第6話:口喧嘩

「ふん、余は一度もそのような事は言っておらん。

 人間が勝手に言っている事だ」


「では、花嫁はどのような扱いをされるのですか」


「バカめ、さっきから言っておるではないか。

 余の無聊を慰めるのだ」


 バカ、バカ、バカと何度も言うな!

 その無聊を慰める具体例が聞きたいのですよ。

 そんな事も分からない、お前の方がよほどバカです。


「愚かで申し訳ありません。

 花嫁と言うのが、勝手に人間が言っているだけというのは分かりました。

 しかしながら、具体的な陛下の無聊を慰める方法が分かりません。

 もっとバカにも分かる言い方で教えてください」


「ふん、本当にバカは仕方がないな。

 よかろう、教えてやろう。

 育てるのだよ、生贄に差し出された人間を、ここで育てて愉しむのだ」


「そんな、そんなひどい事をしているのですか」


「何がひどいのだ、人間も同じ事をしているではないか。

 お前は今まで何も飼ったことがないと言うのか。

 犬や猫、鳥や魚を飼ったことがないと言うのか。

 お前は飼った事がなくても、農民は牛や馬、羊や山羊を飼っているではないか」


「それは、確かにそうではありますが……。

 私も犬や猫を飼った事があります。

 城の庭園では、鳥や魚も飼っていました。

 ですが人間を飼うなんて、ひど過ぎます。

 人間には犬や猫にはない知性があります」


「ふん、余から見れば人間も犬も猫も、知性に大した違いはない。

 自分が犬猫を飼うのがよくて、余が人間を飼うのが駄目などというのは、人間の身勝手さの表れであろう」


 悔しいですが、言い返せません。

 確かに私のやってきた事を考えれば、人間が足元にも及ばない強大な力と英知を持つ狂竜が、人間を愛玩動物として飼うのはしかたがないことかもしれません。

 ですが、犬猫のように可愛がるのならともかく、羊や山羊のように食べるのだけは、止めさせなければいけません。


「陛下の言われる事は理解できました。

 ですが人間を食べるのは野蛮なのではありません」


「ふん、人間のお前がそれを言うのなら、人間がオークやミノタウロスを食べるのも、恐ろしく野蛮なのではないか。

 いや、羊や山羊を食べるのも野蛮であろう」


「それは、それは、それは……」


「まあ、よい、人間の身勝手さも醜さも今に始まった事ではない。

 今さら何を言っても人間の醜悪な性質が直るわけではない。

 だが一つだけはっきりさせておくぞ。

 余は人間とは違うのだ。

 飼っている人間を食うような悪趣味はない」

 

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