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 準一は関心する一方で、今の発言の最後の部分がひっかかったようです。心の中でつぶやきました。

「地震魔法・・・ 姫はやっぱ地震魔法が欲しいんだな・・・」


 2人を乗せた箒はさらに高度を上げました。スピードも上がります。姫は横目で後ろの準一を見て、

「どう、髪の毛、気にならなくなったでしょ?」

「ねぇ、髪の毛切る必要なかったんじゃないの? 小さくまとめればよかったじゃん。シニヨンだっけ?」

「いちいち箒に乗る前に髪の毛まとめるなんて大変だよ。こーやって切っちゃった方が早いって」

 準一は釈然としてません。自分のせいで姫は王室の伝統を破ってしまったからです。


 箒の下は山間部になってきました。かなり高い尾根。これは山脈と表現した方がいいようです。さらにその向こうには海が見えました。山脈はそのまま海に突き出ています。そう、岬。

 岬の先には小さな島が一直線に点々と続いてます。一番奥に見える島のさらにはるか向こうに大型の帆船が3隻見えてきました。スクルド王国の軍艦です。姫は思わず大声をあげました。

「見えた!」

 軍艦の側面にはたくさんの窓が横一列に並んでいて、その窓すべてから大砲が顔を出してます。準一はそれを見て、

「うわっ、凄い大砲の数! あれを1発でも喰らったらたとえ防御魔法スヴェルクーゲルの光で防御してても木端微塵だよ!」

 姫は考えます。

「う~ん・・・」


 先頭の軍艦から見た姫と準一。それを単眼鏡(遠眼鏡)で見ているこの軍艦の船長キャプテンはニヤッと笑いました。

「あれはノルン王国の女王。ふふ、女王自らられに来たとは・・・

 撃てーっ!」

 大砲が一斉に火を放ちました。しかし、2人が乗った箒に砲弾はまったく当たりません。いや、届かないと言った方がいいかも?

 当たり前です。この時代、まだ航空兵器はありません。大砲を上に向ける必要がないのです。2人が乗った箒に砲弾を当てるには、ぜんぜん角度が足りてないのです。

 船長キャプテンは悔しがってます。

「くそーっ! あんな高いところを飛ばれては・・・」

 2人が乗った箒が軍艦の真上を直交で通り過ぎます。準一は軍艦を俯瞰して、

「おっ、いいことを思いついたぞ! 姫、甲板と同じ高さを飛んで!」

「OK!」

 2人が乗った箒が高度を急激に下げながら270度ターン。準一は何かを握るように右掌で輪っかを作り、呪文を唱えました。

「出でよ、鎌鼬かまいたちの剣!」

 すると手の中に光が現れ、それが長細くなり、鎌鼬かまいたちの剣となりました。

 2人が乗った箒は、軍艦の甲板よりちょっと高い高度で船尾から近づいてきました。それを見て慌てる船長キャプテン

「撃て! 大砲を撃って撃ち落とすんじゃ!」

 側にいる兵がそれに応えます。

「ダメです! 近すぎるし、角度的に当たりません!」

 船長キャプテンは悔しがり、

「くっ・・・ 弓だ! 矢でやつらを撃ち落とすんじゃ!」

 慌てて弓を用意する甲板上の兵たち。何人かは矢をつがえることができたようです。船尾に差し掛かった箒の2人に矢を放ちました。

 準一は鎌鼬かまいたちの剣を平行に振りました。

「えいっ!」

 発生した旋風が飛んできた矢を巻きこみ、さらに甲板にいた兵たちを巻き上げます。悲鳴をあげる兵たち。

「うぐぁーっ!」

 さらに準一は剣を2回振り、甲板中央部、船首部分にいた兵の身体を空中に舞い上げました。舞い上げられた兵たちは、空中で切り刻まれて行きます。甲板は肉片累々状態。それを見た船長キャプテンは恐れおののきます。

「うぐぐ・・・」

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