。

 俺は、ハミルトンの町へ再びやってきた。

 本来は1.5日程度の旅路になるのだが、まさかの10分で到着した。


 問題です。

 なぜ、そんなことが可能だったのでしょうか。

 

 ピンポン!

 越◯製菓!


 正解は、『ミエルさんに転送魔法を使ってもらったから』、でした。

 転送魔法、便利すぎる。

 2人で手をつないで、彼女が転送の魔法の行使を開始する。

 彼女のテノヒラはひんやり冷たくて、俺のテノヒラの熱が彼女に伝わっていくようで。

 心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

 その後に。

 『絶対に手を離さないで。次元の狭間に落ちる可能性があるから』、という警告を受け、テノヒラが汗ばんでいくのを感じたのだった。


 転送の時点で喫茶店はクローズの状態。

 『巨大、かつ重量のある物体の転送には、大量の魔力が必要になる』という解説が添えられた。

 転送は正常に完了し、俺とミエルさんは、ハミルトン近郊の草原にやってきた。

 そのポイントで喫茶店を再度オープン。

 ここから徒歩でハミルトンへ移動した。


 しかし、今、俺は1人である。

 手に握りしめているのは『買い物リスト』。

 今回は主に、ミエル陛下への上納品の購入がメインタスクとなる。

 以下、買い物リストの内容を列挙する:


・掛け布団用の布

・枕用の布

・カーテン用の布

・糸

・ウェイトレス衣装


 さて、これらのアイテムが必要な理由を、1つづつ紐解いていこうと思います。

 まず、女王陛下は『寝具が欲しい』、とおっしゃいました。

 さすがに、シェルター前室にベッドを配置すると手狭になってしまうので、この案は棄却。

 布団を地面に敷いて寝ていただく案が承認された、のだが。

 この布団。

 とてつもなく高価なのである。

 今の俺のお小遣いでは、手が届かない。


 そこで気づいたのは、『羽毛、ある!』ということである。

 そう、にわとり狩りで手に入れた、巨大鶏の羽毛。

 これも冷蔵庫に、大量に備蓄してある。

 この羽毛を適当な布でくるむことで、最低限『布団』と呼べる物体を作成する。

 その案で了承を頂いている。

 そして、ついでに、同じ製法で、『枕』を作成する。

 敷布団も欲しいところだが、これは『狼の毛皮』を縫い合わせて作成、という提案が通っている。


 次に、『カーテン用の布』。

 これは窓から俺が中をのぞき、鼻の下を伸ばした、そののち、飛び膝蹴りを食らわされる。

 そんなイベントを回避するために必要なもの、だということです。

 シェルターの壁は硬く、釘を打ち込むことができない。

 が、こんなこともあろうかと、カーテンを引っ掛けることが可能な出っ張りを、ミエルさんが設計時に追加しておいてくれたらしい。

 さすが、芸が細かい天使さんである。


 適当な布を買って、木材を円筒形に削ったものに巻きつける。

 これで『カーテン』の完成となる。


 針と糸は購入済みであるが、糸は現状量だけでは足りないので、買い足すのである。


 そして最後の1つが『ウェイトレス衣装である』。

 俺は、これに関するやりとりについて回想する。


 ホワンホワンホワンホワン・・・ 






*****





「さすがにこんな衣装だと、男どもが野獣に変わってしまうでしょ。

 だから、私の服を買ってきてちょうだい」


「服って、どんな服を買えばいいんですか?

 自分で選んだほうがいいですって」


「こんな格好で、街の中を出歩けっていうの」


「そう言われると、何も言い返せません。

 でも、せめて、ある程度のイメージを共有させてください。

 今現在、『ダサい』というコメントを受ける未来しか見通せません」


「『ウェイトレス衣装』を買ってきて」


「え!?」


「何驚いてるの?

 私は、『喫茶店』に住み込むのよ。

 ウェイトレス衣装の方が、場に馴染めるでしょ。

 それに、私が看板娘をやれば、売り上げは間違いなく上がるわ」


「それは、俺も激しく同意します!

 正直、ミエルさん、天才だと思います!

 最高のウェイトレス衣装、探してきます!」


「なんか、急に元気になったわね。

 でも、私が納得するまで、何回も買いに行かせるからね。

 あと、私は今日、やりたいことがあるから。

 あとは一人で、おつかい、してきなさい」






*****






 そんなこんなで、俺は今、女性用の衣服店にやってきた。

 『なんでここに男が』、と思われるのが嫌だったので、最初に店長さんに『知人へのプレゼントを買いにきたんですよ』と説明しておいた。

 その上で、店内を一周。

 安物は2,000G、ただ白い布を縫い合わせただけなワンピース。

 高価なものはその10倍、20,000G。

 フリルが地獄のようにあしらわれた、ピンクのワンピース。


 ここで、俺は、思った。

 『どっちを着ても、ミエルさんは似合う』と。

 『美女ってズルい』、とも思いました。

 たぶん、適当に選んでも、ミエルさんは着こなしてしまうだろう。


 ただ、実は俺は、1つだけコンセプトを持って、この買い物にのぞんでいる。

 それは、『派手すぎない衣装にする』ということだ。

 俺が目指したいのは、『オシャレな』喫茶店。

 ミエルさんは、ブロンドの髪も明るいので、多少暗めの色の衣装も合うのではと考えている。


 俺は、店内1周の際に見つけておいた、『エプロンドレス』のコーナーに移動。

 ここに展示された商品を、俺は、最大の集中力と妄想力を持って、1点1点確認していく。

 そこで見つけたのは、質素な感じのブラウンのエプロンドレスとシャツのセット。

 店内の木製家具の色に近い、ブラウンの色が、俺の感性に電流を流してきた。

 エプロンやスカートのすそにはフリルも付いていて、かわいさも同居。

 価格、8,500G。

 うん、君に決めた!

 

 が、『ちょっと地味すぎる』、その言葉が脳内に引っかかる。

 そこで今度は、小物のコーナーへ移動。

 すぐに目に飛び込んできた、青色のリボン。

 ミエルさんの瞳の色と同じその色のリボンを、ワンポイントのアクセントとして加えたいと思った。

 価格500G。


 俺は、それら2点を持ってレジへ向かう。

 店長さんに9,000Gをわたs・・・。

 渡さないで、価格交渉開始。

 見事、リボンのお代、500G分を値切ることに成功したのだった。

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