第3章 プロローグ
頭部から流れてきた血が眼に入り、片眼がそれで塞がる。
体も麻痺したかのように動かない。
あまりの衝撃と激痛に、すぐにでも気を失いそうだった。
こちらの世界に来てからというもの、様々なものを目の当たりにして、常識というものが事あるごとに覆ってきたのだが、あれは極めつけと言っても良いだろう。
アースガルズ城の書庫で見つけた古文書に記述があったのだが、それ事態が遥か昔のものであった。
ただの伝説と、高を括っていたわけではないが、どこか絵空事のように思っていたのかもしれない。
その結果が···今の俺だ。
何事も準備を怠るべきではないと、今更ながらに思う。
ちょっとした油断が生死を分ける世界にいたはずなのに、焼きが回ったとしか言えない。
思考を強制停止してしまいそうな状態ではあるが、何とか意識を集中させて、周囲の様子を探る。
身近に脅威的な気配はないように思えた。
体の状態に関して言えば、一時的な麻痺状態···しかも、ショックによるものであると、理解ができるようになった。
転移術を行使するためには、相当な精神力が必要だ。状態的に、それは望めそうにない。
それに、今は高山地帯の断崖絶壁の中腹にいる。
このまま明確なイメージができずに転移をすれば、今いる高度が反映されて、転移先で墜落死する可能性が高い。これについては、すでに検証を終えているため、選択肢から除外するしかなかった。
回復のための時間が取れれば良いが···それだけを切に願ってみたが、不意に影を落としたそれを見て、絶望的だと感じた。
無機質な瞳と形容すべきか、そこには何の表情も読みとれない。
地上にいるすべてを超越した存在。
静かにたたずむ姿からは、城壁がそびえたつかのような圧を感じた。
対峙する自分が矮小であることを、否応なしに自認させられる。
夕日が体に淡く反射し、純白のような表面が橙色に輝いていた。
俺はその姿を美しいと感じながらも、やがて意識を手放すのだった。
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