第4話:狂竜

 まだ誰一人最後までたどり着けていない、底の知れない大ダンジョン。

 途中にいると言われる狂竜が現れたのは百年ぶり。

 狂竜に生贄を捧げなければ一階層に降りる事もかなわない。

 真ん中にある巨大な大穴に飛び込んだのはいいですが、どのようなモンスターに喰い殺されることになるのでしょうか。


「クックックック、奈落に飛び込むとはなかなか威勢がいいではないか。

 それとも醜い人間の争いで放り込まれたのかな。

 まあ、よい、余にはどうでもいいことだ。

 これから百年、余の無聊を慰めてもらおうか」


 モンスターに食べられることなく、いきなり狂竜に出会えたようです。

 それとも、狂竜ではなくその手先なのでしょうか。


「貴男は狂竜なのですか」


「ふん、醜い人間共が余を何と読んでいるかなど興味はない」


「それは申し訳ありません。

 では質問のを変えさせていただきます。

 貴男はこのドラゴンダンジョンの主なのですか」


「ふん、人間がここを何と呼んでいるかなど余が知るものか。

 だが、聞きたいことは分かったぞ。

 確かに余がこの奈落の主である。

 余こそ奈落に住む全ても生き物を統べる大王である」


「お初にお目にかかります、大王陛下。

 わたくしはクレイヴン公爵家の令嬢、ベアトリクス・パジェット・ハーヴェイ・クレイヴンと申します。

 以後お見知りおき願います。

 陛下の御慧眼の通り、人間界の争いにより、陛下の生贄に捧げられました。

 できましたら陛下の温情をお願いしたいのですが、宜しいでしょうか」


「温情だと、命を助けてくれ、元の世界に戻してくれなどという願いは聞けんぞ。

 遥か古からの盟約で、百年に一度余に花嫁を送るという条件で、人間などという醜い生き物が奈落に入る事を許しておるのだ。

 人間が古からの盟約を反故にするというのなら、余も人間との盟約を守らず、人間を喰らい人間の世を餌場とする。

 それでもよいのだなな」


 それはさすがに困りますね。

 自分が生き延びたい気持ちは強いですが、その為に全ての人間を犠牲にはできませんし、そもそも元の世界に戻ったら私も食べられてしまいます。


「いえ、そのような事は望んでいません。

 私がお願いしたいのは、私を陥れた者達に対する復讐でございます。

 陛下の花嫁がどのような立場に成るのかは存じませんが、陛下の花嫁を陥れた者に対して、罰を与えてもらえないでしょうか。

 それとも花嫁とは、単に陛下に食べられるだけの者を指しているのでしょうか」


「バカめ、先程の話をもう忘れたのか。

 それとも簡単な言葉も理解できぬバカか。

 お前を食べてしまっては百年間暇すぎるではないか」


 ほんと、腹の立つ言い方をする奴ですね。


「では、百年間生きることになるのですね。

 それは理解できました。

 それで、花嫁を陥れた人間を復讐してくれるのですか、してくれないのですか」

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