天界への転送は、ファイアーウォールによって防御されています

「ねぇ!

 転送、始まらないんですけど!

 なんで!?

 なんでなの?」


「知らぬよ」


 そんなこと、俺に聞かれても、わかるはずがない。

 それでも何故か、天使さんは、俺に詰め寄ってくる。


「転送システムにエラーが起きているの?

 でもインフォメーションには、重要レベルの項目は上がってきてないし。

 それとも、何者かが転送の邪魔を?

 まさか、アイツが・・・」


「例えば、『シェルター内からでは転送できない』、とか。

 そんな条件があったりしないの?」


「なるほど。

 それは、ありえない話ではないわ」


 俺の案に納得した天使さんは、外へ駆け出した。

 夕日が沈み、暗くなった外から、光が漏れ込んでくる。


「だぁーーーーーーーーー!」


 そして、悲鳴が聞こえてくる。

 どうやら、ダメだったらしい。

 急ぎ、俺も外へ向かおう。

 と思ったら、天使さんは店舗内に戻ってきた。

 ぐったりと肩を落としている。


「帰れない・・・。

 なんで・・・」


「へんな料理食べたからじゃないですか?」


 なんて冗談を言って場をなごませようとしたが、逆効果だったようで。

 飛び膝蹴りを食らわされることになった。

 見事な跳躍であった。


「コーヒー、出して・・・」


 天使さんのその注文を、俺は無言で受注したのだった。






*****







 コーヒーを飲んだら、天使さんは落ち着きを取り戻したようで。

 『少し考えたいから、一人にして』と告げ、熟考状態に突入した。

 考える人、改め、考える女神のポーズで。


 ・・・


 そして、結論がまとまったようである。


「連絡要請は送信したので、天界から連絡があるはずなのに、これもない。

 つまり、転送だけでなく、通信も遮断されている、と考える。

 その理由、詳細はわからないけど。

 1つは、天界で大きな問題が発生した、とする説」


「魔王が天界に攻め入ったとか?」


「転送魔法は我々、天界の者しか使えないと考えられている。

 天界への転移も、ファイアウォールが存在していて、異物をはじくシステムが働いている。

 たとえ、そのシステムを突破されても、最低限、アラートだけは発生するはずなの」


「ごめんなさい。

 天界って、デジタルの世界なの?

 なんで、ファイアーウォール、存在すんの?」


「便宜的にファイアーウォールと呼んでいるだけで、本来は魔法によって実現される防壁よ」


「なるほど」


「そして、もう1つ、説がある。

 こちらの方が、可能性は高い」


 天使さんがの表情が、より真剣なものに変わる。

 とてつもなく、嫌な予感がする。

 俺は覚悟を決める。


「それは・・・。

 私の上司が、面白半分で、私の転送を邪魔してる、ってヤツよ!」


「なんだそれ!」


 天使さんが、スーパー◯イヤ人みたいなポーズで咆哮ほうこうをあげる。

 怒り爆発!

 『◯リリンのことかーー!』、とか言い出しそう。


「それ、全然、緊急事態じゃないじゃないですか。

 『暇を持てあました、神々の、遊び』、でしょ。」


「こっちは、遊びじゃ済まないわよ!

 でも、おかしいと思ったのよ!

 突然、有給取っていいとか言われて。

 普段は働かせっぱなしなくせに。

 そうよ!

 今考えれば、おかしいじゃない!

 あいつ、いつか、つぶす」


 天界でも人間関係の問題は大きいようだ。

 世知せち辛い。


 ここで天使さんは、2杯目のコーヒーを一気飲みして、クールダウン。

 少しの間、黙り込んで、たっぷり間をとってから、宣言した。


「ここに、住ませなさい」


「は!?

 今、なんて言ったの?」


「ここに、『住ませなさい』、って言ったのよ」


「なんで?」


「この喫茶店はシェルターの加護によって、他の建物とは比べものにならないほどの防御能力を持っているわ。

 そして何より、『魔力遮断能力』が高いのよ。

 私の、このあふれんばかりの強大な魔力を、魔王側の存在に検知されると、何かと都合が悪いわけ。

 なので、このシェルターが、隠れ家として都合がいいのよ」


「いや、でも!」


 二人、屋根の下。

 二人、屋根の下。

 二人、屋根の下。

 ムッチリ太もも、豊満ボディを布1枚で隠すようなおねぇさんと。

 ムッチリ太もも、豊満ボディを布1枚で隠すようなおねぇさんと。

 ムッチリ太もも、豊満ボディを布1枚で隠すようなおねぇさんと。

 これは。

 やばいです。


「あ?

 なんか、やらしいこと考えてないでしょうね。

 私はシェルター内で寝るから、あんたは外で寝なさい。

 シェルターは誰かが1人入ると、オートでロックされるから。

 どれだけ、あなたが変態でも、絶対に手出しはできないわ」


「なんで、そんな詳しいの?」


「だって、このシステム設計したの、私だから」


「なーるほど」


 でも、なんか、逆に安心。

 それなら、各位プライバシーは守れる。

 ・・・。

 いや、守れるの?

 彼女のプライバシーは守られても、俺のプライバシーは存在しないように思う。

 まあ、そこまで気にしないからいいけど。

 向こうも、俺のこと、男として見てるようには、コレッポッチも思えないしさ。


「んじゃ、私寝るから。

 詳細は明日。

 おやすみ」


<<カランカラン>>


「邪魔するでー」


 邪魔するなら帰ってー。

 閉店後に再び訪問者。

 それは、本当に、一番、会いたくない人間だった。


「ここで、再び、盗賊キターー!!」

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