15

 少女は箒の柄を掴む右手に力を入れると、ものすごい勢いで降下開始。びっくりする準一。

「うわーっ!」

 2人を乗せた箒は街道に向かって落ちて行きます。それを見て報道ヘリコプターのリポーターが慌てます。

「ああ、魔女と明石容疑者を乗せた箒が落ち始めました! このままだと幹線道路に激突します!」

 すぐ眼の前に街道が迫ってきました。クルマがたくさん行き交ってます。それを見て焦る準一。

「うわーっ!」

 アスファルトに激突する寸前、箒が90度ターン。準一は引き付いた笑顔を見せました。

「あははは・・・」

 箒は今度は道路に沿って飛び始めました。2人のつま先はアスファルトより10cmくらいの高さにあります。

 少女の長髪が走行風圧にたなびいて準一の顔を包みました。これは苦しそう。

「うわっ・・・」

 と、準一はすぐ横を走る自動車に気づきました。そのクルマが後方に下がって行きます。びっくりする準一。

「ええ?・・・」

 実は2人を乗せた箒は時速100km/h以上のスピードで飛んでました。街道を走るクルマは箒に乗った2人にどんどん追い抜かれていきます。

 準一。

「は、速過ぎるよ・・・」

 けど、風切り音のせいか、少女の耳にはイマイチ届かなかったようです。

「え、何?」

 準一は今度は大声で、

「速過ぎるって!」

「あは、大丈夫大丈夫、そのうち馴れてくるから!」

 これを上空から見てる女性リポーター。

「信じられません。箒に乗った2人はクルマより速いスピードでアスファルトギリギリを飛んでます!」

 このヘリコプターを見上げる少女。

「この程度のスピードじゃ、あいつはまけないか・・・ じゃ!」

 少女の眼の前にトレーラートラックが。このトラックは2車線あるうちの走行車線を走ってます。2人はそのトラックのテールに突っ込んで行きます。焦る準一。

「ぶ、ぶつかるーっ!」

 ぶつかる寸前、箒はスライドするように左に。そのまま前進してトラックの側面に。上空を飛ぶヘリコプターの死角に入りました。

 しばらくしてヘリコプターの操縦者の頭の上に?が浮かびました。

「ん、あの2人、どこに行った?」

 女性リポーターがマイクを下げて応えます。

「あのトラックの向こうにいるんじゃないですか?」

「い、いや・・・ なら、とっくの昔にトラックを追い越してるはずだぞ」

「ええ?」

 操縦者は操縦桿サイクリック・ピッチ・スティックを倒しました。

 廻り込むヘリコプター。トラックの向こう側が見えてきました。そこには・・・ 少女と準一の姿はありません。びっくりするヘリコプター内の一同。

「ええ~ 消えたーっ!・・・」


 さて、2人はどこに行ったのでしょうか? ちょっと話を巻き戻しましょう。

 トレーラートラックの左側に入っていく2人を乗せた箒。と、眼の前に建築現場が見えてきました。鉄骨の骨組みだけの現場。さらにその向こう側には、今姫が飛んでる道路と直交してる道路があります。幅5mくらいの路地です。

 突然少女が口を開きました。

「そこ、曲がるよ!」

 びっくりする準一。

「ええ?

 む、ムリだって、このスピードじゃ!」

 けど、その発言を無視するように2人を乗せた箒は角を曲がり始めました。悲鳴をあげる準一。

「うわーっ!・・・」

 準一は目をつぶり、歯を喰いしばり、激しい横のGに備えました。少女の腹に巻かれた準一の手に自然と力が入ります。

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