第3章 絆 8話 「悪魔②」
「一体、何があった?」
ギルマスの執務室に呼ばれたルイーズは、その問いかけに対して、事の経緯を説明し始めた。
冒険者ギルドでは、直近の魔物の増加についての調査依頼を王城より受理している。
それを請け負ったのが、ルイーズが属しているランクSパーティーではあったのだが、結果として任務遂行中に死傷者が出るという最悪の事態が起こってしまっていた。
1名が死亡、そして治療を受けているもう1名についても、予断を許さない状況となっていた。
「本当に···そうなのか?」
「あれは、絶対にそうだ。滅多刺しにされて、さらに燃やされたのに···原型をとどめていない姿で、デュースを殺した···人間のはずがないだろう!」
「確かに···普通じゃないな。それで、もう1人の方はどうなった?」
「知らない···私達を逃がした後、1人でその場に残ったことしかわからない。」
「そいつが奴等の仲間だという可能性は?」
「それはない···と思う。彼も圧倒的な強さを持っていた。奴等の仲間なら、私達を生かしておく理由もないはずだ。」
「そうか···。」
ギルマスにしてみても、判断に悩む状況だった。
ルイーズ達はランクS冒険者だ。
当然、信頼して然るべき存在である。しかし、そうなると裏付けのために現地を調査するにしても、危険が高すぎる。
ランクS冒険者3名が手も足も出なかった相手だ。そんな奴がいる場所に、送り込めるような人材などいるわけがないのだ。
「まいったな···。」
そっとつぶやくギルマスに、物を言える人物などいなかった。
それほどまでに、このギルマスは普段の決断にそつがない。
それが王城内でも評価の高い理由なのだが、今回の件に関しては手の打ちようがないとも言えた。
「伝承で言われる悪魔か···確かに緊急事案だが、裏付けもなしに王城に相談をするわけにも···。」
そこで慌ただしいノックの音が聞こえた。
「お話中に申し訳ありません。王城より、王国騎士団長ドレイグ・ブルマン様がお見えになられました!」
「騒がしいが···何かあったのか?」
王国騎士団長ドレイグ・ブルマンである。
冒険者ギルドのマスター、アレクセイ・スーダンとは旧知の仲であり、形は違えど互いに王国に貢献をしてきた偉丈夫だった。
ドレイグを執務室に招き入れたアレクセイは、室内にいたルイーズを紹介した後、事の顛末を話すことにした。
「ちょうど良いところに来たというしかない。まだ裏付けが取れていないが、聞いて欲しい事案がある。そちらの要件を先に聞くべきだろうが、可及的事態でな。」
「ふむ···わかった。聞かせてもらおうか。」
アレクセイはルイーズを促し、先程と同じ話を繰り返しさせた。
「···そうか。」
「えらく淡白だな。軽んじて良い内容ではないだろう?」
「·····························。」
ドレイグは一度、ルイーズに視線をやった。
「···席をはずした方が良さそうですね。」
重要事案の話し合いに、自分は同席してはいけなのだと考えたルイーズは、2人に一礼をして立ち去ろうとした。
「いや、君に少し聞きたいことがある。」
「私に···ですか?」
「悪魔らしき存在と対峙した者についてだ。外見的な特徴を教えてくれないだろうか。」
「最初は白銀のフルプレートを纏っていました···見たことのない型式で、かなり上物だったと思います。」
「最初、とは?」
「悪魔が一度消えた時に、彼も追うように消えたと話しましたが···次に現れた時には、鎧は纏っていなかったのです。」
「そんな馬鹿な···。」
アレクセイがそうつぶやきかけたが、ドレイグが手で制した。
「それで、その時の姿はどんな感じだったのだ?」
「長身痩躯で···黒髪黒眼。肌は褐色に近かったと思います。」
「なんと!?」
ルイーズの話を聞いたドレイグは驚きの声をあげ、すぐに満面の笑みを見せるのだった。
「それは、
