第15話 梅雨晴れ
今日は珍しく晴れた。梅雨晴れと言うものだろう。雲が無くなり、久々に陽の光に当たった気がする。
「ん〜〜!!……」
それから数日後の放課後、僕は校舎の屋上で思いっきり背伸びをして、意気揚々と画材を準備する。
今日は空の色も画用紙に描けそうだ。あの淡白なままだった空に色が着く。そう考えただけでも心が弾んだ。
「んー、んーんんー♪」
心なしか、鼻歌も出てくる。絵を描いている時に気が乗っていると、勝手に出てくる誰かのバラードのフレーズだ。曲名は忘れた。だが屋上なので誰も聴いている人は居ないし、これが出る時は、自分の世界に没頭出来ている証拠なのだ。
すぐさま水色に近い青色の絵の具をパレットに出し、他のと組み合わせて色調を整える。
雲の少ない空を描く時は、実に気分が良い。複雑な形である雲を描くのが嫌いという訳ではないが、青空は作品に華やかさをもたらしてくれる。
今日は満足できそうだ。
最近の曇り空で、相当鬱憤が溜まっていたので、今日はそれを吐き出してしまおう。
そんな気持ちで、僕は画用紙に空の色を着け始めた。
「んー、んんんー♪」
しばらくしても、僕は空の絵を描いている。今は青空に少し残る、雲の部分を重点的に描いていた。
「んんー、んーんんー♪」
画用紙は、空の色が追加されたからか、一気に彩りが出た。水彩なので淡い色合いだが、それがまた味を出している様に思う。
「んーんんー♪」
「何の歌?それ」
「ん゛!!」
すると、真後ろから突然声が掛かった。全く油断していた僕は、鼻歌に混じって変な声を出してしまう。
「どうも、何してるの?」
咄嗟に振り返ると、後ろに立っていたのは東條さんだった。随分と楽しそうにニコニコしている。
「いきなり声を掛けんといてくれ。由美じゃあるまいし……」
いつから後にいたのだろうか?少なくとも、今の鼻歌は聞かれていた事だろう。
だとすると、結構恥ずかしい。
「それ、確か5年前くらいに流行った曲だよね?えーっと、曲名なんだっけ?」
「……自分もあんま覚えとらん。ちゅーか、
一人で上機嫌に鼻歌を歌っている様を、ずっと見られていたと思うと鳥肌が立つ。
おかしな人間だと思われていないだろうか?
「ごめんね。あんまり集中してたものだから、邪魔しちゃったら悪いと思って」
「いや、まあええんじゃけど……」
まあ、鼻歌のことはしょうがないとして、何故東條さんがここに居るのだろうか?
「ほいで、東條さんは何しに来たん?」
すると、東條さんは本題を思い出したのか、ハッとした顔になる。
「ああ、それは、由美ちゃんが"大野くんはいっつも屋上で絵を描いている"って言うから、気になって来てみたの」
理由は、僕の幼馴染だった。
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