第115話 「ああ…そう来たか…」
「表へ出ろ!ユフィール・ロックハート!」
「……ない!」
「落ち着いて下さい、二人共!」
ヤバい…二人共本気だ。
もし、このまま決闘になんてなったら…ユフィールさんの命が危ない!
なんとしても止めないと!
[心配してくれるの?大丈夫。剣帝が相手でも勝って見せるから]
「え?」
ユフィールさんの声がハッキリと聞こえた?
何故…ユフィールさんの口は動いてない。
それにボクも口に出してない。
何故、ボクの考えてる事に返事が出来る?
「本当だ。ジュンの心の声がわたしに聞こえる。逆にわたしの心の声がジュンに聞こえる。どうして?」
まただ。
またハッキリとユフィールさんの声が聞こえる。
心の声が互いに聞こえる…心で会話が出来るようになってるのか。
魔法…じゃないな。
ならアビリティか。ユフィールさんが持ってるアビリティ?
[ううん。わたし、そんなアビリティは持ってない。隠れアビリティはあるけど…あ。出て来てる]
隠れアビリティ?
ユフィールさんも持っていたのか…それが原因か。
「おい、こら。表に出ろって。なにジュンと見つめあってるんだ、こら」
「アイシスは落ち着きなさい」
「そだよ。てか、アイシスに怒る権利無いよねー」
「私はいいの!でも他の奴はダメなの!」
「勝手な事を…それより、呼ばれてるわよ。サッサと行きなさい」
「今、外に出たら失格になっちゃうよ」
「くっ…またこのパターンか!待ってろよ!」
アイシスさんが試合してる間に状況を確認しないと。
ユフィールさんが持ってる隠れアビリティが表示されたんだろうか?
[うん。『マインドリンク』ってアビリティ。詳細は…]
【マインドリンク︰自身の精神と対象の精神を一時的に繋げ、心で会話が出来る。発動条件︰対象とキス】
…またか。またこのパターンか。
発動条件がキスの隠れアビリティは開示条件もキスって決まりでもあるのだろうか。
[また?前にもこんな事があったの?]
…ええ、まぁ。詳細は言えませんけどね。
取り敢えず、アビリティを解除して下さい。
ユフィールさんと会話がしやすいのは便利かもしれませんが、考えてる事が相手に筒抜けって、あまりいい気がしません。
[……]
あれ?もしもし?
何故、そこで黙るんです?
[……やだ。このままが良い]
「え?」
「ジュンさん?どうかしましたか?」
何で?この状況、あまり楽しく無いと思うけど…
[塾年の夫婦は何も言わずとも互いに理解出来ると聞いた。この状況、それに近い気がするから]
いや、かなり遠いと思います。
なんなら真逆とさえ言って良い気が。
[…兎に角!やだったらやだ!ぜっーたいに解除しないもん!]
もん、て…心の中じゃ可愛い言葉使いなんですね。
[え…やだ、可愛いなんて…]
…ほらー考えてる事が相手に丸分かりなんて良いこと無いですって。
状況によっては使えるアビリティだとは思いますけど、常時繋がってるのは辛いですよ、間違い無く。
知りたく無い事だって知る事になるし、知られたく無い事だって知られる事になりますよ。
[うう…い、良いの!わたしには知られて困る事は無いし、ジュンの事は全て知りたいから!]
そんな自分勝手な。
ボクには知られたくない事があるのに。
ボクの意思はどうなるんです。
[大丈夫!わたしはジュンがどんな事考えてても、どんな隠し事があっても嫌いになったりしないから!]
そーじゃなくて!
ユフィールさんがどう思うかじゃなくてボクが困るか困らないか、ですよ!
[う、うう…でも、だって…]
「たっだいまー!予選終了!本選出場決定!」
「おつかれーおめでとうー」
「おめでとう」
アイシスさんが本選出場を決めて帰って来た。
それで機嫌を良くしてたりは…
「さぁ!ユフィール・ロックハート!表へ出ろ!」
なかった。
どうしよう…あ、ユフィールさんはまだ試合が残ってたり?
