第2章 亜人の国 27話 エージェント vs 巨人②
ガイと二手に別れた。
俺が渓谷の上から狙撃を行い、ガイは下に降りて大蜥蜴と交戦し、エルフ達と合流するプランだ。
ダニエルに担ってもらう予定だった囮は、交戦しているエルフ達に代わる。
ヘカトンケイルとの直線距離にして、およそ400メートル地点で腹這いになった。
『寝言は寝て言え。』
AMRー01を構えた。
使う弾薬は、ミスリルでコーディングしたフルメタルジャケット。貫通力重視のチョイスだ。
下に降りたガイは、大蜥蜴と交戦しながらも、真っ直ぐにヘカトンケイルに向かっている。
スコープで確認をすると、ヘカトンケイルのすぐ前で2名が交戦。炎撃を散りばめながら、うまく牽制をしているように見える。いや、どちらかと言うと、目眩まし程度にしかなっていないようだ。ヘカトンケイルはダメージを負っている素振りがない。
問題なのは、それよりも少し手前にいる3名だ。1人···エルフにしては、ゴツい感じのオッサンが腕を押さえて倒れている。もう1人が傍らに付き添っているが、こちらも足を負傷して止血の応急処置を行っている。残る1人は大蜥蜴と交戦をして、背後の2人をかばっているようだ。
ガイが合流したとしても、この負傷した2人を連れ出すのは容易ではない。
やはり、ヘカトンケイルを無力化するしか方法はなさそうだ。
俺はスコープをヘカトンケイルの頭部に向ける。
魔法がほとんど聞いていないところを見ると、皮膚が異常なほど強固な可能性が高い。
となると、狙うは目か口内。
風や気流を読む。
その巨体により、ヘカトンケイルは渓谷から胸上を突出させている。
渓谷から吹き上がる気流。
目よりも下へ銃口を移動。
三脚がないので、左肘を支点に銃を固定した。
ブレを修正しながら、タイミングを計る···。
ドッゴーン!
ガチャ。
シュッ。
カチチャンッ!
引き金を絞ったと同時に、次弾を装填してスコープを覗く。
ヘカトンケイルは、スローモーションのように後ろに倒れていく途中だった。
ドォーンッ!
地響きをあげて、ヘカトンケイルが倒れ込んだ。
俺は渓谷に降り、破龍で大蜥蜴を斬り裂きながら進んでいた。
身動きが取れないエルフを獲物と捉えた大蜥蜴は、ガイと牽制役のエルフに次々と襲いかかっていたが、ヘカトンケイルの倒れた衝撃で今は動きを止めている。
俺は破龍をGLー01に持ち替えると、ガイの横に並ぶ位置で体を反転させた。
ポンッ!
ヒュ~···ドォーン!
大蜥蜴の密集地帯にGLー01を向けて撃つ。
数秒後に大爆発を起こした弾頭が、大蜥蜴の体を散り散りにしていく。
チャカ、キ、シュコ、カチーン!
ポンッ!
ヒュ~···ドォーン!
すぐに次弾を装填して、同じように大蜥蜴を散らす。
当面の脅威を撃ち払うと、目を丸くするガイ達を流して負傷者の症状を見る。
足にケガを負った若い方のエルフはただの裂傷たが、オッサンの方は大蜥蜴に噛まれたらしい。
上腕に牙による4つの傷があり、肘近くと手首をきつめに巻いた布が見てとれた。
「解毒の治療は?」
毒が全身に回らないように、布で血流を止めているのだろうが、患部はすでに紫色に変色しつつあった。
「今すぐには無理だ。解毒の魔法を使える者がいない。」
ガイが答えるが、解毒の魔法は使えるものが少ないと聞く。ゆるふわちゃんなら可能性はあるが、症状を見る限り、あまりもたなさそうだった。
最悪の場合は、肘から下を切断でもしなければ、やがて全身に毒が回る。
「大蜥蜴の毒に効能を持つ薬がないの!」
先ほどまで大蜥蜴に応戦していた女性エルフが、焦るような口調で言う。
「応急処置をする。」
俺はナックルナイフを出し、オッサンの肘と手首近くの静脈を軽く切った。
「ちょっ!?何を···。」
女性が驚きと怒りを綯交ぜにした声を出すが、俺の様子を見てすぐに絶句した。
俺がオッサンの腕の傷に口をあて、血を吸い出し始めたからだ。
ペッ!
