第1章 26話 大切な居場所②

バーネットに話を聞いた。


彼女は1週間程前まで、冒険者ギルドに所属をしていた元ランクA冒険者だそうだ。


冒険者ギルドは、図書館にあった『ギルド組織の変遷』という本に記載があった。文字通り冒険をする者達を管理するギルドで、この世界では一番メジャーなものらしい。


スレイヤーが魔族や魔物の討伐を専門にするのに対して、冒険者は未開地や遺跡の捜索を主に行う。それ以外にも、賊の討伐やアイテム採取などの依頼に対応する、いわば便利屋とも言える。中には傭兵としての依頼を受けることもあるようで、バーネットはそちらを専門にしていた。


ギルドから資格を剥奪された経緯についてだが、男勝りな戦闘力や態度から「男女」と周りから呼ばれ続けて腹を立て、「俺は女だ!」と男性冒険者数人を半殺しに追いやった。


その後、ギルマスの執務室に呼び出されたバーネットは、散々に説教をされ続けて悪態をつき、「そんな態度をとるから、男女と言われるのは当然だ!」と言われたことでキレてしまい、ギルマスをボコったとの事だ。


普通に考えたら、そりゃ資格を剥奪されるよな。


「セクハラと言うのは、男女と言われたことについて言っているのか?」


「そうだよ。あんたもそう思うのか!?」


噛みついてきた。


狂犬かコイツは···。


「いや···バーネットは魅力的な女の子だからな。そんな風には思えない。」


あ···これもセクハラ発言か?


「························。」


バーネットが急に静かになった。


ん?


どうした?


やっぱり、セクハラ発言と思われたか!?


「····今···何て言った?」


なんかモジモジしている。


顔も赤いぞ。


「バーネットは、十分魅力的な女の子だって言った。」


「そ···そんなこと···ない···。」


急に汐らしくなった。


なんか怖い···。


「タイガは···その···俺を口説きたいのか?」


···何を言ってるんだ、コイツは?


「口説きたいとかじゃなくて、一般論を言っている。」


「はうぅぅぅ···。」


なんか喘いでいるぞ。


治療院に運んだ方が良いのか?


「何にせよ、殴ったことについては、罰則を受けても仕方がないかな。」


「···え!?」


「回復魔法は使えるのか?」


「え···あ、うん。使えるよ。」


おっ、ちょうど良いかも。


「ジョブは?」


「回復支援魔法士だけど、弓と格闘術が使える。あと盾術も。」


おお、理想的じゃないか。


「わかった。ちょっと待ってろ。」


俺は職員のところまで行き、バーネットの対応について協議をすることにした。




受付に行き、職員に話をした。


「さっきのバーネット·レイクルの件だけど、ちょっと良いかな?」


「あ、ギルマス補佐。ややこしいことを押しつけてしまって、すいません。どうなりました?」


職員は申し訳そうな顔をしている。


本心なら、人を巻き込むのはやめろよ。まぁ、今回は偶然にも適任だったから良いが。


「あの子は俺のパーティー要員として引き取ろうと思う。規約的に何か問題はあるかな?」


「規約では、他のギルドで資格剥奪をされたものは受け入れないことになっています。問題を起こす可能性がありますので。」


まあ、組織としてはそうだわな。


「詳しい事情を聞いてみたが、冒険者ギルドにも非がない訳じゃない。対外的に問題があるなら、俺が対処をするけど。」


「対外的な問題は、正直言ってありません。でも、スレイヤーギルド内で問題を起こされると困るので···。」


正論だな。


「何かもめ事を起こすようなら、俺が対処するぞ。」


「えっ···あの···フルボッコとか、力ずくと言うのは···。」


「···しないよ。」


「あ···すいません。怒らないでください。死にたくないです。」


こいつらは俺のことを何だと思っているのだろうか···。


「今後のために聞いておきたいんだけど、俺ってそんなに威圧的かな?」


「···いえ···そう言う訳では···。」


「ん?じゃあ、どう言う訳か教えてくれないかな?」


怖がらせないように、できるだけ優しく聞いてみた。


「その···ギルマスから、あなたを怒らせると···ギルドを壊滅させられるかもしれないから···気をつけろと···。あと、チェンバレン大公も肩入れをしているから···と笑いながら言われたので···。」


