第112話 「妙な視線を送ってるのはお前か」
「やめろ!俺は負けてない!」
「貴方の敗北は決定しています」
「貴方には不正疑惑もあります。このまま同行を」
「巫山戯るな!不正をしたのはアイツだ!離せ!俺は宮廷騎士でカークランド辺境伯家のナッシュだぞ!」
敗北が決まっても尚、見苦しく騒ぐナッシュ。
デカい声で家名と所属騎士団を宣伝してるけど、後でどうなるか、わかってんのかな。
知力99の私でも、拙い事になるってわかるぞ。
「これでカークランド辺境伯家もお終いかな」
「流石にそこまでの事にはならないわよ。ナッシュ自身がどうにかなるだけよ」
「どうにかって?」
「そうね…宮廷騎士団からは除名されるんじゃないかしら。カークランド辺境伯家から除籍…までは行かないかしらね」
あのおじさん、自慢の息子とかなんとか言ってたしなぁ。
厳しい罰は与えなさそ。
それどころか逆に運営員の対応に逆ギレして訴えとか起こしそう。
その時はジュンもか。
「…ナッシュの事はもうどうでも良いですよ。それより、そろそろ魔法部門と格闘部門が始まりますよ」
ジュンが不機嫌だな。
こんなにわかりやすく不機嫌なジュンは珍しい。
「…格闘部門では誰か知り合い出てるっけ」
「白天騎士団には居ない筈よ。私達も体術の訓練はしてるけれど、あまり人気のある部門でもないもの」
じゃあ…魔法部門の試合だけ見てればいいかな。
多分、私の相手になるような奴は居ないだろうけど。
「あ!見つけた!うおーい!魔帝!」
「ん?フィルちゃん?」
「と、ヒューゴ団長だー」
うちのバーラント団長やクリムゾン団長達と一緒に居ないなと思ってたら。
ヒューゴ団長が娘を連れて会場に来た。
「ヒューゴ団長。試合時間中は出場者と部外者の接触は基本的に禁じられてる筈では」
「そうなんだけどねぇ。フィルがどうしても魔帝に直接言いたい事があるって言うから。だからジュンちゃんの試合が終わってから来たのよん」
「あたしとアイシスの試合はまだですけどねー」
「大丈夫よん。ちゃんと運営員のボディチェックを受けて許可はもらったし。監視もちゃんと居るしい」
ヒューゴ団長の後ろで運営員が聞き耳を立ててる。
まぁ、監視なんて居なくても、他の出場者の眼があるし。
不正なんてしないけどね。
「ま、武芸大会は公正を謳っているしね。余計な接触は避けるべきなのは間違いないんだけど。だからフィル。早いとこ用事をすませちゃって。ほら」
「おう!えっとな…ま、魔帝!」
「何かな?フィルちゃん。今日のフィルちゃんはドレスなんだね。お嬢様っぽいね。可愛いよ」
「あう…あ、ありがと……じゃなくて!魔帝が優勝したら…フィルの子分にしてやる!だから…絶対優勝しろよな!」
うう~ん…子供の言う事だから軽く流すべきなんだろうけど。
だけど…何だか危機感が。
まさか六歳にして恋に覚醒めたのか!?
「アイシスがまた何かアホな事考えてる」
「そうね…今回は想像つくけど」
いや、今回はわりと真面目だぞ?
ある意味、今までで一番厄介なライバルになりそうな予感がする。
「アハハ。ありがとうね、フィルちゃん。でも子分かぁ…お友達じゃダメ?」
「え…と、ともだち?」
「そう。友達。ボクとお友達になろうよ、フィルちゃん」
「し、仕方ないな!でも魔帝が優勝したらだからな!フィルのともだちには簡単にはなれないんだからな!」
「うん。ありがとうね、フィルちゃん。頑張るよ」
あれ?何か、ジュンって子供の扱いに慣れてるな。
意外…でもないか?
