第2章 亜人の国 11話 暴虐竜 vs エージェント①
ブレドが回復したので、集落を出発する。
メンバーは、ミン、ミーキュア、ブレドと···なぜかティーファとアレックスがいた。
「2人はどうして?」
「兄に···ネルシャン隊長に、自ら志願しました!」
「弟子にしてもらえないのなら、せめて自らの目で、は···タイガ様の闘いぶりを見て、勉強させてもらえればと思っていましゅ···。」
ティーファはともかく、アレックスは今、"裸の妖精さん"と言いかけたよな?しかも、慣れない敬語を使うから、語尾をわかりやすく噛んだし···。
「まあ、ブレドやミン達が良いなら構わないが···。それと、普通に話してくれ。そうしないと、アレックスがそのうち舌を噛んで死ぬ。」
「はい!」
「わかりましゅてぇあ···。」
「························。」
噛みすぎだろ、おい。
「来たぞ。」
ブレドが見上げる方向に、4体の
馬車か徒歩での移動と思っていたが、どうやらあれに乗って行くらしい。
「4体で足りると考えていたからな。悪いが、ミンはそいつを乗せてやれ。ティーファとアレックスもペアだ。」
「タイガは後ろ。
ブレドの後ろに乗れと言われたら、途中で故意に落とされる危険を感じていたが···ミンだから良いと言うわけではない。
どこを掴めば良いのか、わからないのだ。
腰に手を回して、「セクハラ!」とか言われたくないし···ここは、思いきって胸···いや、さすがにミンも怒るよな。
「ちゃんと腰に手を回して。
「わかった。」
お墨付きをもらった。
ミンの腰にそっと手を回して、軽く抱き締める。
ミンは小柄ではない。細身だが、170cm近い長身のため、ちょうど俺の鼻が頭頂部に近くなる。
かすかに、甘いミルクのような香りがした。癒される香りだ。
俺は目を閉じて、その香りを堪能した。
ふと、視線を感じて横を見ると、ミーキュアがじーっと睨んでいる。
あれは···明らかに軽蔑の目。
だめだ···。
人間性を否定されて、エルフの森に入れなくなるかもしれない。
俺は自重することにした。
「そう言えば、ミンは暴虐竜について詳しいのか?」
「会ったことはある。いつも真体化しているから、素顔は知らない。」
「いつも?それって可能なのか?」
「それだけ膨大な魔力を持っているみたい。ブレスの威力も、ブレドの比じゃないと聞いている。」
「···竜のブレスって、魔法と同じなのか?」
「同じ。イメージ的には、無詠唱で口から撃つ魔法。あと、暴虐竜は体の表面を魔法で強化しているから、アダマンタイト級の硬度。武力だけで言えば、連合内最強。」
普通に考えれば、確かに最強だな。
しかし、ブレスが魔法とはな。
しかも、体の硬度がアダマンタイト級···。
「性格は残忍なのか?」
「残忍と言うか···子供?」
子供?
強大な力を持ったために、道を外した闇堕ち系か?
テトリアと似た感じか。
「勝てる?」
ミンが心配そうな顔で聞いてきた。
「まあ、何とかするよ。」
そう言うと、ミンはニコッと笑顔を見せて、目線を前に戻した。
普通なら、こういうのを死亡フラグと言うのかも知れない。
ま、俺は"フラグクラッシャー"だからな。
問題はないだろう。
「ブレドよ、お主は迷い混んだ人族の調査で出向いていたのではなかったのか?」
竜人族の里には、半日ほどでたどり着いた。
ある意味?
そこは好きに想像してくれ。
ヒントは、俺の魔王が何度か暴れそうになった、だ。
因みにある宗教では、男性の修行僧が信仰に弊害をもたらすのは色欲であるとも言われている。それが起源となり、
···深くは考えないでくれ。
いや、ツッコミもいらないぞ。
···さて、里に到着して早々、尊大な口調でブレドを叱責する者がいた。
竜人族の長だ。
連合の長老も兼ねているので、かなりの権威を持っているようだ。
「その件ですが、実は···。」
ブレドから事の経緯が説明されていく。
長の表情が、百面相のように変化していった。
確か、暴虐竜の実の父親だったはず。
我が子を魔王に推して連合内での権威を高めたかったのか、額に青筋を浮かべて激怒している様子。
「貴様っ!そんな人族のような奴が、亜神だとっ!?魔王だとっ!?しかも、完膚なきまでに叩きのめされたなどと抜かしおって!!この、一族の恥知らずがっ!!!」
権力者で、かつプライドの高い者に特有の物言いだ。
「暴虐竜などという、反社会的な息子を持っていることは恥ずかしくはないのか?」
「!」
面白いので、ツッコミを入れてみた。
「き、き、き、貴様ーっ!」
顔を真っ赤にしている。
爬虫類は体温が低く、あんな風に紅潮したりはしないのだが、竜人は違うらしい。
「タイガ、貴様は長を愚弄するのか!?」
ブレドが非難してきた。
「竜人族の長を愚弄したつもりはない。」
「なんだと?」
「父親としてはどうかと思うがな。」
「·························。」
ブレドが押し黙った。思うところがあるのだろう。
「···貴様、生きて帰れるとは思うなよ!」
ん?
