エピソード5 ディナーは腹の探り合いでお腹いっぱい
季節は本格的な秋となり、窓を開けると冷たい風が入ってくる。
窓から庭園を覗くと、庭師さん達が樹木の枝葉を剪定しており、厳しい冬を乗り越える準備として日光が当たるようにしていた。
寒い朝には温風機が恋しくなる。でも暖炉も良いよね。近くに寄らないと暖かくないけどさ、ピザ焼いたりマシュマロ焼いたりできるし燻製作りもいいなぁ〜 絶対怒られるけどね。
今日は昼からイーサン兄さんと勉強し、その後夕食まで厳しい訓練を受けた。訓練中たまにだけど、イーサン兄さんの指導に
「イエッサー!」
と条件反射で敬礼をしていた。
そんな姿にヒュンメルは苦笑していた。
訓練も終わりイーサン兄さんと木の影で一休み中に少し雑談をした。
「スノウは剣の素質があるのに、どうして頑なに訓練を嫌がるの」
「兄さん、ボクは相手を傷つけたりするのが嫌だよ。痛いもん」
「スノウは優しいんだね。じゃあ考え方を変えてごらん。相手を傷つけるのではなく、大事な人を守る為に剣の訓練をしていると思えば良いんじゃないかなあ」
やっぱりイーサン兄さんは凄いや。
オレを否定する事なく上手に褒めてくれる。
まるでやる気スイッチを押してくれる家庭教師のような存在だ。
イーサン兄さんと話し込んでいると、既に夕日が差し込み茜色の空がいっそう濃くなっていた。
オレは急いで部屋に戻り、汗で汚れた身体を拭き服を着替えた。
さぁ、お腹は空いたが楽しくない夕食の時間だ。
母さんと一緒に廊下を歩くが、オレは足取りが重くなる。イーサン兄さん以外のダイアナ親子が苦手だからなぁ。
「はぁ〜」
オレはため息をつきながらダイニングルームに到着した。
扉を開けると、よくテレビで見る長過ぎるテーブルがあった。
その奥には、肩まで伸びた黒髪の強面で屈強な体格をしているマスクウェル帝王(四十歳)が厳しい表情でこちらを見ていた。
「遅いぞ! 一体何をしていた。」
「すみません父上」
七歳の息子にそんな顔を向けたらダメだよ。
普通なら泣いちゃうよ。
「陛下すみません、私がスノウに伝えに行くのが遅くなり、ご迷惑をかけました」
すぐ母さんがフォローしてくれた。
すると、父上の先程の厳しい顔が和らぎ
「其方が謝る事は無い。私もキツく言い過ぎた。スノウは七歳の割に大人びたところがあるので、ついつい口調も強くなってしまった。ヴァネッサよすまぬ」
おい!
オレと対応が違うぞ! デレるな父親よ!
ダイアナ王妃とマキシムの顔を見てみろ!
般若のような形相だぞ!
おかげさまで少し重苦しい雰囲気の中でのディナーが始まった。
父上を中心にダイアナ親子側と母さんとオレ側に席が分かれる。
先程のやり取りに心証が悪かったのか、さっそくマキシムから先制口撃を受けた。
「最近イーサンと訓練しているようだが、こっぴどくやられているらしいな。使用人達にあまり無様な姿を見せるな。オレも流石に半分だけ血が同じ兄弟として恥ずかしいぞ。一度見に行ったら情けない声を出していたが、貴族等に見られた王族としての品位を疑われるぞ」
ニヤニヤしながら言ってくる。
ダイアナ王妃も口角が上がっており、良い気味ねと言わんばかりの表情だった。
「スノウはイーサン兄様に甘え過ぎなのよ、イーサン兄様が困っているのが分からないのかしら、本当に自分勝手なのよね」
そう発言するのは、斜め前に座っているダイアナ王妃の娘ダリア王女(九歳)である。
ダイアナ王妃に似た顔立ちの黒髪ミディアムツインドリラーだ。待望の女の子のため、両親から甘やかして育てられ性格はワガママな暴れ馬だ。
大好きな兄達との時間を取られご機嫌斜めなんだろう。
唯一イーサン兄さんは申しわけそうな顔をしており、それだけでオレは癒された。
「スノウ、体調はどうだ」
突然父上から話が振られた。
「体調は回復しており、今はイーサン兄上に勉学や剣術等を教えていただいてます」
「そうか」
表情を変えず、一言だけのバリトンボイスがダイニングルームに響いた。
そして父上は少し考える素振りを見せて、
「何か我に申したい事はあるか」
とオレに聞いてきた。
チャンスターイム!
オレは常々思っていた。
城内ではなく、城下町にはどんなファンタジーに溢れているのかを!
「父上、一つだけお願いがあります」
「申してみろ」
「城下への外出許可をいただけないでしょうか?」
「ふむ…………何ゆえそのように願うのだ」
父上の興味は引き出す為に、ここは言葉を間違えてはいけない。
「書物からの情報では学びは深まりますが、実際に見た事がないのでイメージばかりです。ですので城下に出向いて民の暮らしを見て確かめたいと思います。多くの事を見聞きし視野を広げる事やそこで生活する民達の不平不満等に耳を傾けて、より良い帝国の発展のアイデアを見つければと思います」
吉と出るか凶とでるか、一瞬の静寂に緊張してゴクッと唾を飲み込んだ。
「ほう……面白いではないか。イーサンも十一歳の頃に城下町に外出したいと申して許可を出したやったからな。よし! イーサンが外出する際にスノウも付いて行くがよい」
父上は面白いものを見つけた様に、ニャッと笑みを浮かべていた。
オレはホッとしていたので、ダイアナ王妃とマキシムの苦虫を噛み潰したような表情に気付く事ができなかった。
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