第116話 「さぁ、答えなさい」
「お嬢様!お早く!」
「あ、ああ、うん」
今はまだ…夜中の三時くらいか。
まだ夜明け前だ。そんな時間にメイドに起こされる…一大事ね。
正直、ボクもかなりの異常事態なんだけど。
今すぐにボクと入れ替わってるであろうユフィールさんに会いに行きたいとこだ。
ボクは入れ替わりは二回目だから、まだ落ち着いてるがユフィールさんが上手く対処出来ると期待は出来ない。
ノルンが上手くフォローしてくれる事を期待したいとこだけど…なるべく早く行かなきゃ。
「ところで、何があったの?」
「はい。旦那様が突然血を吐き、苦しみだされました。当家お抱えの回復魔法使いが対応してる筈ですが…」
旦那様…ユフィールさんの父親で現ロックハート公爵家当主グレイル・ロックハート公爵か。
血を吐いて、苦しみだした…突然と言ってるあたり、以前から病にかかって身体を悪くしてたわけではない、か。
「ぐっ、ぐううぅ!」
「あなた!あなたしっかり!」
「父上!おい、医者はまだか!」
「薬師も呼べ!叩き起こせ!」
「グレイル…気をしっかり保て!」
ここは公爵夫妻の寝室だろう。
血で赤く染まったままのシーツに寝かされ苦しんでいる髭の有る男性がグレイル・ロックハート公爵。
公爵の手を握って涙目の女性が公爵の妻でユフィールさんの母親で…確かモナ・ロックハート公爵夫人。
公爵の左右に分かれて心配そうにしてる若い男性二人がユフィールさんの兄。
長兄のユリアン・ロックハートと次兄のライアン・ロックハート。
二人共、母親似らしい。
最後にモナ夫人の反対側で公爵を励ましてるのが前ロックハート公爵のキャリガン・ロックハート。財務大臣を務めた事もある賢主だ。
他に回復魔法使いと使用人が数人、グレイル公爵を囲んでいる。
「おお、ユフィール!早く、グレイルの傍へ!」
「はい」
グレイル公爵の顔色は悪い。
大粒の汗をかき、シーツを掴み苦しみ藻掻いている。
血を吐いた跡があるが、それは一度だけのようだ。
外傷は無い…病?いや、違うな。
胸のあたりに、グレイル公爵でも回復魔法を使ってる魔法使いのものでもない、第三者の魔力を感じる。
これは…呪いだな。
何者かが公爵に呪いをかけている。
しかし、さほど強力な呪いでもない。
簡単に解呪出来るな。
「どいてください。代わります」
「え?お、お嬢様?」
「ユ、ユフィール…代わるって、あなたは魔法が…」
「公…お父様は病でも何処かを負傷したわけでもありません。これは呪いです」
「呪いだと!?」
「そんな…一体誰が!」
「いや、兄さん、そんな事よりも!呪いならば解呪の魔法が使える神聖魔法の使い手を呼ばなくては!」
呪い…これも魔法の一種だ。
呪いの魔法が籠められた魔法道具を使ったり儀式を用いて対象に呪いを掛ける。
どちらも対象を短時間に死なせる呪いは程度が低い。
呪いとは対象を苦しめる事が目的の魔法なので、長く苦しめるタイプの呪いの方が難度が高い。
「だから、ボ…わたしがやります」
「ユフィール…今はお前の強がりを聞いてやれる時ではないんだ。おい、急ぎ神聖魔法使いを…おお!?」
「ユ、ユフィール!?お前、本当に魔法を!?」
「
ユフィールさんが魔法を使えないのは知っていた。
だから、今魔法を使うのは別人ではないかと疑いを招く事になりかねないのは承知の上だけど…仕方ない。
人命が最優先だ。
「ぐ…スゥースゥー」
「あ…顔色が良くなって…」
「呼吸も落ち着いてます…ユフィール、本当に父上は完治されたのか?」
「はい。病でも傷を負ったわけではなく呪いなので、完治というのは間違いかもしれませんが、兎に角、もう心配はないと思います」
「お、おお!でかしたぞ、ユフィール!」
「流石我が孫!」
「お前がいつの間に神聖魔法を習得してたのかわからんが、本当によくやった!」
「あ、ちょっと、うぶ!?」
ユフィールさんの祖父と兄二人に代わる代わる抱きしめられもみくちゃにされてしまった。
ロックハート家の愛情表現はスキンシップ多めなんですね…ん?
「………」
ユフィールさんの母君…ロックハート公爵夫人に何か見られてる。
疑ってるような、探ってるような視線…もしや中身が違うとバレた?
「…御義父様、呪いを掛けた犯人を見つけなくては。グレイルはまだ暫くは動けないでしょう。代わりに指揮をお願い致します」
「お、おお、そうじゃな。ユリアンにライアン。二人も来い」
「「はい」」
「ユフィールは休んでいてよいぞ。頑張ったからのぅ。後でお祖父ちゃんが褒美をあげるからのぅ」
「あ、はい…」
「お兄ちゃんも御褒美あげるからな!」
「期待してろよ!」
…ユフィールさんの話から先代のロックハート公爵…祖父がユフィールさんを溺愛してるのは推察出来たが、どうやら兄二人も妹を溺愛してるらしい。
すっごいニコニコ顔で頭を撫でてから部屋を出て行った。
…ボクには祖父母も兄も居ないからわからないが、これは溺愛と言って差し支えないんじゃないだろうか。
「…じゃあ、わたしも失礼します。おやすみなさい」
「…ユフィール」
「はい?」
「後で貴女の部屋に行くわ。起きて待ってて頂戴」
「…はい」
…やっぱりバレてる?
