第108話 「挑戦状?」
『――余からは以上だ。皆が鍛え上げて来た技を余に見せてくれ。期待している。では武芸大会の開催を此処に宣言する!』
「「「ワァァァァァァ!!!」」」
「ハッ…終わった?」
「アイシス…陛下の演説中に寝るなんて…」
「団長にバレたら大目玉だよ。…あたしもヤバかったけど」
「アハハ。ボクも気持ちはわかりますよ」
だよね。
偉い人の話ってどうも長くていけない。
どうしても眠くなるし…睡眠魔法でも掛けてるんじゃないだろうか。
「さて先ずは予選だけど。誰が最初に呼ばれるかな」
「私かジュンさんね。先ずは剣部門と槍部門の予選からだから」
「あたしの出番が最後なのは確実だね」
「弓部門は他の部門とは形式が違いますからね」
剣や槍、魔法なんかは対戦形式だが弓だけは競技形式。
的を用意し、どれだけ正確に、どれだけ遠距離から的に当てる事を出来るか競う。
だからまぁ…他の競技に比べて、地味だ。
他の競技は共通して運営側…国が用意した訓練用の武具を使用する。
そしてこの武芸大会の為に用意された魔法道具を身に着ける。
この魔法道具は本選でも使用され、予選では三個。本選では五個身に着ける。
身に着けた場所に攻撃が当たると、魔法道具が赤く光る。
身に着ける場所は予選は胸と両腕。本選では両脚にも付ける。
相手の魔法道具を全て光らせる事が出来れば勝利だ。
相手を死に至らせる事は禁止されている。
「ダイナさんが出れないのは残念でしたね」
「だねぇ。まぁその代わり賭けには参加出来るから」
「ダイナさんはギャンブルが好きなんですか?」
「あんまりやらないかな?」
「確実に勝てる勝負しかしないよね、ダイナは」
「意外と堅実だものね。ジュンさんとアイシスにしか賭けないって言ってましたよ」
「………確実じゃないと思いますけど」
心配性だなぁ、ジュンは。
バーラント団長に勝てる時点で武芸大会じゃ敵なしなのに。
「おい、あんた。剣帝アイシス・ニルヴァーナだな?」
「ん?アンタだれ?」
恰好からして冒険者か?知らない男だ。
もしかしてナンパか?武芸大会で。
「俺様はノーグ。近々S級冒険者になる予定の男。そして、あんたを倒す男だ」
「あっそ。それで何か用?ナンパなら御断りだよ」
「ちげえよ。此処に居るって事はちゃんと挑戦状は受け取ったみてえだな」
「挑戦状?」
何の話……ああ。
そう言えば昨日、新しい屋敷で雇った執事が言ってたっけ。
旧ニルヴァーナ邸に届いていた手紙の中に私宛の挑戦状があったとかなんとか。
興味無いから無視したけど。
「あれ、あんたが書いたんだ」
「おうよ。俺様の剣は天下無双よ。あんたに勝って七天騎士団に入るてっぺんまで一気に駆け上り大貴族の仲間入りを果たす!それが俺様の野望よ」
「ふうん。精々頑張りなよ。私には関係ないし」
「ああ?何を覇気のない事言ってやがる。剣帝なら堂々と……あんた、美人だな」
「は?言われなくても知ってるけど?」
「よし。あんた、俺様の女になれ」
「は?嫌だ。気持ち悪い」
「女は強い男に従うもんだぜ」
「…はぁ。じゃあアンタが武芸大会で優勝出来たら考えてあげる」
「それでいいぜ。どうせ優勝は決まってるんだからな!じゃ俺様と当たるまで負けるんじゃねえぞ、剣帝!」
私は魔法部門で出場だけどね。
まぁ教えてやる必要もない。言ったら面倒くさい事になりそうだし。
「いいんですか?アイシスさん。あんな事言って」
「へーきへーき。どうせジュンが居るんだから、優勝出来っこないって。どう見てもザコだったし」
「仮にもA級冒険者だよ?それをザコ呼ばわり…」
「それに剣帝相手に勝てると豪語出来るあの自信。何かあるのだと思うわ。『剣術』のLVが10に至っていなくても剣帝に勝てると思える自信が」
ん~…それを差し引いてもジュンが勝つな。
『剣術』以外の全てジュンが圧倒してる筈だし。
「ジュンだってあいつに負ける気しないでしょ?」
「…まぁ。何とかなるかと」
「お。ジュンちゃんも凄い自信」
「…ジュンさんなら、油断はしないと思いますが、十分に気を付けて――」
「次!ティータ・フレイアル!」
おっと。どうやら私達の中で一番最初の出番はティータみたいだ。
「出番みたいね。行ってくるわ」
「いってらー」
「瞬殺して来い」
「お気をつけて」
ティータの対戦相手は…知らないおっさんだ。冒険者…かな?
