第1章 41話 王都への招聘①

ギルドに戻ると、執務室に呼ばれた。


さっきのサドンデスソースの件だろうか···。


「おう、タイガ。戻ってきたか。」


「··················。」


「どうした?」


「声変わりか?」


アッシュの声は、野太くハスキーになっていた。


「·····お前がそれを言うか?」


「箔がついてカッコいいぞ。」


「·····················。」


「·····················。」


「···本題に入ろう。チェンバレン大公から連絡が入った。」


「用件は?」


「おまえを王都に招聘したいそうだ。」


「····やだ。」


「国王陛下からの招聘らしい。」


「··················。」


「耳を塞ぐな!」


仕方がない。


真面目に話をしよう。


「何で国王陛下なんだ?」


俺はため息をつきながら聞いてみた。正直なところ、国家権力にはあまり関わりたくない。


「それは知らない。王政の国で、国王の招聘を断るわけにはいかないぞ。」


「断ったらどうなる?」


「反乱分子として、拘束をされるだろうな。」


「民主主義は偉大だな。」


「···民主主義って、なんだ?」


「いや···気にするな。聖属性魔法士の招聘の件もあるし···行くよ。」


ここで断ると、アッシュやスレイヤーギルドの立場はあまり良いものにはならないだろう。曲がりなりにも、ギルドの幹部になってしまっている。管理不行き届きで、ペナルティが課せられるのは想像に難くない。


「同行者だが、魔族の件もあるからあまり人数はつけられない。構わないか?」


「1人で行くさ。」


「さすがにそういう訳にはいかないぞ。道中と、王都内の案内役にぴったりの奴がいる。騎士団とも関わりがあるしな。」


国家からの招聘となると、期限内に確実に出向かなければならない。監視役と言う訳ではないだろうが、案内役を付けるのは必然と言えた。


「誰だ?」


「スレイドだ。あいつは、騎士団第一師団長であるガリレオ·カーハート侯爵の次男坊だからな。」


師団というのは、騎士団の編成単位の一つだ。数千から数万の騎士を抱える。下部組織には旅団や連隊があり、その下に大隊、中隊、小隊が連なる。


「スレイドが案内役にぴったりと言う理由は?」


「あいつの兄貴は騎士団の大隊長なんだが、スレイヤーをあまり良くは思っていない。おまえが1人で王都に行くと、邪険にされるかもしれん。」


「スレイドの兄貴とは知り合いなのか?」


「ああ。王都の騎士学校で同期だった。くそ真面目な奴だったから、よくからかったものだ。」


···それって、おまえのせいでスレイヤーを嫌いになったパターンじゃないのか?


いやいや、思い出し笑いしてんなよ。


「邪険にするって、何をされるんだ?」


「あからさまなことをしてくる訳じゃないが、素行不良なんかをすれば拘束をされるんじゃないか?王都で、スレイヤーがデカイ顔をして歩くのが気にくわないんだろ。」


「過去に事例があるのか?」


「ああ。俺が拘束された。」


今、素行不良をしたら拘束されるって言ったよな。それはおまえが悪いんじゃないのか?


「まぁ、すぐに釈放されたけどな。ハッハッハ。」


ハッハッハじゃねぇよ。


辺境伯の嫡出子だろうが。


「弟想いの奴でな。スレイドがスレイヤーになるって言ったら、俺に決闘を申し込んできたくらいだ。無視してやったがな。」


それは間違いないな。


スレイドの兄貴がスレイヤーに歪んだ感情を持っているのは、100%おまえのせいだよ。




ギルドホールに行き、パティ達に王都行きの件を話した。ミーティングも終わったようで、参加者のほとんどがホールやカフェにいる。


「えっ!?私も行くよ!」


「そうですわ。同じパーティーなのに、置いて行かれる訳にはいきません。」


口々にそんな事を言ってくる。


「気持ちはありがたいが、みんなにはここを守って欲しい。魔族の脅威が去った訳じゃないからな。」


納得した訳ではないようだが、少しでも戦力を残しておきたいというギルドの考えは理解できたようだ。


「ギルマス補佐!」


上階から降りてきたスレイドに声をかけられた。俺と入れ替えに執務室に呼ばれていたのだ。


「ああ、スレイド。王都行きの件は聞いたか?」


「はい。同行できて光栄です。」


歯をキラッと光らせて、そんなことを言っている。


真面目な好青年だから、騎士団からも勧誘されていたんだろうな。兄貴はスレイヤーギルドに大事な弟をとられたと思ったか。しかも、騎士学校時代に因縁のあるアッシュがギルマスだしな。


