赤い髪のリリス 戦いの風 〜世継ぎの王子なのに赤い髪のせいで捨てられたけど、魔導師になって仲間増やして巫子になって火の神殿再興します

４６、風の王女

「お母ちゃま！フェリアに力を貸して！お母ちゃま！」

ビョオオオ！！

突如突風（とつじょとっぷう）が辺りに吹き荒れ、フェリアの輝く姿を中心に大きく巻いた。

風は渦（うず）となって高く巻き上がり、襲（おそ）いかかる兵たちをはねのける。

「フェリア！」

ビョオオオオオゴオオオオオオオオオ！！

風がどんどん強く、目も開けていられない。

襲っていた兵達は、風に巻き上げられてどこかに飛んで行ってしまった。

「フェリア！フェリア！」

「王子！ふせて！」

叫ぶレスラカーンにライアが覆（おお）い被（かぶ）さって地に伏（ふ）せた。

閉じた空間が風に引き裂（さ）かれ、フェリアを包む輝きが空にどんどん大きく伸びて行く。

そして花開くように、空いっぱいに風の精霊の王女たる姿のフェリアが白い姿を現した。

それは城を包み込むように大きく、ゆっくりと風をまとい弓なりに身体を後ろに倒し、そして身を起こして城を包み込む。

その顔は白く輝くほどに美しく、金の瞳が城の敷地（しきち）を見回す。

彼女の怒りはその足下に更に風を激しく巻き起こし、人々はただ突然の強風を耐えるしか無かった。

「あ、あれは何ぞ！ザレルよ！一体何だ！この風は！」

「宰相殿（さいしょうどの）お伏せ下さい！」

「危ない！」

巻き上げられないようにそれぞれがその場に伏（ふ）せ、慌てて何かにつかまる。

宰相（さいしょう）の側近（そっきん）が、立ち尽くす彼を庇（かば）いながら急いで柱の陰（かげ）へと移動した。

ザレルは呆然（ぼうぜん）と変貌（へんぼう）した我が子を見上げ、そしてその足下に目を移した。

レスラとライアが必死に地に伏（ふ）せ耐えている。

はっと我に返り、思わず駆け寄り両手を空に掲（かか）げた。

「フェリア！心を納（おさ）めよ！このままではお前の友人を傷（きず）つけてしまう！

フェリア！」

ザレルの声が、風にかき消される。

風の精霊がしかし、その声を精霊の王女の元へと届けた。

「ひっ！あ、あれは！まさか！」

塔の井戸で術をかけていたメイスが、突然の強風にのぞき込んでいた井戸にしがみつきながら顔を上げ、思わず空を見上げる。

目前に、空を覆（おお）うフェリアの白く美しい成人した顔が迫（せま）る。

その巨大な姿に地面を這（は）いながら後ろに下がり、風を巻きながら自分にゆっくりと向かってくる白い手に恐怖した。

「まさか！見つけたのか！私を？！」

メイスの眼前に白く巨大な手が迫る。

しかし、恐怖に足が動かない。

その手は自分を握（にぎ）りつぶすのだろうか？

それとも風に巻き上げ引きちぎるのだろうか？

「馬鹿な！馬鹿な！」

ガクガクと身体が震え、風の音に任（まか）せて悲鳴を上げる。

叫びを上げて、頭を庇（かば）いながら小さく身体を丸めた。

その時、

目前で、その白い手が止まった。

フェリアの身体が大きく揺（ゆ）らぎ、両手で顔を覆（おお）って後ろに倒れて消えてゆく。

その隙（すき）を突くように、メイスが泣きながら慌てて塔の中へ逃げ込んだ。

巻き上げる突風がかき消され、空にそびえる白い姿が小さくしぼみ、空からゆっくりと小さな身体のフェリアが落ちてくる。

ザレルが駆け寄り、その身体を受け止めて懸命に揺り動かした。

「フェリア！フェリア！」

目を閉じた娘は目を覚ます気配もなく、身体には力を感じない。

胸に耳を当て、息をしているのを確認してほっと胸を降ろした。

「フェリアは？フェリアはどうしたのだ！」

髪を乱したレスラがライアの手を借りて立ち、ザレルに手を伸ばす。

「娘は無事です。おけがはありませんか？」

「私は無事だ。フェリアはどうなったのだ、声が聞こえぬ。」

「王子、少女はこちらに……」

伸ばす手をライアがフェリアのほおに導（みちび）く。

「おお、フェリア、お前が私を助けてくれたのか。

すまぬ、私はお前を守ることが出来なかった。

ふがいない私を許しておくれ。」

レスラカーンの目から涙が落ちる。

そのとき、フェリアがうっすらと目を開いた。

「レスラ……良かった……あいつ、…………見つけた……の……お父ちゃ………捕（つか）まえ………」

「フェリア！」

フェリアの身体が、薄く透（す）ける。

消えてしまう！フェリアが消えてしまう！

ザレルがギュッと抱きしめ、空へ、国中へ聞こえるかのように、大きく叫んだ。

「セフィーーーリアーーーーー！！！」