「良かったわね、フィル。頑張っておめかしした甲斐があったわねえ」
「うん!…じゃなくて!頑張っておめかしなんてしてないもん!」
「何言ってるの。貴女、珍しく自分からドレス着るって言い出して。珍しい事もあるもんだなって、パパとママも驚いたものよ」
「うう…パパのバカ!は、早く帰ろ!」
「はいはい。じゃあね、ジュンちゃん。アイシスちゃん達も」
「はい。ありがとうございました」
娘に引っ張られて、ヒューゴ団長は退場した。
あの人も娘には甘いなぁ。
「ジュンちゃんモテモテだねぇ」
「アハハ。フィルちゃんはボクが好きなわけじゃなくて、お兄ちゃん的な存在が欲しいだけですよ、きっと」
「そうでしょうか?」
「どうしてそう思うの?」
「ボクがフィルちゃんくらいの歳の頃には兄妹が欲しいって思ってましたから。皆さんも思った事ありませんか?」
「あー、あたしは兄も姉も、弟も妹もいるしなー。思った事ないかも」
「私は…弟か妹が欲しかったですね。アイシスは…弟よね」
「え?そうだけど…何でわかった?」
「あたしにもわかったよ」
何故だ…解せぬ。
いや、そんな事よりも、だ。
「機嫌治った?ジュン」
「え?…ああ。はい」
「なら良かったねえ。ナイスタイミングだったね、ヒューゴ団長。いや、フィルちゃんかな?」
「だね。ジュンが不機嫌なまま応援されるのもなんだか嫌な感じだしね」
「あー…機嫌が良くなった所をすまない」
「え?」
「今度はロイエンタール団長?」
ヒューゴ団長の次はロイエンタール団長か。
一体何の用…いや、さっきのナッシュの件かな。
「ナッシュ・カークランドの不正疑惑について、ジュン・グラウバーン男爵殿に話をお聞きしたい。それから、ティータ・フレイアル殿にも、ペーター・トンプソンから不正を持ち掛けられた件についても確認させて欲しい。ついて来てくれるかな」
「この程度の案件に黄天騎士団の団長自ら?」
「仕方あるまい。武芸大会の不正の監視は黄天騎士団の管轄になっているのだから。それに、確かに事件としては小さいが、辺境伯と公爵家の人間が絡んでるとなればな」
「どの程度の罪になりそうなんですか?」
「ペーター・トンプソンは自ら自首して来たし、実害は無かった。厳重注意と罰金で済むだろう。トンプソン伯爵がどのような罰を下すのかはわからないが」
「…ナッシュはどうなります?」
「彼の罪はそこそこ重い。実は魔法道具を用意した運営員の一人が保護を求めていてね。ナッシュに脅迫されて、故障した魔法道具を渡したと。ジュン殿が不正を暴かなくとも彼の逮捕は決定していた。試合に間に合わなくて、すまなかった」
そんな事してたのか、あいつ。
黄天騎士団のお膝元で…バカな奴。
「加えて彼は宮廷騎士。彼を宮廷騎士に任命した人物も責任を問われるだろう。具体的な罰は…宮廷騎士団から除名の上、犯罪奴隷行きか、多額の罰金か。カークランド辺境伯家からの除籍も命じられるかもしれないな」
つまり…ナッシュは平民になるのか。
高慢なアイツには最も辛い罰になるかもな。
「兎に角、詳しく話を聞きたい。ついて来てくれたまえ」
「はい」
「わかりました。すみません、アイシスさん。試合には間に合わないかもしれません」
「いや…ジュンが悪いわけじゃないから」
悪いのはアイツ…ナッシュだ。間違い無く。
「それではこれより、魔法部門と格闘部門の予選を開始する!名前を呼ばれた者は前へ!」
始まったか。私の最初の試合には間に合いそうにないな。
「ん?」
「どしたの、アイシス」
「いや…」
まただ…何処からか妙な視線を感じる。一体誰だ…?
「次!ユフィール・ロックハート!」
審判に呼ばれた一人の少女が舞台に上がる。
そして、その少女は私を見てる。
「妙な視線を送ってるのはお前か」
「……」
無視かい。
しかし…ロックハート?
何処かで聞いた事があるような?
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