はぁ、行きたくないなぁ。


アッシュの代わりに絡まれそうだ。




その日のうちに準備を整えて出発した。


王都までは、馬なら2日はかかる。


今更だが、魔族の占有地と王都は、1000キロと離れていない位置にある。王城から見ても、スレイヤーギルドの重要性が高いのは当然と言えた。


国王陛下からの招聘は何が目的なのかはわからないが、魔族絡みの事としか思えなかった。




街を出てから2日目の夕方だった。


途中で小さな村で1泊し、王都まではあと数時間で着く距離まで来ていた。


ここまでは何事もなく馬を乗り続けてきたが、長時間馬上にいたのでお尻が痛い。


「結構活気がある所だな。」


今いるのは王都手前にある交易都市。


他の地域からの行商人が立ち寄る場所らしく、商業が盛んなようだ。


「王都は検問でのチェックが厳しいですからね。ここで持ち込んだ商品を取引きする行商人も多いと聞きますよ。」


「物によっては、ここで仲買をして王都に運ぶ商人もいると言うことか。」


辺りはすでに夕闇が迫っており、スレイドとここで1泊しようと話をしていた。


「多少高くても良いから、ゆっくりと休めるホテルはないかな?」


「だったら、案内所に行きましょう。そこでなら、良い宿を紹介してくれますよ。」


こういった外来の者が多い都市では、案内所のようなものがあるらしい。おすすめのホテルや飲食店を紹介してくれるので、歩き回って探す手間がはぶけるとのことだ。


元の世界でも、観光地なんかに行けばこんな感じなんだろうな。


こんな風に観光案内所があることは知っていた。ゆっくりと旅行なんかをしたことがないので、利用したことはないが···あかん、なんか悲しくなってきた。


俺の人生って···。




案内所に行くと、すぐに宿を紹介してくれた。


この街で一番評判の良い宿は、すぐ近くのバルが経営しており、同じ建物の中にあるらしい。


「ちょうど、食事も取れますね。」


スレイドが言うように、バルとは食堂とバーが一緒になったような店をいう。朝も昼もプラムケーキや干し肉ばかりだったので、温かい食事が取れるのはありがたかった。




バルに行くと、多くの人間で溢れて活気に満ちていた。


商人や町民、スレイヤーと同じような身なりをした冒険者など、様々な人種がいる。宿だけではなく、バルも評判の店なのだろう。


「美味しい料理が食べられそうだな。」


「ええ。楽しみですね。」


空腹にお腹を押さえながら、カウンターに行って宿の受付を済ませる。


荷物を置いて、シャワーを浴びた後にバルで落ち合う約束をして、それぞれの部屋に入った。




バルに行くと、なぜかスレイドが3人の冒険者らしき男女と相席をしていた。


ナンパをした訳じゃなさそうだな。


俺は深刻そうに話す4人の席に向かった。


「あっ、ギルマス補佐。こっちです。」


「えっ!お連れの方って、ギルマス補佐様なんですか!?」


一番年上と見える冒険者?の女性が、スレイドに確認をした。


「ああ。うちのギルドのギルマス補佐、タイガ·ショタさんだ。」


バシッ!


「痛っ!」


俺はスレイドの頭を平手打ちした。


ショタって言うな。


「失礼しました。改めて、タイガ·シオタです。」


いきなりスレイドの頭をどついたので、3人が目を丸くしている。


「···シオタの発音が難しいようだから、タイガと呼んでくれれば良い。俺の故郷ではショタと言うのは、小さい男の子の事を指すんだ。場合によっては、ショタコンを略してそう呼ぶこともある。」


「あ···いきなりだったのでびっくりしました。つまり、スレイドさんは上司に向かって、少年愛好家と呼んだという事ですよね?」


「そうなる。」


頭の回転が早いようで助かる。


「そ···そうだったんですね!しらなかったとは言え、申し訳ありません!!」


デカイ男が直立して頭を下げるのは目立つ。


「良いから座ってくれ。変に目立ってるだろ。」


周りからひそひそと噂をされだした。


「あの人、変態なんだって。」


「大丈夫だ。少年趣味らしいから、こっちには実害がない。」


「騎士団を呼んだ方が、良いんじゃないのか?」


やめろ。


全員の記憶を消してやろうか。


くすくすと笑う3人と、これ以上にないほど申し訳ないといった顔をしたスレイド。


俺は肩をすくめて話を聞くことにした。




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