第63話 結果
「ドベは由美。まあいつもの事じゃけど、イソメ係、ちゃんとやりーよ」
「………うっす」
蓮君に容赦無い言葉を浴びせられ、打ちひしがれてしまった由美ちゃんが力無くそう返す。
もう時刻は夕方になっており、これ以上は夜釣りになってしまうと言う事で、激闘の釣りレースはここにて終了した。
結局、一日中釣りをして得た成果は、あかりちゃんがそのままトップを独走で7匹。蓮君は午後にアタリを連発してあかりちゃんと並んで同率トップの7匹。雄介君が次いで5匹。一匹差で翔太君が4匹。そして私は、あの後もう1匹釣り上げて、2匹と言う結果に終わった。
「何で由美だけ当たらんのんかねー?」
雄介君の追い討ちをかける様な言葉に、由美ちゃんはその場で崩れる。
0匹。これが末籐由美の今日の成果だ。
「ず、ずるいぞ!!ウチは今日午後からの参加じゃった!!ほいならハンデぐらい付けてくれてもええじゃろうに!!」
追い縋る様に蓮君に対してそう訴える由美ちゃん。何というか、残念としか言いようがない。
「午後の勝負でもお前以外は全員釣っとったじゃろうに。0匹は由美だけじゃ」
「がぁっ……!!!!」
現実を突きつけられて、再び地面に突っ伏してしまう由美ちゃん。
同じ場所で釣りをしているのにこんなにも差が出るのは、何かそう言う呪いでもかけられているのだろうか?
「……由美、あたしの魚あげよっか?」
そんな由美ちゃんを見て居た堪れなくなったのか、あかりちゃんが同情する様にそう言う。
「うぅ、あかりはホンマ優しいのう……」
ゆっくり起き上がり、泣く仕草をしながらあかりちゃんの頭を撫でる由美ちゃん。
だが、あかりちゃんに魚をくれたからと言って、スコアが変わる訳では無い。
次のイソメ係は末籐由美だ。
「おーし、じゃあもう時間もええけえ、帰るで。ゴミはちゃんと持って帰りーよ」
「「「はーい」」」
蓮君が号令を掛けると、子供達はせっせと片付けを始める。
「今日は何匹返す?」
すると、翔太君がクーラーボックスを覗き込みながらそう聞いて来た。
「うーん、稚魚が3匹と食えんのが2匹じゃけん、5匹返すで」
「あーい」
そして、蓮君はクーラーボックスの中の魚を海水で手を濡らして拾い上げ、何匹か魚を海へ返して行く。
「良いの?せっかく釣ったのに?」
せっかく釣った魚を海に放つ蓮君に私は疑問を抱く。食べられないのは仕方がないが、それ以外は美味しそうな魚なのに。
「うん、稚魚は禁漁に指定されよるのも多いけんな。それに、子供をバンバン釣ったら、繁殖出来んようになって魚の数が減るんよ」
蓮君はそう言いながら小さい魚達を海に返して行く。クーラーボックスの中では大人しかった小魚達は海に放たれた途端、元気を取り戻し、広い海へと戻って行った。
その光景を見て、私は気付く。
「……そっか、減っちゃったら釣れなくなるもんね」
そうだ、あまりに楽しすぎて忘れていたが、私達は命あるものを頂いているのだ。
その命を頂くにあたって無作為に、どんな魚でも食べて良いと言う道理は無い。
「残ったもんは食べれるけえな。釣れたての魚なんて滅多に食えんで?」
すると蓮君は一転、嬉しそうな顔で残ったクーラーボックスを指差した。中では大きめの魚が悠々と泳いでいて、それを見て私の中の期待も膨らむ。
「これから由美ん
蓮君の言う通り、釣れたての魚を食べられるなんて滅多に無い。それに由美ちゃんの実家は割烹料亭だ。新鮮な魚を最高の腕で食べられる。期待をするなと言う方が無理な話だ。
「自分が釣った魚を食べるんは、感動するで?」
蓮君の言う通り、自分達が頑張って釣った魚達なのだ。それには感動も覚えるだろうし、食べなければ失礼と言うものだろう。
「勿論、お邪魔しちゃおっかな」
私は抑えきれない期待を表情に出しながら、そう言った。
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