50、戦う魔導師

「お三方さんかた!何とか後退を!」


「駄目だ!こんな奴を城に解き放つ気か?!ここで食い止める!」


ギルバが叫び、襲ってくる鳥を切り落とす。


「しかし、これでは……!」


ガーラントは剣を振り回し、リリスとおのれを護るので精一杯だ。

ルネイ達2人は、鳥に襲われながら杖を振り、必死に呪をつづった。


「おのれ!おのれ!聖なる水よ、その力を持ってこの地を清めよ!」


「地の精霊よ!地の精霊よ!その身を震わせ光を起こせ!闇を照らし、みたる影を消すがよい!」


床の聖水が霧となって舞い上がり、地の精霊が起こす光を乱反射する。

カッとあたりがまぶしい光に包まれ、黒い鳥達は燃え上がり、そしてチリになって消えて行った。

獣は楽しそうに、顔を上げ笑い始める。

よろめき膝を付いたグロスに、ベロリと長い舌を伸ばした。


「ヒ、ハ、ハ、ハ、ハ!ナント面白イ!

ククク!ホンロウセヨ、白イ魔導師!ソレ、女ガ死ヌゾ!ヒハハハ!」


ギュッとレナファンを握る爪に力が入り、彼女の身体が折れ曲がる。


「きゃ、あ、あ、ああ、ああああ」


結界で石のようになっていたレナファンが、とうとう声を上げた。

彼女の顔に生気せいきが戻り、激しく身を震わせる。

結界が完全に壊れてしまったのだ。


「レナファン!」


グロスとルネイが力を合わせ、大きな力を笑う獣の頭に当てる。

しかしそれはびくともせず、レナファンはいっそう壁にめり込んで行った。


「ううう……ルネイ殿……グロス殿……もう、私のことは……」


意識を取り戻したレナファンが、涙をこぼし2人に首を振る。

リリスはガーラントにまもられ、複雑な呪をつづり精霊を集めながら、魔導師2人が戦っている壁から伸びる獣の顔を見上げた。


違う、あれはまことの姿をあらわしていない。


「……聖なる光を持つ精霊たちよ我が元へ集え。その清らかな光を持ってよこしまな者の真実をうつす鏡となれ。

我が手に集まれ、我が言葉に答えよ、汝らの光はすべての者をいつくしむものなり。

我らに救いの手を!ことわりによってまことをあらわせ!」


リリスが高くかかげた手が、次第に光り輝いて行く。

その光は魔物をまぶしく照らし、そして巨大な魔物の顔を、レナファンを掴む爪の真実をあばいて行く。


「な!なんと!」


笑う獣の頭、それは壁から伸びた青黒い小さな無数のヘビの塊、そしてレナファンを掴む鳥の爪は、巨大な一匹の青いヘビが彼女の身体にからみ付き、壁にポッカリと空いた真っ黒な空間へと抜けようとしていた。


「本体はあの巨大な蛇! 頭はおとりです!」


リリスが大きく叫んで指を指す。

その声に、獣の頭を成していた小さな蛇はドッと一斉に床に落ち、絡まり合って一匹の巨大な大男のモンスターとなってゆく。


「コシャクナガキヨ、オ前カ?顔無シト赤目ヲ倒シタノハ?

りゅーず様の杞憂きゆうヲ、消シサッテクレヨウゾ」


その問いにリリスは答えず、両手をかかげ心を集中する。

モンスターが手を広げると、その手の平から蛇が無数に出てからまり、大きな斧となった。

ガーラントがリリスの前に立ち、剣をかまえる。

太刀打ちできないのは目に見えている。

だが、身をていしてもリリスを護らなければ。


「ガーラント!」


グロスが、杖をガーラントの剣に向けた。


「地の精霊よ!剣に宿やどりて守護の力となれ!」


ガーラントの剣が、光り輝き軽くなる。


「オオ!」


モンスターが、渾身こんしんの力で斧をガーラントに振り下ろした。


「うおおおお!!」


バシンッ!


それは金属音ではなく、火花を上げて斧を受け止めはじき返す。

弾みでよろけたガーラントが、息を弾ませ再度来る攻撃に剣を構える。

モンスターが斧をもう一度振り上げた時、その動きがぴたりと止まった。


「精霊達よ、聖なる光を我が手に!」


すべてを清める光が、次第にリリスの手に集まりまぶしいほどにあたりを照らす。


「ナニ!」


モンスターが顔を手でおおい、思わず数歩後ろに下がった。


「風の翼よ!よこしまなる者をつらぬく矢となり、聖なる光をまとい我らの力となれ!

ルナルーン・ファルファス・セ・ガルド!」


ごうと風がリリスの手に集まり、そして手の中で光と風が絡まるように一つの矢となって行く。


「コノ光?!」


恐怖するモンスターが慌てて斧を振るう。

ガーラントが横なぎにそれをはじき、急速に弱まっていく輝きにリリスを振り向いた。


「リリス殿!」


リリスの身体が、矢を投げることが出来ず小刻こきざみに震え動かない。


「ピピッ!リリスしっかりして!

誰か!早く来て!ピピピ」


ヨーコ鳥は、尋常じんじょうでない様子に加勢はまだかと外へ飛び出して行く。

その時リリスは過度かどな緊張の中、すでに疲れ果てていた身体が悲鳴を上げて、膝がガクガクと震え、まるですべての血が抜かれていくような強烈な脱力感と寒気に、気が遠くなっていった。

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