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 姫は再びニヤッと笑いました。

「ふふ、それで魔法をかけたつもりなの? ばからし! この世界で魔法が使える者は私だけよ!」

 侍従長は涼しい顔。

「では、試してみてください、飛行魔法を!」

 姫は床に落ちてる箒を右手で握りました。そして侍従長を見て、またニャッと笑いました。

 姫は箒を握る手を腰の高さまで持っていき、そこで箒を離しました。いつもだったら箒は空中に留まるのですが・・・

 カカーン! 箒は重力に引っ張られ床に落ちました。姫はびっくり。

「ええ?・・・」

 姫はもう1度箒を握り、腰の高さで箒から手を離しました。

 カカーン! やはり箒は床に落ちました。姫はまたもや愕然。

「そ、そんな・・・」

 侍従長。

「私も姫が図書館と言ってる建物に何度か出向き、研究しました。そして誰でも使える飛行魔法封じの魔法を見つけたのです。

 姫、もうあなたは飛べません。国家国民のためにこの部屋でじーっとしておいてください!」

 侍従長はお側ご用人の2人を見て、

「おまえたちは引き続き姫を警護してくれ」

 侍女はもじもじ。

「あ、あの・・・ 侍従長、すみません」

 侍従長を応えます。

「姫に銃口を向けた件か? ふふ、それは不問にしよう。ただ、あまり出過ぎたことはするんじゃないぞ。あのお方はあー見えても、この国の王じゃ」

 侍従長はドアを開け、出て行きました。閉まるドア。

 姫は落ちてる箒を持ち、それを凝視しました。もう2度と飛べない・・・ 姫にとって飛行魔法は唯一使える魔法と言っていいほど重要な魔法なのです。それを封じられてしまいました。準一の仇討ちどころではなくなってしまったのです。


 移動を続ける空中要塞。そのコントロールルーム。ブリュンがナルヴィに質問しました。

「ところで皇子様、さっきこの国の女王の首を持って来い! 首を持ってきた者は、グラニ帝国の貴族の地位を与えるぞってアジりましたけど、あれ、ホントですか?」

「ふふ、あれかぁ・・・ そうだなあ、首を持ってきた者がいたら、そいつの首も即刻はねて、女王の首と並べて晒し首にするか、がはははは!」

「じゃ、この国を占領したら、全員?」

「当然奴隷だ」

 ブリュンは心の中で苦笑い。

「あは、やっぱりね」


 空中要塞が郊外に出ました。コントロールルームのモニターの大半に畑が映りました。ナルヴィはそれを見て、

「よし、あそこに降りよう!」

 空中要塞が降下開始。草原に着陸しました。と言っても、空中要塞は巨大。隣接した畑を押し潰し、農家も破壊。かなりの数の農民も、生きたまま潰されてしまいました。


 空中要塞コントロールルーム。空中要塞は着陸はしましたが、ギュンギュンという機械音は続いてます。ナルヴィはそれに気づき、

「ん、着陸したのか? 着陸したんなら、機械の音がやむはずだが?」

 技術者が回答します。

「高度0で浮いてます。もしほんとうに着陸したら、この要塞は地面に深くのめり込んでしまいますよ、自重で」

「むむ、そうか」

 ナルヴィは技術者を見て思いました。

「う~む、この男がいないとこの要塞を飛ばすことは不可能か? しばらくは奴隷にしない方がいいな」


 空中要塞の側面の一部が大きく開きました。揚陸艦のような大きなゲートです。そこからおびただしい数の兵が降りてきました。

 リーダー格の兵が手にしてた刀剣を頭上高く掲げ、

「よーし、野郎ども、行くぞ!」

「おーっ!」

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