「···どういうことだ?」
アレクセイとルイーズは、ドレイグの言葉を聞き、この大陸で語り継がれる伝承を思い浮かべていた。
「魔物の氾濫があったのは知っているだろう?」
「ああ···数千の規模だったそうだな。よく防ぎきったものだ。」
ドレイグは、苦笑いを隠そうともせずに浮かべた。
「20体以上のハイオログが出た。」
「···そうか。良く生き残ったものだ。」
「いや、我々だけなら死んでいたさ。全滅していたとして、不思議ではなかった。」
「·····························。」
「最後のあがきとして、特攻をかけるつもりだった。」
「何があった?」
「その場に現れたんだよ。」
「?」
「白銀の竜と、竜騎士がだ。」
そう言ったドレイグは、なぜかドヤ顔だった。
街を目指して、さらに河口に向かって歩いていた。
道らしき道は見当たらない。
かつて、冒険者や獣が歩いたような獣道は何度か出くわした。しかし、人が常用しているような道路には出くわさない。
もっと内地に向かった方が良いのだろうか···。
そんなことを考えながら、川のほとりで小休止する。
赤目の男は、
ヴィーヴルに聞いていた竜孔流の作用。放った張本人が言うのも何だが、稀有な力だ。
普通の魔物や人間相手でも、過剰なほどの破壊をもたらすのだが、グルル···黄竜の力が宿ったものは、特定の力に作用し、対象を土に帰すという。
膨大なる闇《オプスキュリテ)の力。
それに対抗する
先程の闘いが、新たなる波乱への幕開けであったとしか考えられず、そっとため息を吐く。
「普通には生きられないのか···俺は。」
本気のぼやきだった···。
踏み固められた道らしきものに行き当たった。
そこでしばらく誰かが通りかかるのを待っていると、商人らしき一行と出会う。
それほど待たずに人と出会えたのは運が良かったと思ったが、1人で突っ立っていたので、余計な警戒をされてしまったようだ。
護衛らしき冒険者達に取り囲まれた。
···運が良いと思ったのは、気のせいだな。
まあ、当然と言えば当然なのだが。
「ここで何をしている?」
冒険者のリーダーとおぼしき女性にそう言われた。
「道に迷った。街に行くには、どちらに向かえば良いのか教えてもらえないだろうか?」
「···何者だ?」
「見ての通り、1人で旅をしている。腕には覚えがあるので、大きい街で冒険者になろうと思っている。」
「武器も荷物もなしでか?」
女性の視線が険しくなった。
俺の全身に視線を這わし、力量を計っている感じか。
「武器は持っていたが···途中で戦闘になって、折れてしまった。荷物もその時に紛失している。」
じーっと、顔をガン見された。
「何か?」
「武器もなしで、無傷でうろついているのが気に入らない。」
はっきりと警戒心を口にしてきた。
まあ、普通はそう思うだろう。
「だから、腕には自信があると言ったのだが?何なら、試してみるか?こちらは無手でもかまわない。」
女性が怒りをまとったのがわかった。
こめかみに筋が浮かび、眉間にはシワが入る。
「気持ちはわかるが、眉間のシワは定着するぞ。せっかくキレイな顔を···うぉ!?」
女性が剣を上段から振るってきた。
一切の容赦がなく、その剣筋は背筋が凍るほどのものだった。
見切りで避けた。
剣風が顔を打つ。
避けた反動で前に出て、両腕ごと片手で巻き込み、腰を密着、膝裏に足を通してそのまま払い腰のような形で倒した。
もちろん、ダメージにならないように加減はしている。
「な···。」
倒された女性は、何が起こったのかがわからないようで、驚きの表情で俺を見ていた。
「申し訳ない。別に害意があってやったわけじゃ···。」
そう言いかけた時に、別の冒険者からの攻撃が殺到した。
どうやら、やり方を間違えたようだ。
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