あの野郎···しかも、なんでチェンバレン大公が出てくる。


「大丈夫だ。そんなことはしないよ。アッシュには俺から話しておくから。」


めっちゃ笑顔で答えてやった。


「ひっ···よ、よろしくお願いします。バーネット·レイクルさんのことは、お任せしま···す。」


「うん、わかった。ありがとう。」


「いえ···あの···ギルマスをフルボッコにするんですか?」


しねーよっ!




「おまたせ。ちょっと、ギルマスのところに行こうか。」


カフェに戻った俺は、バーネットに声をかけた。


「ど···どうする気?」


なぜか、バーネットの表情が固い。


「ん、どうかしたのか?」


「周りの人が···タイガは危険だから、関わると人間を辞めることになるよって···。」


周囲を見ると、みんなが目を反らしやがった。


「···誤解だ。」


本当にギルドを潰してやろうかと思った。




「事情はわかった。お前に任せるよ。」


アッシュに相談をしたら、あっさりとOKが出た。


「対外的に問題はないのか?」


「対外的?ああ、冒険者ギルドか。大丈夫だろ。たまに共闘をすることはあるが、基本的にはお互いに干渉はしないからな。ま、何かあったら、うちの最終兵器が発動するぞって言ってやるよ。」


「···最終兵器って何だ?」


「えっ、お前だよ。」


傍らにいたバーネットがビクッと反応した。


「最終兵器って···おまえは俺をどんな立場にしたいんだ?」


「だって、そうしておけば他の組織とか、王国への牽制になるだろ?素手で魔族を倒せる奴なんて、世界中を探してもお前だけだし。」


さわやかに笑いながら言うなよ。


「頼むからやめてくれ。」


「あ···あの、あんた、アッシュ·フォン·ギルバートだよな?」


こらえきれないといった感じで、バーネットが口を挟んできた。


「ああ、そうだ。」


「あんたは国内···いや、大陸内でも屈指のスレイヤーだって聞いている。そのあんたが、最終兵器とかって言うタイガって···何者なの?」


「世界最強のスレイヤーさ。」


「············。」


「タイガは俺よりも強いからな。10回闘ったら、7~8回は敗ける。」


しれっと余計なことを言うなよ。ほら、バーネットが変な目で俺を見ているだろうが。


「····そ··そうなんだ。」


「俺がアッシュに勝てるのは訳ありなんだ。」


「わ、訳って?」


「魔法がすべて無効化するんだ。」


「···それって···チートじゃん。」


何度でも言う。


頼むからそういう目で俺を見るのはやめてくれ。




修練場にバーネットを連れて行って、みんなに紹介をした。


経緯を説明したが、さすがに女性陣ばかりなので、冒険者ギルドに非難が殺到する。


「そんな扱いをするなんて最低。」


「こんなにきれいな人を男扱いするなんて、ひどすぎますわ。」


などなど···。


「あ···ありがとう。」


バーネットはうれしそうだ。


「早速だけど、バーネットの認定試験を始めるぞ。」


落ち着いたところで話を進める。


実力はしっかりと確かめておきたかった。




バーネットは、元々がランクA冒険者だ。等級については、基本的にそれを引き継げば良いだろう。(因みに、後でリルからスレイヤーと冒険者との実力乖離を聞き、バーネットの正式なランクはBとなっている。)


従来、異なるギルド間で移籍をすることは、それほど珍しいことではない。バーネットの場合は、一度資格を剥奪されているのでややこしいだけだ。


「認定試験って、何をすれば良いんだ?」


バーネットの質問に、リルが答えた。


「剥奪された資格を別のギルドで復活させるのは、相当ハードルが高いのよ。本来は、所属をしていた冒険者ギルドとスレイヤーギルドが協議を重ねた上で審議を行うから、何ヵ月もかかったりするの。それを新規扱いで登録するってことよね?」