[しないよ。わたしも本選出場決定してる]
ダメか。
…取り敢えず、ユフィールさんがアイシスさんに勝つのは不可能ですから。
勝てない理由があるから。
絶対に決闘とかしちゃダメですよ。
[どうして?確かに相手は剣帝、強いのは間違い無いけど、わたしだって強い。やってみなきゃ…]
「やってからじゃ遅いんですよ!聞き入れてください!」
「うわっ!びっくりしたぁ!突然なに?」
あ、しまった。
つい、実際に大声を出してしまった。
[う…うわああん!ジュンが怒ったぁぁぁ!]
「え?あ、ちょっと!ユフィールさん!」
ユフィールさんが走り去ってしまった。
速い…まだ出場選手が大勢いる中、スイスイと間を縫って。
て、感心してる場合じゃなくて!
ちょっとユフィールさん!帰る前にアビリティを解除してくださいよ!
[…だ……もん]
ダメか。
まだ繋がってはいるけど、距離か遠いと聞こえにくくなるのか?
…なら、今日は良しとするか。
あの様子じゃ冷静に話し合えそうにないし。
「何だ、あいつ。泣きながらどっか行っちゃったぞ」
「アイシスがイジメ過ぎたんじゃないの?」
「にゃにおう!喧嘩売って来たのはアイツだぞ!」
「…そうかしら?どちらにせよ、問題にならければ良いけど」
問題…にはならないと思います。
ユフィールさんが泣いたのは別の理由なんで。
「…はあ。何だか気が抜けたな。試合も終わったし、帰ろっか」
「あたしの試合がまだだよ!」
「あ。そうだった」
「…まぁ、どちらにせよ、アイシスは帰る前にあそこに行って言い訳をした方が良いんじゃないかしら」
「あそこ?…う」
グラウバーン家のメイド達とラティスさん達団長陣が怖い顔してる。
此処まで殺気が届いて来そうな威圧感。
「早く行った方が良いと思うわよ」
「ティ、ティータも一緒に…」
「嫌よ」
「…ジュン?」
「ボクも嫌ですよ…」
「たまには自分で尻拭いしなよ、アイシス」
「うぅ…薄情者…」
観客席で平謝りするアイシスさんを背に。
レティさんが参加する弓部門の試合が始まった。
ただ弓部門は人気がない為、その時には観客もまばらだった。
そして何事も無く、全試合消化終了。
レティさんも本選出場が決定した。
「あーあ…何も帰らなくてもさ…そりゃ他の部門より地味だけどさ…」
「対人形式じゃないものね。仕方ないわ」
「アイシスさんは…まだ説教中ですね」
「こりゃ長引きそうだね」
「そうね…ジュンさんは先に帰ってください。アイシスが解放されるのを待ってると遅くなりますから」
「…そうします」
ボクも言い訳をしないとダメな相手が居ますし。
「……」
ノルンが見てる。凄い怖い眼してこっち見てる。
見てたならわかってると思うけど、ボクが望んだわけじゃないからね?
それから屋敷に帰って。
ノルンだけじゃなく、メイド隊全員から怒られた。
セーラさん達も追加で。
「罰として今日は私達全員と一緒に寝てもらいます」
「無理に決まってるでしょ…」
無理を言うメリーアン達を何とか抑えて。
一人でベッドに入って眠りにつく。
今日はいつもより眠い。
早く眠れそう…………zzz。
…………ん?
「……様!お嬢様!起きてください!一大事に御座います!」
お嬢様?…一大事って…セーラさん達に何かあったか?
いや…このメイドはボクに言ってる。
知らないメイドだ…で、ボクがお嬢様?
…このパターンは…何だか嫌な予感が。
「ああ…そう来たか…」
「お嬢様!鏡を見てる場合ではありません!早く旦那様の御部屋へ!」
鏡に写ったボクはボクではなく。
ユフィールさんが鏡の中からボクを見ていた。
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