静脈を切ったのは、今以上に毒が体に回らないようにだ。布で血管を押さえている今の状態なら、出血も少ない。
それぞれの傷口から毒を何度となく吸い出す俺を見て、エルフ達は唖然としていた。
「大蜥蜴の毒は致死性の猛毒だぞ···まさか躊躇いもなく、そんな処置をするとはな···。」
ガイが何やらつぶやいていたが、よく聞こえなかった。
俺は処置に集中しながらも、「なぜにオッサンの腕を吸わないといけない?」「何の罰ゲームやねん?」と悲しい思考を繰り返していたからだ。
一通り毒を吸い出したことにより、変色をしていた腕は、少し赤黒く腫れたようになっていた。
ナイフで切った傷には、ドワーフからもらった小瓶から火酒をかけて消毒する。
「化膿止めの薬だ。」
ガイが手渡してきたのは、魔の森で薬草を採取して加工した薬だ。エルフは森人とも言われ、薬草類にも詳しい。
「やはり発熱しているな。ガイ、リーナ達と合流して、ゆるふ···ケティが解毒できるようなら頼んでくれないか?」
吸い出したとはいえ、完全に毒が抜けたわけではない。
「ああ···わかった。」
ガイが良いのか?という表情をした。
「···リーナ様が一緒なのか?」
女性エルフが聞いてくる。彼女の肌は浅黒い。
普通に考えれば、見知らぬダークエルフを、王女であるリーナに会わせることは危険な行為だ。
人族とダークエルフの歴史を知っているなら、誰もがそう思う。
蔑ろにされ、長い年月を生きてきたダークエルフにとって、人族の長である王族は旧敵と見なしている可能性が低くはない。しかも、わざわざヘカトンケイルと闘うという危険を犯してまで、ここにいるのだ。
「リーナ様は近くで待機している。そちらの目的が何かはわからないが、今は時間がなさそうだ。負傷者の処置を優先してくれ。ガイ、俺のスキルでは大丈夫だ。」
エルフ達に言外に不用意な動きはするなと釘を刺し、ガイにはソート・ジャッジメントでは彼女達に悪意がないことが確認できたと告げる。
「タイガは···。」
チャカ、キ、シュコ、カチーン!
ポンッ!
ヒュ~···ボォォォーッ!
ガイが話しかけてくるが、それを無視した俺はGLー01の弾薬を焼夷効果のあるものに装填しなおして、ヘカトンケイルの胸部に向けて撃った。
「···グォォォォーッ!」
オッサンの治療中に、微かな振動をとらえていた。
頭部を貫通させたため、まさかとは思っていたが、
普通であれば考えられないが、頭部の数だけ脳も複数あるのかもしれない。前後の脳を破壊した衝撃で左右の脳が麻痺していただけということか。
「俺はコイツを抑える。すぐに動け。」
そう言い放った俺は、さらに
ヘカトンケイルは上体を
これまで討伐されずに、魔の森と人族国家との障壁として機能していたのは伊達じゃないということか。
ちらりと後方を見ると、ガイ達は既に100メートル以上離れた位置にいる。ヘカトンケイルの投石を考えると、大蜥蜴の障害はあるが、このまま距離を開けてもらうことが最善と言える。
俺は上体を燃やしながらも、雄叫びをあげるヘカトンケイルを素早く観察する。
アポーっ!アポーっ!と、何やら、今は亡き葉巻好きなプロレスラーを彷彿させる雄叫びをあげる巨人。
筋肉のつきかたは人間のものと大差はない。となると、急所も同様か。
俺はGLー01をSGー01に持ち替えた。
試しに、6本ある腕の一番下···人間で言うところの脇部分に、スラッグ弾を撃ち込む。
ドンッ!