どうするか…誤魔化すべきか、正直に話すべきか。
…バレてたら正直に話すか。
ただし、入れ替わってる事のみ、だ。
アイシスさんとの事やLVに称号なんかは黙っておこう。
さて…ユフィールさんの部屋はこっちだったかな。
「よし。先ずは現状の確認だ。ステータスオープン」
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ユフィール・ロックハート LV32 状態:接続 (ジュン・アイシス)
性別:女
職(身分):拳士(アデルフォン王国公爵令嬢) 賞罰:無
年齢:十四歳
称号:闘姫
アビリティ:体術LV8 全魔法LV1 マインドリンク
能力値:HP9999+ MP9999+
物理攻撃力9999+(0)
魔法攻撃力9999+(0)
物理防御力9999+(5)
魔法防御力9999+(5)
力9999+ 魔力9999+
体力9999+ 器用さ9999+
知力9999+ 精神力9999+
速さ9999+ 魅力1520
----------------------------------------
んんん?
状態が接続でボクの名前は予想通りだけどアイシスさんの名前まである?
あ、いや…そう言えばいつもと同じ感覚で魔法が使えたな。
という事はアイシスさんの『アビリティリンク』の能力で『全魔法LV10』を使えているという事だ。
ユフィールさんは魔法が使えなかったようだし、『全魔法LV1』があるのはさっきボクが魔法を使って獲得したのか。
なら、今回の入れ替わりはボクの『ステータスリンク』とユフィールさんの『マインドリンク』の
ボクとアイシスさんの入れ替わりにユフィールさんが巻き込まれた?
もしくは『アビリティリンク』『ステータスリンク』『マインドリンク』の三つで
…情報が足りないな。
兎に角、朝になるのを待って、出来るだけ早くアイシスさんとユフィールさん、二人と合流しないと。
………いや、もしかして?
[アイシスさん、アイシスさん。聞こえますか]
[…うふうん…ダメだよ、ジュン~そんなとこさわっちゃ……ダメえ~ん]
…聞こえたな。
やはりマインドリンクで精神も繋がった状態だ。
今のが寝言なのか返事なのかはわからないが。
なら…
[ユフィールさん、ユフィールさん。聞こえますか]
[………ふあ?………ジュン?]
[そうです。起きてください。起きて、落ち着いて周りを見回してください]
[………………どこ、ここ]
[そこは恐らくボクの…いや]
アイシスさんも接続状態にあるという事はユフィールさんがボクになってるとは限らないか。
三人が入れ替わっているというなら、ユフィールさんはアイシスさんになってるのか?
[…周りに何が見えますか?]
[……誰か寝てる。ここ、わたしの部屋じゃない]
誰か寝てる?誰…ああ、アイシスさんとティータさんは相部屋だったか。
なら、同じ部屋に居るのはティータさんだな。
[その人、武芸大会でボクやアイシスさんと一緒に居た人じゃないですか?名前はティータさんです]
[……ほんとだ。なんでわたし、この人と同じ部屋で寝てるの?]
[それはですね…]
あれ?昼間はマインドリンクで繋がって考えてる事が全て伝わっていたのに、今は普通に会話してる状態だな。
それに、あの時は距離が離れると声が聞こえにくくなった。
ボクは王都のグラウバーン家の屋敷で、アイシスさんは王城の白天騎士団本部の自室で寝てた筈。
三人共王都内に居るとはいえ、そこそこ距離が離れている。
それなのに心の声が鮮明に聞こえて、尚且つ伝えたい事だけ伝える事が出来るようになってる。
…マインドリンクの能力が向上してる?
これも
[………ジュン?]
[あ、すみません。ええと…落ち着いて聞いてください。非常事態です]
[……非常事態?]
[はい。先ず、鏡を見てもらえますか。落ち着いて、決して騒がずに……ん?]
[ジュン?]
誰か来た?
ああ、いや、ロックハート公爵夫人…モナ様か。
[すみません、人が来ました。また直ぐに連絡します。鏡を見て、そのまま待っててください。決して騒がず、静かに]
[うん]
入って来たのはやはりモナ様。
一人で来たとこを見ると、危険視はされてないようだ。
「…さて、単刀直入に言いましょう。貴女は私の娘、ユフィールではありませんね?」
ズバッと来たな。
確信を持って言っているようだし、素直に認めて事情を説明するか。
やはり、こういう事態になったら事情を知って協力してくれる人物が欲しい。
例え、短期間の間でも。
「はい。ボクはユフィールさんでは………うわおう!?」
「娘は何処ですか。正直に答えなさい。娘の無事と、返答次第では覚悟してもらいます」
と、突然殴り掛かられた…公爵夫人という立場の人に似合わず、鋭い攻撃。
今のも単なる脅しじゃなく、避けなかったらそこそこのダメージを受けた筈だ。
常人なら。
「さぁ、答えなさい」
…素直に認めたの、失敗だったかな?
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