「あ!アンタは!姐さんの同僚の!」
「は?姐さん?…ああ、もしてかしてストークの」
「へい!元ストークのスラムの用心棒でがす!」
…………ああ。
旧ニルヴァーナ邸の前で騒いでたおっさん連中の一人か。
「あんたが居るって事は、やはり姐さんも此処に?」
「ええ、まぁ…居ますけど」
「やっぱり!じゃあ早く探しに行かないと!」
「その前に早く試合を始めたまえ!」
審判のおじさんに怒られてようやく試合開始。
そして即終了。
「…え?アレ?もう終わり?」
「ありがとうございました」
あまりに一瞬で決着が着いた為に対戦相手のおっさんは何が起きたか理解してないようだ。
ま、私にはちゃんと見えてたけどね。
「おつかれ。瞬殺だったね」
「調子良いみたいじゃん」
「ええ。それよりアイシス、隠れた方が良いわよ。あのおじさん達に探されてるみたいだから」
「そう言われてもなぁ。隠れる場所なんて無いし、ヴィスはダイナに預けてるし」
「じゃあ変装するしかありませんね。帽子とサングラスならありますよ」
「……逆に目立たない?それ」
「アイシスの長い金髪は目立つから、髪を隠しましょう。髪を纏めてバンダナで隠せば大分目立たなくなるわよ」
「う、うん」
髪をイジるのって苦手なんだよね……面倒くさくて。
「手入れもあまりしてない割には、凄く綺麗な髪だよね」
「どういう身体の構造してるのかしらね、全く」
「身体の構造は関係なくないか?」
髪型を変えてバンダナを付けて、ついでに何故かジュンが持ってた伊達眼鏡をつけて、と。
これで完成だ。
「どう?」
「うん。良いんじゃない?」
「一見してアイシスだとはわからないわね」
「でも試合の時名前呼ばれるから、その時までの話だけどねー」
「あ」
そりゃそうか…ま、まぁ、いいか。折角やったんだし。
「次!ジュン・グラウバーン!」
大会の運営員がジュンの名前を呼んだ途端。
出場選手達にざわめきが走る。
ジュンの名前は広く知られていて、魔帝が剣部門に出てるなんて、誰も予想してなかったんだろう。
「出番のようですね。行って来ます」
「ジュン!気合いだ!気合い入れてけ!」
「此処で応援してるね」
「ご武運を」
ジュンが周りの視線を釘付けにしながら舞台に。
ジュンを見た選手達の反応は様々だ。
「あれが史上最年少で『帝』に至った少年…」
「でも、魔帝だろ?なんで剣部門で出てんだよ」
「知るかよ。自信があるんだろ。それにしても…」
「ああ。やべぇくらいに美形だな」
「アタシ、見ただけで濡れてきちゃった…」
「あたいも…」
変態か!?変態が居るぞ!だって今の全員男だし!
「魔帝…確か辺境伯家のお坊ちゃんだっけ」
「違うよ。今は陞爵して公爵家になったんだよ」
「しかも本人も男爵位持ち…将来安泰間違い無しじゃん」
「妾でいいからしてくんないかなぁ」
「ガサツなあんたじゃ無理無理」
女達はこんな感じだ。
ジュンを見たら、女ならそう思うよね。わかるわかる。
で…
「「「きゃああああ!ジュン様ー!」」」
「「「ファイトー!ジュン様ー!」」」
観客席からグラウバーン家のメイド達の応援だ。
メイド服じゃなくて、なんか手に毛玉みたいなのもってミニスカ着てる。
そんなんで脚あげたら見えちゃうぞ?
それと…
「ジュン殿ー!油断しないようにね!」
「ジュン君なら勝てるわー!落ち着いて臨みなさーい!」
「わたくしがついてましてよー!」
「美しい顔にだけは傷をつけないようにしたまえ!」
何故か団長達が集まってる。白天騎士団と一緒に他の七天騎士団も集まってて、皆ジュンを応援してるし。
あの一帯は皆ジュンの応援団だな。
さて、そんなジュンと対戦する可哀想な相手は…
「チッ。ちょっといい顔してるからって…」
「あ。あなたは…ストークの、えっと、ゴランさん?」
「あ?何でてめぇが俺の名前を知ってる?」
…またストークのスラムから来たヤツか。
さっきのヤツよりは強そうだ。ほんの少しだけ。
「あ、いや…」
「ふん。まぁいい。お前さんにはずっと言いたい事があったんだ」
「言いたい事?」
「ああ。お前、俺らの姐さんと良い仲らしいな。だがいいか!姐さんはお前にゃ渡さねーぞ!」
いや、もう遅い。私は既にジュンのだし。ジュンは私のだし。
てか、あんた無関係じゃん。部外者が何言ってんだ。
「そもそも姐さんは誰か一人の男のモノになるような器じゃねぇんだ!だから…」
「いい加減に試合を開始しなさい!」
ティータの時と同じように審判の人に怒られてる。
ジュンも因縁つけられただけなのに可哀想に。
「チッ…仕方ねえ。いくぞ、おらぁ!…あれ?」
「あ、もう終わりましたよ」
「な、なに?いつの間に背後に…って、あれぇ!?」
試合開始、即終了だ。
突っ込んで来た相手をすり抜けざまに攻撃。
一瞬で勝負を決めていた。
「お、おい…見えたか、今の動き…」
「全く見えなかった…何なんだよ、魔帝って…」
ふふふ…ジュンの快進撃は続くよ、何処までも!
何せ私がジュンを鍛えたんだからな!
「いや、鍛えたのは白天騎士団全員でしょ」
「そういう事にしておかないと皆が怖いわよ」
「特に団長がね」
…団長、本気なのかな。
可哀想だし、妻仲間に入れてあげてもいいんだけどさ…ん?
「どったの?アイシス。キョロキョロして」
「いや…何にも」
前にも闘技場でおかしな視線を感じたけど…こう人が多いとな。
気のせい…じゃないと思うんだけどな。
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