「ああ、等級認定ではなく、認定試験にしたのはそのためだ。それと、バーネットが入ることで、パーティーのパワーバランスの底上げができるかを見るために、チーム対抗戦でやる。」


こういった認定試験は、同様のケースで過去にも事例があるとアッシュからは聞いていた。事例があると言うことは、ひとつのルールとして運用できるということだ。


「わかった。タイガは俺にチャンスをくれた。だったら、あとは自分が力を尽くすだけだ。」


バーネットは前向きだった。




チームを2つに分ける。


【チームA】

タイガ   前衛

リル    後衛


【チームB】

パティ   前衛

シス    前衛

バーネット 中衛

フェリ   後衛

テス    後衛


バーネット以外については特訓も兼ねているので、こういった布陣となっている。


「タイガ、体は大丈夫なの?」


「模擬戦くらいなら問題はない。全力で来い。」


「わかった。」


パティとそんなやり取りを行った後に、ルールを決めた。


チームAが攻撃側、チームBが防御側として、お互いの陣営にあるフラッグを倒した方を勝ちとする。勝敗にこだわるものではないが、より実戦的なものの方が、バーネットの実力を確認しやすいからだ。


「さて、やるか。」


準備が整ってから、模擬戦を開始した。




「おっ、楽しそうなことをやっているな。俺も参加をしてくるかな。」


アッシュは執務室の窓から、修練場の様子を見ていた。


すぐに自分も修練場に向かおうとしたが、「ギルマスっ!決済が必要な書類が、まだこんなにも残っているんですよ!!」と、職員からの無情の言葉が響き、拘束される。


「ほんの10分くらい抜けるだけだから。」


「ダメです!先にすべて終わらせてください!!奥様に言いつけますよ。」


「わかった!すぐにやる!!」


職員はアッシュの弱点を心得ていた。




リルが先制の魔法を放った。


風撃が広範囲に展開し、前衛の2人を襲う。


「任せて。」


フェリの精霊魔法が土の障壁を生み出し、パティとシスに迫った風撃を阻む。


属性魔法は各人1種限定でしか扱うことができないが、精霊魔法は土、水、火、風の精霊との契約により、全ての属性魔法の発動が可能となる。


「俺は防御と回復に回る。フェリとテスは後方から前衛2人の支援を頼む。」


バーネットが仲間に的確な指示を出した。実戦経験で言えば、チームBで一番のようだ。


「わかったわ。テス、リルに牽制を。」


「はい!」


テスとフェリが、炎撃をリルに連続で撃ち込む。リルは風属性の障壁で防ぐが、足止めをされた形だ。


「シス、タイガを止めるよ!」


「うん!」


シスが俺に向けて、氷柱を連続で放ってきた。直線的な攻撃だったのでかわす···が、パティが俺の動きを先読みして、模擬戦用のダガーを振るってきた。アッシュとの闘いの時と同じ戦法だ。


ダガーは間合いが狭い。


俺は膝を落としながら、パティに向かって踏み込んだ。


バシッ!


右手首をはねあげて、ダガーの軌道を逸らす。


「良い連携だ。」


そう呟いて、パティを抜いた。


フラッグに向かって駆ける。


「通さないっ!」


バーネットが盾を剣のように振るってきた。大型の盾だが動きは早い。


盾術と言うと、防御に特化していると思われがちだが、実は違う。


敵の視界や動線を遮る。


味方の攻撃の軌道を隠す。


相手を押し出し、撥ね飛ばす。


武器として振るう。


形状や重量、使い手の技量にもよるが、地味に見られがちな盾は、戦闘において多用な戦略を可能とするマルチウェポンなのだ。


バーネットの盾による攻撃をかわす。


「盾術か。どんなものか、見せてもらおうか。」


元の世界では、盾を装備した敵と闘うことなどなかった。


興味深いので、じっくりと観察させてもらおう。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る