12

 父親の心の中では、この時点まで最後のリミッターがかかってました。バールで準一を狂わせてるアイテムをすべて破壊するが、準一自身には絶対手を出さない。けど、この瞬間、その最後のリミッターが吹っ飛んでしまいました。

 父親は立ち上がると、準一にバールを振り上げます。

「うぉーっ!」

 バールを振り下げる父親。が、準一は今度は冷静に見てました。準一はバールをひらりと交わすと、振り返った父親に突進。

「うおーっ!」

 準一は父親にタックル。そのまま2人の身体は絡まったままドアを出て階段へ。2人の身体は階段を降りることなく宙を舞いました。これを階段の下から見てた母親が悲鳴。

「きゃーっ!」

 バキッ! この家の階段は下階の最後の3段のみL字に曲がってるのですが、その曲がりの部分の壁に父親の後頭部が激突したのです。一瞬の静寂。

 上になってる準一は父親の眼を見ました。父親の眼は開きっ放し。瞳孔も開いてます。焦る準一。

「お、親父おやじ・・・?」

 父親の後頭部から血がじわ~と漏れてきました。それを見て数歩下がる母親。

「あ、あなた・・・」

 死んだ。父親おやじが死んだ。オレが殺した・・・ 準一はそうさとると、

「うわーっ!」

 と大声を出し、そのまま玄関から外に飛び出して行きました。母親はその場にへたれ込んでしまいました。


 夕暮れ。ここは明石家。その前の通りにはパトカーが何台か駐まってます。規制線が張ってあって、その外側に何人かのヤジ馬の姿があります。付近では2人の主婦がひそひそ話をしています。そこに別の主婦が。今来た主婦はあたりが騒然としてる理由がわからないようです。2人に質問しました。

「お、奥さん、何があったの?」

 それに応える主婦。

「あら、奥さん、明石さんが殺されたのよ」

「ええ?」

 もう1人のうわさ話をしてた主婦。

「殺したのは引き籠ってた息子なんですって」

「ええ、あの準一君が?」

「いつかは何かやるんじゃないかと思ってたけど・・・」

「怖いわねぇ・・・」


 明石家内部、階段。明石父が倒れていた場所は白い線で囲まれており、その付近を写真撮影してる鑑定人が見えます。

 一方ここは居間。明石母がソファに座ってます。眼はうつろ。生きた屍(しかばね)って感じ。それをちょっと離れた位置から見てる2人の刑事の会話。

「こりゃしばらくは、事情聴取はムリですね」

「ああ・・・」


 さらに暗くなってきました。住宅街を複数のパトカーが走ってます。ある家の玄関では警官が聞き込みをしてます。どうやら準一の身柄はまだ確保されてないようです。


 その準一ですが、マンションの裏で体育座りしてました。準一も眼がうつろ。何かつぶやいてます。

「あ、あれは正当防衛だよな・・・」

 けど、準一の頭の中では別の思いが渦巻いてました。尊属殺人。それはふつーの殺人罪より重い罪。20年、いや臭い飯を永久に食わないといけないのか?・・・

 実は準一は5日前に20歳になってました。もしこの凶行が6日前だったら罪が軽くなってたかもしれませんね。

 と、突然声が。

「いた!」

 ビクッとする準一。準一は慌ててあたりをキョロキョロします。が、誰もいません。

「やっと見つけた! まったくこの世界にはマナの力を持った人がたくさんいるから、捜すのが大変だったよ」

 それは上からの声。準一は顔を上げると、そこには箒に乗った少女、今朝未明助けてあげた少女がいるのです。

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