第27話 梅雨明け
遂に梅雨が明けた。肌に張り付く様なジメジメとした空気が消え、久々に青空を見た様な気がする。
東條さんに、曇り空の魅力を気付かせて貰ったが、やはり僕は青空が好きだ。何処までも飛んでいけそうなその深い青は、僕の心を開放的にしてくれる。
蝉の鳴き声も増え、早朝には家の前に水撒きをする人も多くなった。
海も開かれ、この前の休日には家族連れが海水浴場に向かう様子も見られた。
それらは同時に、本格的な夏の到来も感じさせた。
「海に入るんならちゃんとした海水浴場に行きいよー。流されても俺は知らんで?」
朝のHRで、担任の大内先生が気の抜けた声でそう言う。気温はもう海に入れるほどに上がっているので、海水浴場に行く際の注意事項を話していた。
「それと、夏休み。来年は受験や何やらで忙しいけえ、今年が最後じゃ思うが、あんまり羽目を外し過ぎんよーになー」
最後に先生がそう言ったタイミングで、朝のHRが終わる。
気付けば、夏休みまで後10日ほどと言うところまで迫っていた。
「なあ、蓮。夏休みどうする?」
すると、チョコボールの様な男に話しかけられた。
このチョコボールは野球部の練習で相当に日焼けをしたらしく、首から上が真っ黒になっていた。
「康介おまえ、部活の練習があるんじゃないんか?」
チョコボールこと、友人の康介に僕はそう返す。大会とかもあるだろうに。
「
あまりにも熱血のイメージがある野球部とはかけ離れた発言に、僕は苦笑いになる。
まあ、そう言う野球部もあるのだろう。
「ほいで、お前は?」
「僕は……まだ決めとらんわ」
「なんじゃ、東條さんと何やら約束でもしよるんかと思ったんじゃがのう」
いや、一つ予定はあるのだが、まだ"誘って居ない"と言うのが実情だ。
「……一応、誘おうとは思っちょる」
僕がそう言うと、チョコボールは食い気味にこっちに寄って来た。
「……誘うって、やっぱ"アレ"か?」
「……うん、"アレ"じゃ」
因みに"アレ"とは、花火大会の事だ。
呉では毎年7月の末の土曜日に、海上花火大会が開催される。規模はそこまで大きくは無いが、田舎の貴重なイベントの一つだ。
僕はそれに、東條さんを誘おうとしている。
「はー!!贅沢なやっちゃのう!!美人さんに自分の部活に入って貰った挙句、花火デートたあ!!」
すると康介は僕の肩をビシバシ叩きながら、大声でそう言った。
「ちょ!康介!!声デカいわ!!」
僕は慌てて康介に注意する。
朝の時間に大声を出した事もあって、クラス中から注目を浴びてしまった。
「ああ、悪い悪い。ほうか……なら、いっちょ決めたれ。応援しとるで」
すると、康介から小声で檄を飛ばされる。いつも軽口ばかり言い合っているので、少しむず痒かった。
「……お、おう、頑張るわ」
対して僕は、康介のテンションの差も合いまって、曖昧な返事しか出来なかった。
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