転生時、10,000Gが一律提供されます

 商業都市ハミルトンへ向けて北上。

 そこで思い知る、『宿があることのありがたさ』。


 実は、喫茶店用の家具に加えて、個人用のベッドも作っていた。

 これはシェルターの右手に配置。

 木で組んだだけの質素なベッドだが、文化的生活具合はすこぶる高まり、睡眠での疲労回復度も向上したように感じる。

 また、喫茶店の壁や窓も、シェルターほどではないが頑強に作られていることを確認した。

 強盗に入られる心配はなさそう。

 これでシェルター内で休む必要がなくなった。


 北上開始から2日目。

 ついに街が見えてきた。

 そして、ここで思う。

 俺、お金、持ってんの?

 先、滞在していた農村では、全てが物々交換であった。


 例のごとく、脳内に『現在の所持金はいくら?』と問いかけてみる。

 しかし、反応はない。

 そういえば、取説に、


・所持金に関しては自己管理でお願いします


 とか書いてたような気がする。

 ということは、ゼロ?所持金ゼロ?


 俺はズボンのポケットを探る。

 しかし何も入っていない。

 ・・・。

 そういえば、エプロンにポケットが付いてるな。

 そうして探ったポケットの中には、金貨が1枚入っていた。

 これまで何故気づかなかったのか。

 そして、金貨、滑り落ちてなくてよかった。


 ここで、貨幣に関して取説に何か書いていた、そんな記憶が引っ張り出される。

 俺はシェルターのシンク下の扉に収納しておいた取説を引っ張り出した。


 この取説、フォントが明朝体なんだけど。

 なんでここだけ前世仕様なの?

 もっとファンタジーっぽくできなかったの?


 などと文句を付けつつ、当該ページを発見した。


・大金貨 = 50,000G

・小金貨 = 10,000G

・大銀貨 = 5,000G

・小銀貨 = 1,000G

・大銅貨 = 500G

・小銅貨 = 100G

・銭貨=10G

・『G』は『ゴールド』と読みます


 今、俺がもっている金貨は、『大』と呼べる大きさではない。

 そう考えると俺は、1万円(物価不明)を初期投資されたわけである。

 デフレ、だと、助かるのだが。






*****






 ハミルトンの街は、街路が迷路のように入り組んでいたが、それはそれで面白く、適当に散歩を楽しんでいた。

 街は城壁で囲まれていて、治安も良さそうである。

 余所者の自分も、『商売で』と説明したら簡単に入門できた。

 商人のふりをするため、俺は撮り溜めしていた薬草を所持してきていた。

 可能ならば、これを売ってみて、物価調査を行いたいと考えている。

 今の散歩も、物価調査を兼ねての散歩である。

 そして、ある宿の前で足が止まった。


 休憩1,000G、一泊5,000G


 なるほど。

 物価は、前世とおおよそザックリ同じと考えて良さそうだ。

 ただ、この例からすると、2泊でスッカラカンになる計算。

 やはり、宿があるというのは有難いのだ。


 細い路地を抜けると、大きな広場に出た。

 バザーだ。

 食材や衣服類、食器類、香辛料。

 売っていないものはないんじゃないかと言いたくなるほど。

 さすがは『商業都市』と呼ばれるだけはある。


 冒険用道具商、いわばアイテム屋を発見。

 さあ、薬草、いくらで売れる?


「10束で200Gでどうだい?」


 ・・・


 相場、わからん。

 とりあえず、適当な理由を付けて店を後にすることにした。

 売値の前に、先に買値を知らなければならないよな。


 また別の道具屋を発見。

 今度は、アイテムを眺めてから。

 すると俺が売ろうとしていた薬草は、1束200Gで売られていた。


「あぶねー。

 思ったより高価だったわ、この草」


 ここから交渉に入り、最終的に薬草10束を1,000Gで売却することに成功したのだった。






*****






 物価に関しては、なんとなくわかってきた。

 野菜や肉は、前世よりも少し高い程度。

 その他、衣服や食器類も、さほど変わらないことが判明した。


 そして、もう1点。

 俺が、この街で、どうしてもやっておきたかったこと。

 それは・・・。


「いらっしゃいませ」


 俺は、ある男の話を思い出す。


・カップのマークの看板は『喫茶店』に対応

・ナイフフォークの看板は『食事ができること』に対応


 そのうちの、ナイフフォークの看板がかかった店に、俺はやってきた。

 そう。

 飲食業の物価が知りたかったのである。

 ただ、結果としては、これも前世とほぼ同等のレートであることがすぐに判明した。

 俺が提供するものも、前世と同等の物価で販売してよいだろう。

 が。

 俺が驚いたのは、その点ではない。


「うまい・・・」


 オムライスとコーヒーのセットで1,000G。

 オムライスの卵はフワフワで、ケチャップの味も複雑で。

 ケチャップライスの中の鶏肉、玉ねぎも美味しくて。

 食後のブレンドコーヒーも水っぽくなく、飲みごたえ十分。


「これは、勝てない・・・」


 改めて、思った。

 俺に料理スキルは現状、ほぼ存在しない。

 『下手』ではないが、『プロ』ではない。

 この世界で商売するには、まだまだ。

 何もかも。

 修行が足りないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る