長が真体化するようだ。
怒りのあまり、竜化して暴れるつもりか?
感情をコントロールできないとは···やはり、ダメ親父か。
「クリティカル・バインド。」
魔力を集束し、真体化を遂げようとする長に、ミンが右手を向けて魔法を放った。
捕縛魔法?
いや···クリティカルって、何だ?
地面からイバラの蔓の様なものが出て、長に絡みつく。その数は二桁を超え、金色に光っている。
「ぐ···ぐぬ···ミン、貴様···私に反旗を!」
「反旗を翻したのは、長の方。連合の掟を無視するのであれば、例え長老と言えど、容赦はしない。」
真体化を始めていた長の体から、魔力の波動のようなものが鎮まっていく。
「ミーキュア、あれはどういった状態なんだ?」
ミンの魔法について、その効果がよくわからない俺は、横にいたミーキュアに質問をする。
「ミンのクリティカル・バインドは対象を捕縛するだけでなく、魔力や体力までも奪うのよ。」
「真体化を抑える効果があるということか。」
「それだけじゃないわ。あのままミンが魔法を解かないと、いずれ衰弱して死ぬわね。」
おお···ミン様、強え···。
「それって、竜人や獣人相手なら、かなり有効な魔法じゃないのか?」
「そうね。でも、万能ではないわ。対象が大きすぎると効果は出ないし、魔力量で優位に立てる相手でないと、打ち消されるみたい。」
と言うことは、暴虐竜には通用しないということか。
「ミンは、剣技も魔法も優れているわ。1対1なら、連合内でもトップクラスの実力よ。そうでなければ、監察官の地位にはいない。」
監察官か···少しだけミンのことは聞いていたが、スキルに加えて、その立場がさらに孤独を募らせたと思える。
嫌な思いをいっぱいしただろうに、真っ直ぐに生きてきたんだなぁと父性をくすぐられていると、後方から強い気配が迫って来ているのに気づいた。
俺は咄嗟にミンの背後に回り、ネルシャンからもらった袈裟懸けの剣帯から破龍を抜く。
視界に入ったのは、人型の竜。
その開け放たれた口からは炎が溢れ、すぐに集束されていく。
「ミーキュア、ティーファ、アレックス、俺の背後に隠れろ!」
俺は叫び、ミンに向けられたブレスに備えて破龍を構えた。
突然のことに、ティーファとアレックスは動けなかった。
ミンは長への
ミーキュアもアレックスを抱えながら移動した。
さすがに連合の幹部であり、状況判断が早い。
「あれを防げるのっ!?」
ミーキュアが俺に叫ぶのと同時に、竜からブレスが放たれた。
視界の端には、ブレドが横に跳ぶのが見える。
正面から迫り来るのは、膨大な炎。
魔力による放出なら、俺には効かない···はず。
そうは思いつつも、はっきりと言って迫り来る
後ろからは、「きゃああああーっ!」とか、「うぎゃぁぁーっ!」という、ティーファとアレックスの悲鳴が聞こえてくるが、それを聞くと逆に冷静になれたりもする。
こういった攻防はギャンブルに近い。
死と隣合わせの状況では、生き残るための確率上昇を普段からどれだけ考えておけるかが重要だ。
今回の場合、ブレスが魔力による魔法と同じだという事前情報がなければ、ミンや他の者を助けるための行動に躊躇いが出ただろう。
コンマ数秒でも遅れれば、救える命も救えない。
俺は破龍の柄に両手を添え、それを軸に大車輪のように高速回転させた。
直後、大容量の
やがて、ブレスが途絶え、そのタイミングで後ろをチラ見したが、全員が無事のようだった。
と言うより、ミンとミーキュアが魔法障壁を重ねがけしていた。
当然と言えば当然なのだが、俺が壁になる必要はなかったかもしれない···。
「すごい···剣だけでブレスを防いだ···。」
「さすが、師匠···。」
ティーファとアレックスの称賛の声が届く。
だが、アレックスよ···勝手に師匠と呼ぶな。
「あのブレスを受けて無傷だと!?ありえんっ!!」
長が何かを喚いているが、今は正面にいる竜を何とかしなければならない。
気配や雰囲気から言って、ブレドなど比較にならないくらい強いだろう。
だが、いきなりブレスを放ち、命を奪いにきたのだ。
これには返礼をしてやらねばならない。
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