ハンドルネーム

 二度目に会ったのは知人の別の仲間も交えた、これも送別会だった。

4人掛けの席に、はくはぼくの左側に座った。前回と違い服装は白っぽくまとめてあり、前回会った時に比べ胸のふくらみが強調されていた他はこの前会った時よりも抑えめで落ち着いた感じにみえた。

ぼく以外の3人は顔なじみで、共にハンドルネームで呼び合い先日行った潮干狩りの話に花を咲かせ、隣に座るはくから笑い声と共に微かな振動も伝わってきて、ぼくの意識ははくにくぎ付けになった。

ビールも進み追加の料理を見ようとすると、はくが品書きを広げて前に差し出してきた。三つ折りのメニュー紙は周りからの視線を遮り、はくの息遣いもわかる距離にぼくは久しぶりに緊張した。


 三回目に会ったのは前回とは別の友人が同席した結婚報告会だった。

会場は、肉が食べたいって言っていたはくの希望に沿い、郊外電車の終点に広がる繁華街の一角にある焼肉店にした。ここでもはくは、ぼくの右側に座った。意識して座ったのか気にはなったのだが、ぼくは嬉しかった。

話に花を咲かせている三人を横目に注文と焼き役はぼくがした。少し値の張る店だったので3人には食べ飲み放題での定額を提案して、オーバーした分はぼくが払うことにした。そのせいかどうかは分からないが、はくは喜んで食べている。食べたいって言っていただけあって食べっぷりもいい。ぼくは幸せな気持ちだった。

食事の後、少し移動し喫茶店に入った。ここでもはくは、ぼくの隣に座り酔った体を預け、前に座る二人を気にも留めずメニューをみている。そんなはくを、ぼくは愛おしく思った。

別れ際、電車のホームがある地下への階段で「またねー」と手を振るはくは心なしか顔を赤らめた少女のようで、ぼくの胸はざわめいた。

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