ガシャッ!
大口径スラッグ弾が脇に命中。
ヘカトンケイルはやや後退し、被弾した脇を抑えながらアプゥーと苦悶の叫びをあげる。
皮膚を貫通することはないが、やはり急所は人間と同じだ。激痛らしい。
SGー01の銃口を爪先に向けて発射する。
ドンッ!
ガシャッ!
ドンッ!
ガシャッ!
両足の爪先に着弾。
ヘカトンケイルがつんのめって両膝をつく。
四つん這いになって激痛を堪えるヘカトンケイルの横を疾走して、背後に回った。
すぐに目当てのものを確認する。
あった。
俺はSGー01の銃口を、ヘカトンケイルのソレに向けて連射した。
ドンッ!
ガシャッ!
ドンッ!
ガシャッ!
「アプゥオォォォォォォォォーッ!!」
断末魔のような悲鳴をあげるヘカトンケイル。
人外であっても、生きるためには何かを食す。そうであれば、それと連動して排泄は必ずするだろう。
そう···スラッグ弾を撃ち込んだ先は、ヘカトンケイルのケ○の穴だ。
皮膚がどれだけ強固だろうと、内臓までは固いわけがないのだ。
「アポポポポポポポ···ポゥ···ポゥ···。」
痙攣しながら悶絶するヘカトンケイル。
食事中の方、ゴメンナサイの汚い絵面だ。
だが、これだけで攻撃の手は緩めない。
俺は近くに落ちていた剣···おそらく、エルフの装備品と見られるミスリル製っぽいそれを拾い上げ、ヘカトンケイルの頭部に迫った。
「悪いが、これで終わりだ。」
バリバリーっ!と、雷撃が剣を媒体にヘカトンケイルの頭部内に走る。
前後の眼球が爆ぜ、大きく痙攣を繰り返した巨人は、やがて沈黙した。
ヘカトンケイルの絶命を確認した後、ガイ達の状況を見る。
比較的高さのない崖部分を登ろうとしていたが、ヘカトンケイルの血の臭いでもかいだのだろうか、大蜥蜴が相当数発生していた。
大蜥蜴は個体では大した脅威ではないが、数も多く、その猛毒が厄介になる。
ふと、カリス監修の銃器を思い出した。完成品を受け取ったものの、試射はまだしていなかった。
今のうちに試しておくかと思い、キーワードを発動した。
"毎度おおきに!"
相変わらず凹む。
なぜ、空間収納を利用する際のキーワードが、こんなものなのだ。
いろいろと試してみたのだが何を言っても起動せず、適当に言葉を並べていると反応したのが、"毎度おおきに!"だった。
絶対に、あの堕神の趣味だろう。
「はぁ···。」
大きな溜め息をつきながら、手もとに現れた追加装備を見る。
ストックから伸びた大半が木製の本体。その真ん中より先が左右45度に可動し、出力方式が切り替えれる仕組みとなっている。
全長1180mmのそれは、パッと見た感じで、ハンティングライフルのレミントンM700を連想させる。
ただし、明らかに異なるシルエットとして、ノズル部分がサイレンサーが装着されているかのように太くなっており、先に向かってやや細く絞られている。
製作コードはWCFTー01。
一般的な銃器とは異なり、このWCFTー01には弾丸を使用しない。
メインの弾薬は風属性の魔石。それに水属性と火属性の魔石を切り替えて出力融合させる。
水属性の魔石を起動させると、無制限に水を発生させる。これに風属性の魔石が超高出力で噴射を行い、細い
火属性の魔石に切り替えた場合は、文字通り火炎放射器としての機能を有するが、
カリスには元の世界で実在するウォーターカッターと、燃焼の仕組みについてのレクチャーを行ったのだが、この世界の人間としては理解しにくい内容をすぐに把握し、WCFTー01の実用化にこぎつけた。彼女は本物の天才と言っても良いだろう。
例によって、まんまだが···何か?
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