第9話:生贄女王

「女王陛下、どうか、どうか、どうか王を人間にお戻しください。

 もう二度と女王陛下に無礼非礼は行いません。

 コンプトン王国を代表しやお約束いたします」


 コンプトン王国の全権大使が床に身を投げ出して懇願しています。

 王城に乗り込んで、城内にいる人間全員を豚に変化させたのが、よほどこたえたのでしょう。


「狂竜の生贄という、人類を滅亡させかねない重大な役目を邪魔した、愚かで恥知らずなコンプトン王国を信じる事など出来ません」


「陛下、女王陛下、どうかお慈悲を」


 コンプトン王国全権大使が近衛騎士達に引きずり出されていきます。

 大使の願いは聞けませんが、コンプトン王国を滅ぼす気はありません。

 何の罪もない民を戦に巻き込んで殺す気などありません。

 コンプトン王家直轄領を、新生パジェット王家の直轄領とするだけです。

 

「おい、バカ、早くつがいを決めて奈落に来い」


 狂竜が念話で急かせてきますが、約束は守ってもらいます。


「本当に愛する人間を見つけるまでは、人間の世界にいてもいいのでしょう。

 私が奈落に行くまでの間は、代わりのつがいを送ったでしょ」


「あんな醜悪な性根のつがいなど見るのもおぞましい。

 早くつがいを見つけて入れ替わるのだ」


「元々あの女が陛下の生贄だったのだから、文句を言わないで」


「だが実際に生贄として送られてきたのはお前だ。

 今更交代は許さん」


「交代するとは言っていないわよ、陛下。

 ですが陛下自身が言われた、好きな相手とつがいにさせているという言葉と、望む者には人間の世界でつがいを探させてやっているという言葉は、守ってもらいます」


「うぬぬぬぬ、性悪め」


「お褒め頂きうれしく思います、狂竜陛下」


 さて、適度に狂竜と話して、時々人間界に来てもらえば、隣国に対する牽制としては絶大な効果があるでしょう。

 愛する人ができて、父王に王位を継いでいただく時にも、狂竜の後ろ盾があれば、隣国も手出しはしないでしょう。

 問題はこの状況で私が人を好きになれるかですが、こればかりはやってみなければどうなるか分かりません。


「覚えていろよ、お前がメロメロになるようなつがいを連れて来てやるからな」

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従妹に婚約者の王太子を奪われた上に、竜聖女の役割を果たしていないと狂竜の生贄にされました。 克全 @dokatu

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